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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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※弱い大人、優しい子供の続き?




「今度は私の番だったね。」
男は笑った。
金色の少年は青年になっていた。
「ったく、おっせーよ。」
「そう言うけどねぇ、君たちが凄すぎるんだよ。」
「まぁな。」
男も青年も笑った。


「おめでとうございます、大総統閣下。」
「ありがとう。」

この男の様子に昔の面影は見えない。
とてもじゃないがあの弱々しい男と同一人物だとは思えないくらい今の彼はしっかり地に足がついていた。
「閣下の年でこの任についたわりに民から指示も良好です。」
「…『鋼の』効果かな?エルリック少将は民からの人気が高いからね。君みたいな部下を持って私も鼻が高いよ。」
「恐れ入ります。」
昔は生意気な口調で喋っていた青年もすっかり丁寧な口調が板についている。
それは時の流れを確かに感じさせるものだった。
「しかし、これで目標が達成したわけではない。これからの課題はまだまだ沢山ある。まず始めるのは軍の縮小化だ。反感をどう抑えるかが腕の見せどころだ。」
そこで男は一旦、言葉を切って男直属の信頼できる部下たちを見渡した。
「諸君。ここまでついてきてくれた事に礼を言う。そして、これからも力を貸してくれ。君らの働きに期待している。」
『Yes,sir!!』
部下たちは無駄な動きのない綺麗な敬礼を一斉にした。
「…ありがとう。」
男は年に似合わない嬉しそうな幼い笑顔を見せた。
元から30代の人間とは思えないくらい童顔な男だから更に幼くみせる。
しかし、すぐに男は顔を引き締めた。
「もう人が戦争で泣かない国にしたい。何年かけても、何十年かけても絶対に。」
「…お供します。」
男の副官で現在秘書官として男の下についているホークアイ准将は力強く言い切った。
「閣下が倒れられちゃこっちも困りますしね~。」
緊張感なく、いつも通り眠そうな顔をしているハボック大佐はそれでも目だけ真剣に言い放った。
「私たちが命を預けるのは貴方だけですよ、閣下。」
ブレタの言葉に他の二人も頷く。
ただ一人
金色の青年だけは頷く事もせず、しかし何か言うでもなく、ただ、男を見ていた。
その事に男は寂しそうに笑った。


「君は…」
「はい?」
「君はもう支えてくれないのかい?」
男の言葉に青年は苦笑した。
何を今更…とでも言うように。
「貴方を支えてくれる人たちは沢山います。それにきっと貴方が本当に必要とする人間も現れますしね。」
青年の言葉に男は苦虫を噛んだような顔をした。
「…昔の口調で良い。昔の君の言葉が聞きたいんだ、鋼の。」
「せっかく人が敬語で話してやってんのにわかんねー奴だな。」
青年は呆れた顔をして男を見た。
「その口調の方が君らしいからね。…君はもう一緒にいてくれないのかい?」
「あんたはもう自分を保てんだろ、あの頃と違ってさ。別に俺があんたの部下を止めたからって今までの記憶や繋がりが消えるわけじゃねーんだし。」
青年はあの時したように男の頭を撫でた。
やはり親が子を撫でるように優しく。
そこに親愛以上の感情はない。
「あんたの隣に立つ人間は俺じゃない。あんたはこれから自分の隣に立つ人間を探すべきだ。」
青年の言葉が男に突き刺さる。
「君じゃ…駄目なのかい?」
「駄目。」
即答されて男は更に落ち込んだ。
男には今も、そしてこの先も来て欲しくない別れだと言うのに…
「あのさぁ、別に永遠の別れってわけじゃないんだ。俺はあんたより先には死なないって約束したし?それに、あんたさえ良ければこれからも会ったりとかするつもりだったんだけど…」
青年のその言葉を聞いても男の気分は晴れない。
ずっと側にいたい。
それが男の願いだからだ。
「私は…私の隣に立つのは君しかいないと思ってるんだ。君が側にいてくれたから今の私がここにいる…いや、遠回しな事を言うのは止めよう。私が君の隣にいたいんだ。君の側にいたいんだ。」
男はあの時したように青年を抱きしめた。
しかし、あの時のように男の目の中の焔は死んでいない。
少し、揺らいではいるが……
「私の我が儘で君の時間を使わせてしまった事はわかってる。でも私はこれからも君を放したくない。放せないんだ…」
「放せない、ねぇ?俺はそう思わない。あんたは俺がいなくても立ってられるよ。あんたの焔は消えない。」
青年は譲らない。
別に青年は男が嫌いだとかいやがらせの為に言っているわけではないのだ。
男の元にいればこの男は青年に依存してしまう。
今でさえ依存しかけているというのに…
青年は自分が男を甘やかしてしまう事を自覚していた。
「そんな理屈なんて関係ない。私が君を好きなんだ。」
「好き?」
「愛してる…」
青年は顔を歪めた。
そしてまた男の頭を撫でる。
「違うよ。」
「?」
「あんたのそれは恋情じゃない。親愛で友愛だ。ちょっと違うかもしれないけどヒューズ准将への感情に近いもんだと思うんだけど、違う?」
「違っ……」
違う?
本当に?
「俺しかいなかったから勘違いしただけだ。あの人への感情と少し違ったから。」
だろ?
青年は笑う。
男は否定できない。
「退役届け、受理しとけよ。」
青年は背を向けた。
「っ鋼の!!!」
「…また、旅に出ようと思ってるんだ。」
引き止めようと伸ばされた腕はやんわり避けられる。
「待ちなさいっ、鋼の!!」
「…またお会いましょう、大総統閣下。」
青年は振り返らなかった。
男はその場に佇んだまま動けなかった。


「恋情じゃない?」
少し経った後、男は呟いた。
その男の目には爛々と焔が輝いている。
「それがどうした。恋愛だろうが親愛だろうが友愛だろうが知った事か。側にいたいと言う感情に嘘はないんだから別に構いはしない…いや、違うな。側にいたいなどと言う甘い感情ではないな。手に入れたい。ずっと私に縛り付けておきたい。あの子が欲しい。」
そこまで呟いて男は笑った。
「成る程。恋情ではないな、確かに。これでは独占欲だ。」
それがどうした。
愛と独占欲の違いなど微々たるものじゃないか。
側にいたい、大切にしたい…
私の手で
ほら、変わらない。
「私の焔を煽ったのは君だよ、鋼の。後悔するならあの時、私に手を差し延べてしまった自分に後悔するんだね。」

そしてまた、男は笑った。

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