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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「社さん!」

――あ、最上さんだ…

蓮はラブミー部の部室のドアをノックしようと腕を上げた状態で止まった。

――社さん、引き留めておいてくれたんだ…

「先に行って、キョーコちゃんを引き留めとくな!」と現場から蓮より先に出て行ったマネージャーは、どうやら目的を達したらしい。
蓮だけでなくキョーコのスケジュールまで把握している社は、蓮にとってあまり敵に回したくない人物である。
苦笑を浮かべた蓮は、再びノックをしようとした瞬間、凍りついた。

「す、好きですっ!」

愛しい少女の声…
聞き間違えるはずもない声が紡いだ言葉を、蓮は理解するのを拒否した。
しかし、そんなことは許さないとばかり、キョーコは言う。

「社さんが好きなんですっ…付き合っていただけませんか…?」

――最上さんが、社さんを好き…?
愛を拒絶する彼女が社さんを選んだのか?

蓮は混乱することしかできない。
その顔は青ざめて、まるで病人のようだったが、本人にその自覚はなかった。

「…ごめん、キョーコちゃん。気持ちは嬉しいけど、応えられない……」

申し訳なさそうに社が断る声がする。
その事に、蓮は思わずホッとしてしまい、そんな自分に気付いて自嘲する。

「そう、ですか…時間を取らせてしまってすみません!今まで通り接していただけると助かります……あ、あの、じゃあ、私はこれでっ」

「あ、キョーコちゃん!!」

ガチャッ
ドアノブを捻る音と共にばっとキョーコが現れる。
瞳を潤ませ、顔を赤くしたキョーコはドアの前に立っていた蓮を見た瞬間、サッと青ざめ、何も言わずに走り去る。
そんなキョーコの後ろ姿を呆然と見送った蓮は、少し経って正気に戻ると、中にいる社の方を向いた。
社は罰の悪そうな顔でこちらを見ていた。

「蓮…その、今のはな……」

「…最上さんに告白されていましたね」

「あ、あぁ…そのことなんだけど…」

「俺はお似合いだと思いますよ、社さんと最上さん。現場でも仲が良いって噂されていましたし」

――何言ってるんだ、俺はっ

思わず口に出た言葉に蓮は眉を寄せる。
社も蓮と同じように「何言ってるんだ、こいつ」とばかり眉を寄せた。

「…それ、本気で言ってるのか?」

「俺は…………」

「本気なら、本当に俺がキョーコちゃんを貰うぞ」

「え?」

――何言ってるんだ、この人は……
散々、俺と最上さんをくっつけようとしてるくせに

そんな考えが表情に出たのか、社は皮肉げに笑う。

「お前がキョーコちゃんを好きだと思っていたから遠慮してたけど、俺もキョーコちゃんが好きなんだ」

「…知ってますよ。妹みたいな意味で、でしょう?」

「そう言い聞かせて自分をごまかしてたんだ…あの子はお前が唯一感情をあらわにする子だから、お前の特別だから――だから、俺もあの子が気になるんだって…」

「やしろ、さん…」

「けど、お前がそう言うんなら、俺はもう遠慮してやらない。あの子に好きだって伝える。…今から追い掛ければ、まだ間に合うはずだからな」

そう言って部屋から出ていこうとする社の腕を蓮は反射的に掴んだ。

「俺は…っ」

「『俺は…』なんだ?いいんだろう?俺が彼女に告白しても。彼女が俺に会いに来て、俺に笑いかけて、俺に弁当なんかも作ってくれちゃったりして、俺に抱き着いたりキスしたりしたって、お前は構わないんだろ?」

――社さんに…?
あの娘が俺に見向きもせず社さんに会いに来て
あの娘がキューティースマイルを社さんだけに向けて
弁当を作ってきてくれても、それは社さんのついでで…
そして、抱き着く?
社さんの背中にあの細い腕が回って、すごく密着して…そして、あの可愛い唇が社さんの唇に………?
そんなのっ

「そんなの許せるわけがないっ!!あの娘は俺の…俺が生きるために必要で失えない愛しい人だっ」

社を睨み付けてそう叫ぶ蓮。
そんな蓮の言葉に社は目を見開くと、固かった表情を緩め、蓮の後ろ側に視線をやった。

「―――だってさ、キョーコちゃん」

その言葉に瞠目し、後ろを振り返る蓮。

――最上さん?!

そこには先程走り去ったはずのキョーコの姿。
蓮は動揺し、社の方を見ると、そんな蓮の姿をにやにやと楽しそうに見る社の姿があった。
蓮はその瞬間、先程までのやり取りは演技だったのだと気付く。

――マネージャーより役者の方が向いてるんじゃないですか、社さんっ!!

冷静さを失っていたとはいえ、素人の演技に騙された蓮は心の中でそう叫ぶ。
社の方を見て固まった蓮にキョーコはそっと声をかけた。

「あの…敦賀さん。今のって本当……」

「も、最上さん…その、今のは…」

キョーコに聞かれているとは考えず、自分の気持ちを暴露してしまった蓮はうろたえてキョーコを見る。
そんな蓮にキョーコは思わず叫んだ。

「本当にアドリブなんですか!?」

「そう、本当に………………って、は?」

――今、何て言った、この娘?

思わぬセリフに蓮は固まる。
すると、キョーコは中にずかずか入ってきて、テーブルの上に置いてあった台本を手に取った。

「すぐに演技だって気付いて、アドリブで合わせてくれたんですよね?でも、社さんとのやり取りって台本通りの展開ですし、最後の『そんなの許せるわけがないっ!!あの娘は俺の…俺が生きるために必要で失えない愛しい人だっ』って台詞、台本そのままですよ!」

「え…………?」

「だから私、驚いてつい役が抜けちゃいました……」

「ダメじゃないか、キョーコちゃん。確か、その後は『今のって本当…?今のが貴方の、本音なんですか?』って言って、その後キョーコちゃん(の役)が蓮に惹かれていって二人がくっつく設定だったよね?」

「はい。今まで優しい親戚のお兄ちゃんだった彼が見せた偽りない姿に心を動かされて…って感じで」

そんな二人の言葉に蓮は悟った。

――芝居かっ……芝居でこの俺を嵌めたのか…っ!

ゴゴゴゴゴ……
大魔王のご降臨にキョーコは訳がわからないまま涙目になり、社は「闇の国の蓮さん…」と青ざめて顔を引き攣らせる。

「あ、あの……敦賀さん?」

「何かな?」

「ななな何故、怒っていらっしゃるのですか…?」

「怒ってなんかいないよ」

「(絶対嘘です~~っっ!怨キョが騒いでる上、キラキラがぶすぶす刺さってますから!)」

「(やばい、やばいぞ~っ!キョーコちゃんだけでも逃がさなきゃ!)」

社はこうなった経緯を思い出し、キョーコにまで被害がいくのは可哀相だと勇気を振り絞る。

「きょ、キョーコちゃん!」

「は、はぃいい!」

「確か次、仕事入ってなかったっけ?」

「へ?あ!もう、こんな時間?!社さん、ありがとうございます(いろんな意味で)!敦賀さん、私これで失礼させていただきますねっ」

「えっ…ちょっ、最上さん?」

「では、失礼しまぁぁぁああすっ!!!」

シュタタタタッ
まるで忍者のごとく走り去っていくキョーコを呆然と見送る蓮。
そんな蓮を見ながら社ははぁっと溜息を吐いた。

「蓮……キョーコちゃんな、今度新しいドラマでヒロインやるんだって。同じ部活の先輩に恋して、最終的には親戚のお兄ちゃん(先輩と同級生)とくっつく役。だけど、あの子さ、恋愛拒絶のラブミー部員だろ?恋する役なんて無理だ、って言うからさ、俺たちも手伝うよって持ち掛けたんだ」

「………」

「で、キョーコちゃんが1番不安に思ってた『顔を見ずとも恋してるってわかる演技』をやってみることになって、設定知ってたら先入観があるだろうからって、何も知らないお前を巻き込んだってわけ。因みに、キョーコちゃんは『そんな敦賀さんを騙すような(恐ろしい)ことできません!』って遠慮したんだ、最初。けど、『大丈夫だって。あいつが怒っても俺がどうにかするからさ』って言って、俺が説得した」

「…つまり、社さんが原因ってことですね?」

「だってお前、いつまで経ってもはっきりと肯定しないんだもん。だから、少し危機感煽ってやろうと思ってな」

そして、そんな社の作戦に見事嵌まってしまったというわけだ。

「しっかし、るぇぇん!キョーコちゃんのお前の認識、ひっどいなぁ!演技だってばれなかった場合のお前の反応、『断って正解ですね。恋人を理由に今以上干渉されたらたまりませんから』って感じだと思う、だってさ」

「……俺ってそんなに鬼みたいですか?」

「最初が意地悪だったもんな、お前。神聖化されてるくせにそんな認識って、いったいお前何やったんだ?」

「…………」

凄んだり、嫌がらせしたり、いろいろやりました…
蓮は当時のことを思い出し、「今、彼女が懐いてくれているのが奇跡だと思います」と遠い目をして漏らした。
哀愁漂うその姿に、社は「お前、ホントに何を…」と呟くが、返事は当然返ってこなかった。

「とっ、とにかくだ!キョーコちゃんがラブミー部員だからって安心している蓮に、その考えの甘さを教えようとだな…。あわよくば、キョーコちゃんがお前の気持ちに気付いてくれたらなぁ…なんて思ったけどさ…まさか、台本通りのセリフを吐くなんて想定外だったぞ」

「俺も想定外でした……こんな近くに馬の骨になりうる人がいたなんて…」

「は?」

「思えば、最上さんって最初から社さんには好意的でしたし、社さんのお願いなら簡単に聞きますよね。第一、好きでもない人間に演技でも『好きだ』って言えない子ですよね、あの子」

「そ、それは、好意的っていうよりキョーコちゃんは理由なく人を嫌うような子じゃないし、お願いって言っても基本的にお前関連のことじゃないか!それから、確かにキョーコちゃんは不破とかが相手だったら死んでも『好き』って言わないだろうけど、それ以外の奴になら普通に言うんじゃないか?」

「…俺、初対面で話す前から嫌われていたようですし、俺がお願いしようとすると身構えるし、緒方監督から聞いた話なんですが『敦賀くんのこと好きなんだね』って言ったら『尊敬って言ってもらえませんか』ってすごい顔で言ったらしいんですが」

「…………」

不憫すぎて何も言えない。
思わずほろりときた社は、ぽんっと蓮の肩に手を乗せた。

「蓮…俺、協力するからな。せめて普通に人として好きと言われるように…」

そう口に出して更に悲しくなったのか、社は無言でケータイを取り出し、どこかにメールした。

「社さん、今の…」

「お前の夕飯、頼んどいたから。少しは認識を変えられるように努力しろよ!」

「……はい」

「それから!何に遠慮してるのか知らないけどな、もっと積極的にアプローチしろ!『俺が生きるために必要で失えない愛しい人』なんだろ?」

「…そうですね。あの子は俺個人の人生にも、役者人生にも欠かせない」

過去の贖罪が済んでない――なんて、そんなことは言ってられない…
恋はするものではなく落ちるもの。
それを蓮は知っている。
恋はしないとキョーコが言っていても、キョーコの意思とは関係なしに落ちてしまうかもしれない。
その時、黙って指をくわえて見ているなんて、蓮にはできそうにもなかった。

「今はまだ、『好き』という言葉はあの子を傷付けてしまうかもしれないから言えませんけど、いつか近いうちに必ず…」

蓮の決意に社は「その意気だ!」とやる気になったことを自分のことのように喜ぶ。
そんな社に苦笑して、「これからもご協力ほど、よろしくお願いしますね?」と蓮は手を差し出した。




―――――――――――――――――――
モー子さんの次に手強いのって尚じゃなくて社さんな気がします。
社さんが敵に回ったら終わりですね、蓮。

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