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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「僕は貴方を一生恨みます」
石田はそう言って現世に戻って行った。
今回の出来事で石田の死神嫌いは更に酷くなっただろう。
奴は一護をライバル視していたし、大切に思っていたからな。
言われた兄様はその後ろ姿を感情のない目で見送った。
一護が死んで、こちらに戻ってきてから兄様の感情が動くのを見た事がない。
多くの死神や石田たちに恨み言を言われたが無言でその様子を見ているだけだ。
私や恋次とて恨めるものなら兄様であろうと恨んでいただろう。
ただ、迎えに行った時の兄様の姿を見ていなければの話だ。
戻って来ない一護や兄様を捜し、見つけた時は目を疑った。
命の次に大切な斬魄刀を投げ出し、一護を抱きしめて人目も気にせず泣いている。
一護の名を何度も呼びながら力いっぱい抱きしめるその姿を見ているから私や恋次たち一部の死神は兄様を憎む事ができなかった。
「朽木さん…」
「あ…」
真っ赤な目をして話しかけてきたのは現世の人間で一護が好きだった井上織姫…
一護の霊圧にあてられて力を手に入れ、それ以来一護の力になろうと頑張ってきた…一護と一緒に私を助けに来てくれた少女。
「ねぇ、朽木さん。何で?何でなの?!黒崎君は何も悪い事してないよ?ただ、ずっと家族や私たちやこの世界を守ろうと頑張ってきただけだよ。確かに黒崎君の力は強過ぎるかもしれないけど、その虚の力だって手に入れたかったわけじゃないし、暴走しないように平子君のところでずっと修行だってやってた!黒崎君はその力を悪用しようとした事なんて一度もないのに…何で?皆の為に戦ってきたのに何で守ろうとしてきた人に殺されなきゃいけないの!!」
「井上…」
「黒崎君は死神じゃない…家族だっている人間だよ?大切なものを守る為に力を付けた優しい人なのに…」
井上はそう言うと俯いた。
私は何も言い返せない…一護を奪ったのは私たち死神だ。
生活を奪い、自由を奪い、命さえ奪った。
「…ごめんね、朽木さん。朽木さんだって辛いのに…」
「いや、井上が謝る事など何もない」
「ううん…私だって朽木さんのお兄さんが泣いてるの見たうちの一人だから…あんなに泣き叫んでたのを知ってて責めるなんて私、嫌な子だね」
井上は笑った。
仲間想いな黒崎君がここにいたらきっと怒られるね、と。
「じゃあね、朽木さん…もう会う事もないだろうね」
「…そうだな」
井上も石田と同じように憎しみを抱えて生きてゆくのだろう。
井上の背中は兄様を恨むと言って去った石田ととても似ていたから。
その後を茶渡が追う。
一瞬、こちらを見た彼は全てに絶望しているような表情だった。
茶度は一護の親友だったからな、仕方ない事だ。
彼らからライバルを好きな人を親友を奪ったのは我々だから。

死神の中で一番取り乱し、泣いて、兄様を憎んだのは意外な事に接点の少なそうな浮竹隊長だった。
一護の死を知った隊長は青い顔を更に青くして発作を起こした。
そして、その死が兄様からもたらされたものだと知ると先程血を吐いて倒れかかったにも関わらず兄様に掴みかかり、どこからその力がくるのかわからないほど強い力で兄様を殴った。
皆、あの隊長がそんな行動に出るとは思っていなかったので、今まで兄様に詰めていた者たちまで唖然として、慌てて隊長を止めにかかった。
ただ兄様だけは一護を抱きしめて泣いていた人物と同一人物だとは思えないほど平然としていた。
「満足か?」
淡々と殴られたというのに普段と変わらない口調で尋ねる兄様に隊長は「なわけないだろう」と睨みつけた。
「殺してやりたいくらいだ…こんな激しい感情を持ったのは生まれて初めてだよ」
そうだろう。
海燕殿が亡くなった時でもここまで取り乱しはしなかった。
「ならば殺せばよかろう。私は抵抗などせぬぞ」
「何言ってんすか隊長っ!」
「殺せば良いと言った。気が済むまでこの身を斬り刻めば良い」
兄様は刀を投げ捨て丸腰になる。
いつもは刀などなくとも少しの隙もない兄様が今は平の隊員でさえあっさりと殺せるくらい隙だらけだ。
それを見て、私も他の死神も浮竹隊長が斬りかからないか不安になったが予想は外れ、刀に手をかける様子さえない。
「誰が殺してやるものか…白哉、死ぬ事が赦されると思うなよ。お前は恨まれ憎まれ嘆き悲しみ苦しんで絶望の中生きていけ」
とてもじゃないが、あの隊長が言った言葉だとは思えなかった。
隊長は誰もが尊敬するような優しい方で、きっと他人から聞いた言葉なら「あの浮竹隊長がまさか」と信じなかっただろう。
「彼がお前を赦したって俺は死んでも許さない。お前に死なんて楽な道をやるほど俺はお人よしじゃないんだ。残念だったな」
そこで漸く兄様が死にたがってたのだと気付いた。
いや、気付いてはいた…後追いしないかとずっと不安だった。
その時漸く兄様の表情が動いた。
能面のような顔にほんの一瞬だけ絶望が走ったのだ。
これから続く生き地獄に絶望し、全てを諦めたような顔だった。
「…そうか」
それからの兄様はいつも通りで、他人から見れば大事な人を失ったとは思えないだろう。
だが、私は確信していた。
兄様はこれから先、一生笑わず怒らず悲しまず、一護の面影だけを抱いて生きてゆくのだと。
兄様は投げ捨てた刀を拾いその場を去った。
その後すぐに浮竹隊長が倒れた。
さっきまでは気力でなんとか立っていたのだろう、青白い顔をして血を吐く隊長は人に支えてもらわないと座る事さえままならぬほどだった。

…隊長が一護が好きだったのは知っていた、兄様と付き合っているのを知っていても恋い焦がれているのだとわかっていた。
一護はどういう人間なんだ?と訊かれた事もある。
一護に会う度抱えきれぬほどのお菓子を渡し、話を聞きたがっていた。
一護と共にいる隊長はいつも体調が良く、病は気からとはよく言ったものだと感心したくらいだ。
つまり、逆を言えば一護がいない今、症状は悪化してゆくばかりだという事だ。
その日以降ずっと臥せっている。
三席の二人が頑張って世話を焼いているが、もう永くないのだと誰もがわかっていた。
そして一護が死んでから約一月後、隊長は穏やかな顔で静かに息を引き取った。
兄様にその事を伝えると「そうか」と関心のなさそうな、しかしどこか羨ましそうな声音で呟いた。


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