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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「もう遅いから泊まっていくといいよ」

社さんに要請されて、敦賀さんの食事を作りに来た私はそう言われて素直に頷いた。
これまでも、同じようなことがたびたびあり、その度に「まだ、終電に間に合いますから」と帰ろうとした私だったが、敦賀さんの口車に乗せられていつも泊まるはめになってしまう。
それなら、最初から無駄な抵抗をしない方が利口だ。

「あれ?今日は素直だね」

「私にだって学習能力くらいあるんです!結果がわかってるのに抵抗したって意味ないじゃないですか!」

敦賀さんにやりこめられて、何度ここに泊まったことか…
私と社さん以外は滅多に訪れない敦賀さんの家。
しかも社さんはここに泊まることはないから、ゲストルームは殆ど私専用になってしまっている。
泊まる回数が2桁に上った時、「服とか化粧品とか置いておいたらどうかな?」と敦賀さんに勧められてクローゼットをお借りしてから、更に泊まる回数が増えた。
恋人でもないのに……
でも、敦賀さんは「大切な人は作れない」っておっしゃっていたし、彼女を作るつもりがないから、私を泊めるのだろう。
そうでなければ好きな人に申し訳ないと思って、何があっても他の女性を泊めたりしないと思うもの!

「うん、利口だね。けど、その結論に至るのが遅いんじゃないかな?もう、20回は超えてると思うけど…」

「うっ…」

普通は抵抗するでしょ!
敦賀さんは男性で、私はこんなんだけど一応女なんだから!
そりゃ、敦賀さんが私に興味を持つことがないことは代マネをした時からわかってることだけど、それでも羞恥心は消えないのよ。
それに、すっごくたまに私が粘り勝ちして車で送ってもらう時、降りる際に捨てられた子犬のような目で見つめられるのが苦手なのよ!
思わずもう1回車に乗り込んで、「一人にしませんからね」って甘やかしたくなってしまうから…
あんな目で見つめられるくらいなら泊まり込んだ方がマシ。
そんな結論に至った私はおかしくないと思う。

「そうだね、普通は抵抗あるよね」

「…私はまだ何も言っておりませんが」

「顔に出てるよ。だけどね、最上さん……今更じゃない?」

「……そうですね」

今更ですよね。
もうこれで通算24回。
ただの事務所の先輩後輩の関係を思うと、この回数は異常だと思う。
敦賀さん家に行く→強制宿泊、の流れになるからラブミー部に要請されても断っていた時期もあったけど、これ幸いと敦賀さんが食事を取らなかったせいで体調を崩してしまったので、社さんからではなく俳優部門主任の松島さんから正式に要請されてしまった。
『蓮の食事の世話をすること!(要請された時のみでよし)』
そのせいで喜々として社さんが毎日のように私に要請してきて、私も流石に心配になったので、時間を作って敦賀さんの食事を作るようになった。
その際、「君なら悪用しないだろう」と主任からスペアキーまで渡されてしまったので、敦賀さんの了承を得て、先に敦賀さんの家に行って料理を作るのが大半だ。
因みに今日もそのパターンである。

「じゃあ、お風呂に入っておいで。俺は仕事場でシャワー浴びてきたから」

「あ、はい。では、お借りします」

にっこりと笑って私に拒否させない敦賀さんにぺこりと頭を下げて、ゲストルームに服を取りに行く。
下着とパジャマ、洗顔用石鹸と化粧水などを持つと、再びリビングに戻って、そこを通ってバスルームに向かった。
敦賀さんは見たいドラマでもあったのか、ソファーに座ってテレビを見ている。

「じゃあ、入ってきますね」

「うん」

もう一度断りを入れて、脱衣所に入ると扉を閉めた。
絶対覗かないだろうけど、念のため鍵もかける。
これは3回目か4回目に泊まった時に敦賀さんに言われたからだ。

「『男の家で風呂を入る時に鍵を閉めないなんて、襲ってくださいと言ってるようなものだぞ』…って敦賀さんしかいないんだから問題ないと思うんだけどなぁ…。流石に私だって敦賀さん以外の男性の家に泊まるようなことがあれば、鍵くらい閉めますって」

そんな独り言を言いながら服を脱いでいく。
最初は持って帰って洗っていたけど、慣れた私は洗濯機に洗い物を放り込んだ。
そして、バスルームに入ると、何度見ても大きいという感想しか出てこない風呂を見つめた。

「…ホント、敦賀さんの家にあるものって何でも大きいわよねぇ…。まぁ、敦賀さん自身も規格外サイズだし、仕方ないんだろうけど」

そう呟くながら、中に入るより先に身体を洗う。
そして、髪も洗おうとしたところでシャンプーが切れていることに気付いた。

「……替え、あるかしら?」

トリートメントの方も切れていることを確認して、一端、脱衣所に戻ると、洗面台の下の扉を開ける。
ボディソープ、ハンドソープ、ワックス、洗濯機があるのに洗濯物はほぼ全てクリーニングに出す敦賀さんの家にはなかったから私が買ってきた洗濯用洗剤、漂白剤……

「あ。あった」

奥の方に仕舞ってあったシャンプーとトリートメントの詰め替え用を取り出す。
すると、その後ろに見慣れない箱があることに気がついた。

「…何かしら、これ?」

洗面台の下にあるということは間違っても食べ物とか服ではないだろうし、見られて困るものでもないだろう。
あのきめ細かい肌を保つためのものとか?
見ても平気だろうと判断して、少しドキドキしながらその箱を引き出すと、その正体に気付いた。

「…………………毛染め剤?」

色はダークブラウン。
敦賀さんの髪の色だ。
あのバカみたいにわざわざ髪を染めるタイプには見えないし、このくらいの色ならそんなに黒と変わらないし、別に染める必要もないと思う。
白髪を隠すためっていうならまだわかるけど、敦賀さんはまだ若いし必要ないはず…
ま、まさか………―――


「敦賀さんって…………若白髪だったの?!」


苦労性には見えないけど、あれほど忙しい人だもの、苦労してるのはわかりきってること。
若白髪でも不思議はないわ。
大丈夫です、敦賀さん!
不肖、最上キョーコ、敦賀さんの秘密は誰にも話しません!!


蓮が聞いたら顔を引き攣らせ、社だったら爆笑するようなことを決意したキョーコはいそいそと毛染め剤を元あったところに戻した。
蓮にとって幸いだったのは、その奥にあったカラーコンタクトの存在を知られなかったことだろう。
英語のパッケージであるそれは、相手がキョーコでないのなら普通のコンタクトだとごまかせるだろうが、生憎とキョーコは英語ができる。
よって、キョーコがそれを見つけていれば、目の色が黒でないことがばれ、髪の色も若白髪なんて結論ではなく金髪だの茶髪だのと地毛の色を疑われることになっていただろう。
どういうことなんですか?と詰め寄られれば、キョーコに弱い蓮は久遠であることもコーンであることも話していたに違いない。

しかし、蓮にとって幸か不幸かそのような事態にはならず、キョーコは勘違いするだけで終わった。
シャンプーとトリートメントを詰め替え、髪を洗って風呂に入り、疲れを癒したキョーコは「私が若白髪だって気付いたことを知ったらショックを受けるかもしれないし、言わない方がいいわよね」と判断して、毛染め剤を発見したことを隠すことに決めた。
嘘はつけないが、演技は可能という不思議ちゃんであるキョーコは持ち前の演技力を駆使して、まだリビングのソファーに座っている蓮にいつものように「お風呂、ありがとうございました」と礼を言い、お互いに「おやすみなさい」と挨拶して、寝室に向かったのだった。

蓮がキョーコの勘違いに気付けるのは、まだまだ先の話……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギャグです。
蓮って髪の毛どうしてるのか不思議に思って書きました。
自分で染めてるに1票で!
他人に染めてもらってるなら、ジェリーだと思うけど、生え際が地毛になった瞬間アウトだから、すっごく頻繁に染めてると思うんですよね。
それを考えると、やっぱり自分で染めてるのかなぁって…

この話を書くきっかけになった瑞穂さまにこっそりひっそり捧げます


 

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