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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「初めまして。敦賀蓮のマネージャーの社倖一です」


迷って迷って迷った末に電話した先は敦賀さんのマネージャーさん。
いつでもかけてきていいって言ってたけど、新聞でテレビ欄を探せば何箇所にもある名前。
そんな忙しい人にかけるわけにはいかない…そう思って、やはりこの話を受けなければよかったと後悔した。

地味で色気のない家政婦としか見られないような私。
そんな私が、今もっとも旬な芸能人で抱かれたい男No.1な敦賀蓮の住み込み家政婦をするなんて…
ファンが知ったら殺されるわね。
芸能人とかショーちゃん…松太郎以外興味なくて、敦賀蓮は松太郎が敵意を抱いてる芸能人だったから知ってたけど、殆ど名前しか知らなくて…
調べて敦賀蓮を知った今、私にこの役目は荷が重かった…

だけど、背に腹はかえられない…
生活していくためにはお金が必要だし、住む場所も必要だ。
目的[ショーちゃんのため]もないのにあんな高級マンションを借りる意味もないし、違約金は痛かったけど(2年契約だった)そのまま借りているよりマシ。
本当に必要なものだけまとめてみると、小さな段ボール一つ。
いかに私がアイツだけを見て生きてきたのか…その証拠のような気がして悲しかった。
アイツの私物は無駄なものが多かったから、絶対いるだろうモノを除いて、ネットオークションで売りさばいてやったわ!
本物だと思われなくても、マニアとかは欲しがるだろうと思って出してみたら、意外と高値で落札されて、そのお金は違約金の足しにさせてもらった。
他のは事務所の方に送ったけど…不審物と間違えられて処分されても私のせいじゃないわよね、うん。
家電製品はリサイクルショップに、服は古着に出した。
だって、家電は必要ないだろうし、あんなダサい服(自覚はあったのよ。だけど、動きやすさを重視したら飾り気のない服が良かったの!)で敦賀さんの家に押し掛けるわけにはいかないし。
ついでに髪を切ろうか悩んだけど、切って気付かれなかったら嫌だし…

そうして準備ができて、いざ電話をかける段になると気おくれしてしまった。
今からでも遅くないから、『だるまや』さんにお世話になろうかしら…?
そう考えたけど、手元にある敦賀さんの家のカードキーが許してくれない。
ポストに入れる…って手も考えたけど、それはあまりにも敦賀さんに対して失礼すぎる。

そしてかけた先がマネージャーの『社さん』
話は通しておくっておっしゃっていたけど、大丈夫なのかしら…?
普通に考えて、マネージャーだったら担当の俳優が女と暮らすなんて言い出したら反対するわよね?
…と思ったら、

『もしもし』

「もしもし…あ、あの、始めまして。恐らく敦賀さんから聞いていらっしゃると思うのですが、最上キョーコと申します」

『最上…?あぁ、『キョーコちゃん』か!話は聞いてるよ。蓮の食事の世話をしてくれる子だよね!』

「は、はい…」

『電話くれたってことは、引越しの準備が終わったってことだよね?』

「そ、そうです」

『荷物とかどのくらいある?沢山あるなら、今から蓮の住所教えるから郵送で…』

「いえ!段ボール一つだけですから、自分で持っていきます!」

『一つ?随分と少ないんだね…えっと、じゃあ、今日の9時くらいでいいかな?俺が迎えに行って先に蓮の家に連れていきたいところなんだけど、俺車の免許持ってないからさ。待ち合わせ場所はどこがいい?』

「で、では、○×○の△△丁目で」

『了解!…蓮に替わりたいところなんだけど、アイツ、今撮影中でさ。ごめんね?』

「い、いえ。ご配慮ありがとうございます」

『じゃあ、またあとでね』

「はい」

…普通だった。
普通に対応されてしまった…むしろ友好的だった。
おかしいわよね?

まぁ、マネージャーさんにまで受け入れられてしまったのなら仕方ない。
お断りして『だるまや』さんにお世話になるという道が消えた今、諦めてお世話になるしかない…って、こんなこと思っちゃ失礼よね!
敦賀さんは私のために申し出てくれたんだから…
と、とにかく!
少しでもお手を煩わせないように、運び出す準備をしなくちゃ!!

 


ある日、蓮は唐突に言った。

「知り合いの女の子と同居することになったのでよろしくお願いします」

その言葉を聞いた俺は1分くらい固まった。
俺の体感時間だと1時間くらい固まっていた気がしたが、実際に時計を見たら1分だったので間違いないだろう。

「…って、蓮!お前、いきなり何言い出すんだ!!!」

最近、どこか落ち込んでいるというか心あらずな感じだったから、今日元気になった姿を見て喜んでたのに…
その理由が女だと?!
今まで女の影すら見せなかったくせに、どうゆう心境の変化だ。

「そのままの意味です。昔の知り合いが困っていたので、食事を作ってもらう代わりに住居を提供したんです」

「昔の知り合い…?そんなのいたのか?」

「いたのかって…一人で生きてきたわけじゃないんですから、いるに決まってるでしょう」

「まぁ、そうだけどさ…。食事を作ってもらう代わりに、ねぇ…その子、調理師免許でも持ってるのか?」

「いえ…」

そう訊かれると思っていなかったのか、蓮が居心地悪そうに身じろぐ。
その態度に、ははぁん…と察した。

「彼女か」

ズバッと言うと、一瞬固まった後、困ったように微笑んだ。

「残念ながら、本当にただの昔馴染みです。大切に想っていた子なので、どうしても助けてあげたくて…」

「ふぅん…まさかのお前の片思いか」

「ちょ、社さん!別にそういうのじゃ…」

「お前さ、一回でいいからその子のことを想いながら鏡見てみろ。そんな顔して言われても説得力ないぞ!」

「そんな顔って…」

自覚がないらしく、蓮には珍しく戸惑った様子だ。
…こいつ、今までの恋愛は本当の感情が伴った恋愛じゃなかったんじゃないか?
そうだよなー…こいつ、恋をしなくても女の子の方から寄ってくるだろうからなぁ……

「まぁ、話はわかった。で?」

「…その子に社さんの電話番号教えておいたので、もしかかってきたらよろしくお願いします。恐らく、今月末にかかってくると思うので…」

「了解。名前は?」

「『キョーコちゃん』です」

「キョーコちゃん?…何、キョーコちゃん?」

「何って…」

「苗字だよ」

「……………」

「まさか、知らないのか?」

「………はい」

頷いた蓮に俺は呆れる。
一緒に住むことになる予定の子の名前さえ知らないとは…
本当に知り合いだったのか?

「その…会ったのが、俺が10歳の頃だったので、俺もその子もお互いにファーストネームしか言わなかったんです」

「へぇ。そんな前からの知り合いなんだ。確かに子供の頃だったら、その場に親がいるならともかくわざわざフルネームで自己紹介しないよな」

“会ったのが”って言い方から、一時期しか一緒に過ごさなかったのだろうと推測する。
長い付き合いなら、子供でも流石に名字くらい教えあっているだろう。

「……その子、信用できるんだな?」

「はい。真面目な子ですし、芸能人とかあまり興味ないみたいですから」

「へぇ…お前にも?」

「…まぁ、俺が知り合いでなかったら興味を持ってくれなかったのは確かですね」

再会した時のことを思い出してるのか、少し遠くを見ながら言う。
その顔が、どこか痛みに耐えているように見えるのは気のせいだろうか…?
本当に一緒に住ませていいのか、スキャンダル云々抜きで不安になったが、蓮の普段の表情に隠れた必死な想いに俺は折れるしかなかった。


「は、初めまして。最上キョーコです」

そう言って今時の子には珍しいくらい綺麗なお辞儀をしたのは高校生くらいの女の子。
女の子、という言葉から年下だろうなぁとは思っていたが、この年齢は……犯罪?
少し華やかさに欠ける印象はあるものの、造作は整っているから、もう少し年をとれば驚くほど美人になるのでは…と思った。

「初めまして。敦賀蓮のマネージャーの社倖一です」

そう言って名刺を差し出すと、どこか慣れた感じで受け取った。
所作がいちいち綺麗なんだよなぁ…いいとこのお嬢様とか?
でも、どちらかというと客商売に慣れてる感じ…
動作に厳しいところでバイトでもしてたのかな?

「蓮は車の中で待ってるから。荷物はそれだけ?先に蓮の家に送ったりしてなかったよね?」

「あ、はい。あまり私物は持ってなくて…」

持ってないにしても限度があるんじゃ…と思ったのは顔に出さない。
だてに『敦賀蓮』のマネージャーはしてないからな!
感情を隠すことくらいお手の物だ。

「そうなんだ。とりあえず、それ持つから貸して?」

「いえ。わざわざ迎えに来ていただいたのに、荷物まで持っていただくわけには…」

「力仕事は男の役目だって。いいから遠慮しないで」

謙虚な子だなぁ…
今時の子なら俺が言いだすより先に「あたし、こんな重いの持てな~い。マネージャーさん、持って~」って言うのに…(実際、そんなことあったし…)
流石蓮が選んだ子!

「で、でも、重いですよ?」

「いいから、いいから」

遠慮する彼女から荷物を奪う。
こんな小さな段ボールだから…と油断していたら、思っていた以上の重量があった。

「……い、意外に重いね。こんなに小さいのに…」

「私、収納得意なんです」

いろいろ詰め込んで重いのでやはり自分が持つ、という申し出を断って段ボールを抱えなおす。
若いのに何だか所帯じみた子だなぁ…
蓮とは逆のタイプだ。
なんていうか…恋人にするより結婚したい相手って感じ?
家庭的な感じがするし、こういう子が家で健気に待ってたら、何がなんでも早く仕事を終わらせて帰りたいと思うかも。
まぁ、この子には蓮がいるから手を出したりしないけど…いいなぁって思うくらい平気だよな?

「そうなんだ。俺は整頓とか苦手だから、羨ましいな」

「そうなんですか?」

「うん。時間があればちゃんと片付けられるんだけど、あいつの担当だとなかなか休みが取れなくてね」

家は寝るためだけにあるようなものだ。
もっぱら、食事は外食かインスタントだし、家で何かすることってあまりない。

「しかも、あいつ、あんなに大きいのに少食でさ、何とかinゼリーとかカロリーなんちゃらとかコンビニのおにぎりばっかで、体壊しそうな食生活してるからさ、キョーコちゃんが世話してくれるって聞いて肩の荷が下りたよ」

「そ、そんな食生活を…よくあの体を維持できていますね……」

「あいつ曰く、燃費がいいらしい」

燃費がいいにもほどがあるだろ!と何度思ったことか…
いい加減、サプリメント類で栄養取るのはやめてほしいと思っていたから、キョーコちゃんの件を聞いた時はスキャンダルと天秤にかけて、圧勝したくらいだ。

「そうなんですか…。あの、社さんは?」

「え?」

「マネージャーなんですから、社さんも敦賀さんと同じスケジュールなんですよね?ちゃんとお食事は取られているんですか?」

「あ、いや……」

まさかつっこまれるとは思わなくて、狼狽してしまう。
俺も蓮のことは言えない食生活だ…まぁ、俺は普通の人間だから、あいつまではいかないけど。

「よろしければ、敦賀さんの分と一緒に社さんの分もお作りしましょうか?」

「え?それは助かるけど…」

助かる。
すっご~~~く助かる。
だけど、あいつは恋する男…
もしかしたら、「俺だけに作ってくれるはずだったのに…」と恨めしげな表情で睨まれる可能性もある。
『温厚紳士』なんて世間では言われているけど、俺には分かる…あいつ、絶対昔手のつけられない問題児だった!
20歳という若さであの落ち着きよう…そうでなければ納得できない。
そんな奴に睨まれたら、心臓が止まるかもしれん…

「一応、雇い主は蓮だから、蓮に聞いてみないことには判断できないよ」

「あ、そうですよね!」

納得してくれて良かった。
ホント、素直な子だなぁ……

そんな感じで会話をしながら、目立たないよう人気のない場所に止めてある車に向かう。
有名人のくせに自分で迎えに行こうとしたくらいだ…きっと、待ちきれなくなっている頃だろう…急がねば!

到着すると、ちょうど蓮が外に出ようとしているところだったので、慌てて車の中に押し込んだ。
文句を言われたが、当然の行動だ!
人気が少ないとはいえ、全く人が通らない保障はないんだからな!
段ボールを後部座席に置き、その隣に座る。
てっきり、俺は助手席に座るのだと思っていたキョーコちゃんは戸惑ったが、蓮が「どうぞ?」と促したため、恐る恐る助手席に座った。

「社さん、ありがとうございました」

「いや。礼を言われるほどのことじゃないさ。ところでキョーコちゃん」

「はい?」

「もう、夕飯は食べた?」

「はい、一応…」

「そっか……じゃあ、二度手間になって悪いんだけど、こいつに夕飯作ってやってくれないかな?まだ食べてないんだ」

「あの、社さんは……?」

「俺は…」

「社さんの分もお願いできるかな?俺だけ食べるのって何だか申し訳ないし」

…紳士だな、男に対しても。
ごめんなぁ、蓮~!
キョーコちゃんの手料理を独り占めするためには何でもしそうとか思っちゃって!!
そうだよな、お前、こんな奴だったよな…

「社さん?」

「あ……じゃ、じゃあ、お願いしようかな?いいかな、キョーコちゃん?」

「はい!任せてください!!……因みに。お伺いしますが、冷蔵庫の中に材料は…?」

「………」

「…わかりました。ないんですね…想像はついてましたけど。なら、お手数をおかけしますが、スーパーに寄ってもらえますか?」

「…了解」


ご相伴に預かって食べたキョーコちゃんの手料理はすごく美味しくて、初めて蓮がおかわりするところを見た。
お店で出されても違和感無いよ、うん。
キョーコちゃんの腕を知っていたから頼んだのかとも思ったが、一口目、蓮も俺と同じように驚いていたから、キョーコちゃんが料理上手だったのは偶然らしい。
まぁ、これなら蓮が食事を残すこともないだろうし、安心だな…

もちろん、蓮にお伺いを立て、渋々OKをもらって(やっぱり独り占めしたかったのか…)キョーコちゃんに俺の分も作ってもらうことになったのは言うまでもない。
 

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