本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「モー子さぁぁぁあんんんっ!どうしよぉぉぉぉおおお!!!」
「ちょっ…いきなり、何なのよっ」
久しぶりにラブミー部に訪れた琴南は出合い頭、中にいたキョーコに泣き付かれた。
抱き着こうと突進してきたをキョーコを華麗に避けた琴南は理由を聞く。
すると、キョーコは「実はね…」と途方に暮れた顔で話し出した。
「あ、あのね…ぇ、ぇっと………」
「もーーっ!はっきりしなさいよ!!」
「つ、敦賀さんに結婚を申し込まれましたっ!!!」
「はぁぁぁあ?!」
急かされたキョーコが勢いに任せて叫んだ内容に琴南は目を見開き、まじまじとキョーコを見る。
嘘をついている様子はない。
「あんた、敦賀さんと付き合ってたの?」
「そんなわけないじゃない!ただの先輩後輩よ!それ以外の何者でもないわっ」
きっぱりと言うキョーコに琴南は思わず蓮に同情した。
社長を始め、LEMの一部の社員は蓮がキョーコに惚れていることに気付いていた。
蓮と殆ど接点のない琴南や小学生であるマリアまで気付いていたというのに、肝心のキョーコはてんで気付いてなかったらしい。
でなければ、こんなにはっきり断言しないだろう。
「…で、返事はどうしたのよ?」
「ちょ、モー子さん!敦賀さんが私なんかにプロポーズなんて白昼夢でも見たんじゃないのとか、冗談じゃないのとか、妄想もそこまでいくと危ないわよとかつっこまないの?!」
「だって私は、敦賀さんはあんたのことが好きだってわかってたもの。ってか、あんた、妄想激しい自覚あるならどうにかしなさいよ」
「癖だから仕方ないじゃない!…じゃなくて、モー子さん知ってたの?!」
「あんなわかりやすい態度でわからなかったあんたがおかしいのよ。ってか、交際をすっ飛ばして結婚の申し込みなんて、敦賀さんもなりふり構わなくなったわね…」
それほど気付いてくれないキョーコに焦れたのかしら?と琴南は不憫な蓮を思う。
だいたい、誕生日になったと同時に新種の薔薇をプレゼントしたり、その中に宝石を仕込んだり、いきなり夜中訪ねてきた後輩に徹夜でレッスンするなんて、特別に想っていなければ普通はしないだろう。
なのに、キョーコときたら「流石は敦賀さんだわ!」で終わらせてしまうのだから、報われないときたらありゃしない。
「わ、わかりやすいって…」
「あんたの前では温厚紳士の仮面が外れてたじゃない」
「確かにそうだけど…初めて会った時から意地悪だったし、今更取り繕う必要がないからでしょ。最近は、まぁ、神々スマイル見せてくれるし、嫌われてないのかも…とは思ってたけど、好かれてるなんて……」
「…………ホント、敦賀さん不憫だわ」
不憫過ぎて泣けてくる。
消極的だけどあんなにわかりやすくアプローチしてたのに、嫌われてないかも…程度にしか思われてないなんて……
「…それで?プロポーズされたのはわかったけど、何でいきなりそんなことになったわけ?何かきっかけがあったんでしょ?」
「きっかけは特になかったと思うけど…」
「何かあるはずよ。聞いてあげるから、順序をたてて、その時の状況と敦賀さんのセリフを教えなさい」
「聞いてくれるの?ありがとう、モー子さぁん!」
キョーコはようやく笑顔を見せる。
その事に何となくホッとした琴南は、次にキョーコが取った行動に眉を寄せた。
「………あんた、何やってるの?」
「鍵閉めて、盗聴器がないか調べてるの!」
「鍵はともかく、こんなところに盗聴器なんて仕掛けてあるわけないでしょ!あるとしても社長が仕掛けたやつくらいだから安心しなさい!」
「わかったわ…じゃあ、モー子さん、耳貸して?」
「なんで…………はぁ、わかったから、その顔やめなさい」
何だかんだでキョーコに弱い琴南は溜息を吐くとキョーコに近付き、耳を貸した。
「あのね、実は私、最近『B・J』役を演じてる関係でホテル暮らししてる敦賀さんのお世話をしてるんだけど…」
「ちょっと待ちなさい…『B・J』って確か、謎の俳優"X"だか日系英国人『カイン・ヒール』だかがやってる役でしょ?」
「うん、そうよ。あれ、実は敦賀さんなの。凶悪だったから、私も戸惑ったわ」
「ちょっ、キョーコ!アレって映画のエンドロールにすら名前を載せない予定なんでしょ?私に話していいわけ?」
「えっと、敦賀さんがね?『君に一人で考えさせると曲解したあげく「あれは夢だったのよ、そうに決まってるわ!だって敦賀さんがそんなこと言うはずないもの!あー、すっきりしたぁ」ってなるに決まってるからね。だから、君の親友である彼女になら相談してもいいよ。カインのことも必要なら話していいから。社長には許可もらってるしね』って」
「………」
キョーコの行動パターンを読み切っている蓮に琴南は引き攣った笑みを浮かべる。
琴南もきっとそうなるだろうと思ってしまったからだ。
それに、夢で終わらせるならまだいいが、「敦賀さん、冗談でそういうこと言うなんて…そんな人じゃないと思ってたのにっ」なんてことにも成り兼ねない。
「それでね、私は今ね、カインの妹の『雪花・ヒール』として一緒にホテル暮らしをしてるんだけど…」
「は?一緒って…同棲ってこと?!」
「同棲じゃなくて同居よ!それに、ベットは別だし、カインと雪花は兄妹なんだから問題ないわ!」
問題大有りよ!と琴南は叫びたかったが、キョーコのことだ、「どこに問題あるの?」と首を傾げるに決まってる。
些細なことで「破廉恥よ!」と叫ぶキョーコだが、過去に男と同居して何もなかったからか、男と暮らしても自分に手を出すわけがないという間違った認識をしているらしい…
「恨むわよ、不破尚…」
琴南はそう呟かずにはいられなかった…
「…で?」
「えっと、それでね、カインと雪花として普通に過ごしてたんだけど、ある日突然カインじゃなくて元に戻った敦賀さんが一枚の紙を私に差し出してね、『これにサインしてくれる?』って言ってきたの」
「それってまさか……」
「…婚姻届。しかも、敦賀さんの方は記入済み」
キョーコが遠い目で呟く。
キョーコの気持ちはわかるが、良い手だわ…と琴南は感心した。
普通に結婚を申し込むより信憑性があるし、本気だと伝わるだろう。
婚姻届まで持ち出せば、流石のキョーコも冗談だと笑い飛ばすことはできないはずだ…多分。
「…って、あら?確か、敦賀蓮って芸名だったわよね?流石に婚姻届に芸名を書くわけにはいかないはずだし、本名で書かれてたわけ?」
「うん……………『久遠・ヒズリ』って」
「へぇ、久遠・ヒズ………ヒズリ?ヒズリってまさか………」
「そのまさかよ、モー子さん。先生…クー・ヒズリの息子だったのよ」
亡くなってると思ってたからびっくりしたわ…と乾いた笑みを浮かべるキョーコ。
「…嘘ってことないわよね?」
「私もそう思ったわ。でも、目の前で自前の金髪見せられた上、普段付けてる黒のカラコン外されたら信じないわけにはいかないと思わない?しかも、身分証明のためにパスポートと運転免許証まで見せられたのよ?」
「そうね………因みにそれって、トップシークレットよね?」
「うん。『日本だと社長しか知らないことだからね。琴南さん以外に話さないこと。話したらどうなるか……わかってるよね?』って脅されたわ…だから、モー子さんも誰にも話さないでね?」
「話さないわよ、命が惜しいもの…ってか、知りたくなかったわ……」
クー・ヒズリの息子が人気俳優『敦賀蓮』だと今まで話題にならなかったのは、意図的に隠していたからに他ならない。
そんなことを他の人間に漏らしでもしたら、蓮はもちろん社長だけではなく親であるクーも敵に回すことになるだろう。
そんなことになれば、芸能人生の終わりを示している。
「…それでね?『君が好きだ。俺と結婚してほしい』って言われて…」
「あら、意外とありきたりね」
「最初はね。その後私、敦賀さんの意図がよくわからなくて『何で私なんですか?私より綺麗な人も可愛い人も優しい人も他に沢山いますよ?』って言ったのよ。そしたらね、『君しか考えられないんだ。君にしか心を揺さ振られない…君は俺の光なんだ。君がいない人生なんて考えたくもない…だから、最上キョーコさん。俺に君の人生をくれないか?』って言われたの」
普通の男に言われたら引くかもしれない言葉のオンパレードに、「期待を裏切らない人ね…」と琴南は呆れると同時に、プロポーズを意図がわからない扱いするキョーコにある意味尊敬の念を抱いた。
「だから私、『そんなこと言われるほど敦賀さんに何かした記憶はないんですけど』って言ったんだけど、『そんなことない。俺は君に救われたんだ…君に自覚がなくてもね。君は俺に最高の魔法をくれたんだ…今も、昔も』って否定されて…」
「ちょっと!今はともかく『昔も』ってどういうことよ?」
「それがね、私はその人が敦賀さんだって気付いてなかったんだけど、私が6歳の時に京都で会ったことがあったのよ。私が会った時は金髪碧眼だったし、身長も今ほど高くなかったし、わからなくて当然だったんだけど…その男の子に別れる時、綺麗な石を貰ってね、ずっとお守りにしてたの。その石を敦賀さんの前で落としたことがあって、敦賀さんはその時、私が京都で会った子供だって気付いたんだって」
「へぇ…凄い偶然ね…」
「私もそう思うわ。別れる時、住む世界が違うから二度と会えないって言われたし…だから、『時を越えて再び会えたって運命だと思わない、キョーコちゃん?』って言われて確かにそうかも…って思ったのよねぇ……」
そのセリフの前に「妖精じゃなくて、ごめんね」と付くのが、そこは省いても問題ないだろう。
「それに『君が俺と結婚したら、君の敬愛するクー・ヒズリが本当の父親になるんだよ?それに、夫婦になったら先輩だからって遠慮せずに演技指導も頼めるし、一緒に暮らせば俺の食事事情を心配しなくて済むようになるよ』って言われて危うく頷くところだったわ…」
だって先生が父親よ!演技指導頼み放題よ!食事管理ができるのよ!?
と、訴えるキョーコに琴南は使えるモノは思い出でも親でも演技でも自分の情けない面でも全て使う蓮に「手段を選ばないのね…そこまで追い詰められてたのかしら」と呟く。
こっそり「演技指導はいいなぁ」と思いはしたものの、「だからといって、あんな面倒臭そうな男の相手はごめんだわ」とばっさり切った。
流石はラブミー部員2号である。
「それでね、問題の紙がこれなんだけど…」
「…ホントに埋まってるわね。保証人は社長…って、あんた、これ……」
「うん…お母さんにわざわざ会いに行って書いてもらったみたいなの。私、まだ未成年だから、保護者の署名が必要だし」
「手回しが早いというか、何というか…」
「『これで君が母親に会いに行く必要はなくなっただろう?本当は君に記入してもらった後に一緒に行った方がいいかな、って思ったけど、君は昔、母親のことでよく泣いていたからね。とりあえず俺だけで行ったんだけど…正解だったよ。彼女のような人を君に会わせるわけにはいかないからね…』って敦賀さんが不快そうに語ってくれたわ…」
少し悲しそうな顔のキョーコに琴南は思わず、そんな顔をさせた見たこともないキョーコの母親を恨めしく思った。
キョーコが愛を信じないのは不破尚のせいであるが、根本はキョーコの母親だと気付いたからだ。
「そう……それで、あんたはどうしたいの?私に相談するってことは迷ってるんでしょ?」
「う、うん…断ろうって最初は思ったのよ?だけど、敦賀さんすごく真剣で、『答えは急がないから、ちゃんと考えてみて…?君が悩んで出した答えなら、どんな答えでも受け止めてみせるから。…ただ、覚えておいて。俺は君が好きだよ。ずっとずっと、君が好きだよ。俺は絶対に裏切らない…一生君を愛する自信がある。それをどうか覚えておいて…』って言われて、この人は私が何を恐がっていて、何を欲しいかわかってくれてるんだ…って思ったら、断りの言葉が出なくなっちゃって……」
ぎゅっと心臓付近を掴むキョーコに琴南は目を見開くと、「しょうがない子ね…」と苦笑した。
「ねぇ、キョーコ…あんた、もし敦賀さんにキスされたらどう思う?」
「は、破廉恥よっ」
「じゃあ、社さんは?」
「へ?社さん?何で??」
「いいから答えなさいよ、もーっ!」
「え、えっと…想像できないわ…」
「じゃあ、不破尚は?」
「絶対嫌!死んでも嫌!!」
「ふ、ふぅん…じゃあ、あんたがお世話になってるブリッジ・ロックの…あの背の低い人は?」
「ちょっと、モー子さん!背が低いなんて言ったら光さんに失礼よっ!」
「はいはい。で、そのヒカルさんとやらにキスされたら?」
「光さんに?う~ん…想像できないけど、少しいや、かも…?」
「それよ!」
いきなり叫んだ琴南にびくっとしながらも「何が"それ"なの、モー子さん?」と尋ねるキョーコ。
そんなキョーコに琴南ははっきりと言った。
「不破や石橋さんは嫌って思っても、敦賀さんには破廉恥だと思うだけで嫌悪感はないんでしょ?それが恋愛かそうじゃないかの違い!つまり、あんたは少なからず、敦賀さんに好意を抱いているのよっ」
「そうなの?」
「そうなの!だから、さっさとその紙に記入してあんたの返事を待ってる敦賀さんに渡してきなさい」
「で、でも、敦賀さんを好きだって確証もないのに失礼じゃない…?」
「そんなことないわよ。少しでも自分を愛してくれる可能性があるって知ったら、あの人はあんたの気持ちが追い付くまで待ってくれるわよ。どうせ、その婚姻届はあんたを縛り付けておくためのものだろうし、結婚したからってすぐに自分を愛せ、なんて言わないと思うわ。だから、それ書いて敦賀さんに渡して『今はまだわからないけど貴方を好きになれると思う』とでも言いなさい!あんたが真剣に考えて出した答えなら曖昧なものでも許してくれるはずだから」
そう断言する琴南にキョーコはこくりと頷く。
琴南はそれを満足そうに…しかし、少し淋しげに見つめると、ふと何かに気付いたように目を瞬かせた。
「そういえば、あんた、敦賀さんのことどう思ってるの?」
「はへぃ?好きなのかもってモー子さんが言ったんじゃない」
「でも、誘導尋問だって思われるかもしれないしね。あんたが自覚してる気持ちは尊敬とかそういうの以外にないわけ?」
「尊敬以外…?敦賀さんに………そうね、敦賀さんに悲しい顔はしてほしくないわ。見てるこっちまで胸を締め付けられるようなあんな顔……」
「そう…なら、それも伝えてみなさい。きっと喜ぶわよ」
琴南がそう言うと、キョーコは少し照れ臭そうな顔でこくりと頷いた。
「モー子さん、相談にのってくれてありがとう!!」
「はいはい。いいからさっさと敦賀さんのとこに行ってきなさい。ちゃんと結果を教えるのよ?」
「はーい!」
笑顔で去るキョーコを見送る琴南。
鍵を閉めたのを忘れてドアにぶつかりかけたキョーコに「らしいわね…」と笑う。
「…ラブミー部、卒業おめでとう……キョーコ」
愛を取り戻したキョーコの背に、そっと呟いた。
その後、独占欲剥き出しでキョーコに構う蓮を見て、「はやまったかも…」と後悔したのは余談である。
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