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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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唐突に、自分が子供なのだと悟った。
何かきっかけがあったわけではない…ふと、思ってしまったのだ。
復讐のためと言って尚に執着するのは自分が子供だからではないかと…
それどころか、好きだと思っていたその感情さえも疑った。
誰かといたくて、その相手に幼馴染で共にいる機会の多い尚を選んだだけではないかと。
寂しくて、それが嫌で尚を利用していただけではないかと……
利用、という点では尚と何ら変わらない。

ひとりは寂しい…そう泣いている子供なのだと、キョーコは気付いてしまった。

その瞬間、復讐心も薄れ、“幼馴染”兼“復讐相手”兼“好きだった男”が“ただの幼馴染”に成り下がった…いや、成り上がったのかもしれない。
だって、過去の尚はキョーコにとって寂しさを紛らわせる都合の良い相手でしかなかったのだから。

 

「なんだか最近、様子が変わったね」

ラブミー部の部室でキョーコとお茶を飲んでいた蓮は脈絡もなくそう切り出した。
その言葉にキョーコは一瞬驚き、そして困ったように微笑む。
いつか言われるとわかっていた…蓮は聡いから。
だから、慌てることはなく、こちらの感情の動きを読もうと窺う蓮を見つめた。

「そうですか?」

「あぁ…何て言ったらいいのかな?妙に落ち着き出てきたというか…」

「もしかしたら、復讐をやめたからかもしれませんね」

「あ、そうな……」

あまりにもさらりと言われ、思わず聞き流しそうになった蓮は、そのキョーコのセリフを吟味して、次の瞬間驚きをあらわにした。
あからさまに動揺した蓮に、珍しいモノを見たわ…と思いながらキョーコはお茶をすする。

「そ、それってどういう意味…?」

「そのままの意味ですよ」

「……何でか聞いてもいいかな?…もしかして、よりを戻した、とか?」

険しい表情を浮かべ、キョーコを睨むように見る蓮。
そんな蓮にキョーコはいつものように怯えることもなく、あっさりと否定してみせた。

「よりを戻すなんて…表現間違えてますよ、敦賀さん。戻すも何も、そんなもの最初から存在してませんもの」

「…じゃあ、何で?」

「冷めたんです」

「は?」

「馬鹿らしくなったんです。復讐なんて言葉でアイツとの繋がりを保とうとしていたことが」

その答えに蓮は少し青くなる。
今、目の前にいる少女は、“復讐”が建前だったと、不破尚との繋がりを保つための無自覚の嘘だと認めたのだ。
つまり、それは自分の感情に素直になって、尚を好きだと認めたということなのだろうか…?
蓮は自分の想像にますます青ざめる。

「…敦賀さん?顔色が…」

「あいつが好きなの?」

「はぃ?」

「あいつと付き合うの?」

立ち上がり、机越しにキョーコの肩を掴む蓮。
あまりに力強く掴まれ、痛みを感じたキョーコだが、蓮の不自然な様子に眉を寄せるだけに留める。

「…おっしゃってる意味がわかりません。何故私がアイツと付き合わないといけないんですか?」

「だって、あいつとの繋がりを保つために“復讐”という建前を盾に、あいつを追っていたんだろう?あいつと離れたくなかったんだろう?」

「…まぁ、そうなりますね。でも、根本的な部分が違ったんだって気付いたんです」

「根本的な部分?」

冷静に返され、少し頭が冷えた蓮は、手に込めていた力を緩め、続きを促す。

「自分の寂しさを紛らわせるためにアイツを利用していただけなんだって気付いたんです」

好きだと錯覚するのに都合に良い相手だった。
幼馴染で、尚の家に預けられていたから接する機会も多くて、顔が良くて、『王子様』[理想の相手]に最適だった。
もし、それが尚でなくても、きっと自分は尚と同じように入れ込んだだろう…そう思ったのだとキョーコは語った。

「ひとりは寂しいから…だから、傍にいたアイツを“好き”になることで寂しいという感情を忘れようとしていたんだと、最近になって思ったんです」

「…そう…」

それしか言えなかった。
蓮は幼い頃のキョーコを知っている。
母に認めてもらいたいとテストの答案用紙を握りしめて泣いていた…
クリスマスと一緒に祝われる誕生日を悲しいとも思わず、喜んでいた…
『ショーちゃん』で笑顔になるのに、その『ショーちゃん』自身に慰めてもらおうなんてカケラも考えておらず、一人泣き場所を探して森を彷徨っていた…
あの頃のキョーコの尚に対する恋心が偽りだったとは思えない…けれど、思い返してみると、恋を知った蓮には薄っぺらいものに思えてくる…。
だって、好きなら独占したくなる。
自分だけを見てほしい。
いつも傍にいてほしい…嬉しい時も、悲しい時も。
年齢の問題かもしれない。
まだ幼い恋心はそこまで育っていなかっただけかもしれない。
けれど、キョーコの恋は『王子様』という幻想に恋をしている、夢見る少女に思えてならなかった。

「だから、私も利用しているという点に関してはアイツのことは言えません。それなのに復讐なんておかしいでしょう?だから、もういいやって」

「そうなんだ…」

「あ、でも、貢がされたことには変わりありませんから、そこはきっちり本人に復讐をやめることを含めて伝えました。通帳を見ればいくらアイツに使ったのかわかりますから、マネージャーの祥子さん経由で請求したんです」

仮にも売れてるって言われているアーティストなんだから、このくらい払えるでしょ?
それとも払えないくらい稼ぎないの?って!

笑顔でそう言ったキョーコに蓮の顔が引き攣る。
経済観念がきっちりしているのは良いことだが、なんだか…

「…今、せこいとか思いました?」

「………いや、思ってないよ」

「下手すぎる嘘はやめてください」

「うっ…」

「別に楽がしたくて請求したわけじゃないんですよ?」

勤労学生の自分には、いくらあっても足りないのだとキョーコは言う。
学費に俳優養成所に下宿代…
養成所は分割払いにしてもらってはいるものの、それだけでも出費が痛いというのに、役に合わせて服を買ったり、化粧品を揃えたりと、芸能人ならではの出費もかさむ。
そのうち冗談ではなく、クビが回らなくなるとキョーコは自覚していた。
だから、気持ち的には餞別代わりに水に流そうかとも考えたお金を請求したのだ。
そう説明すると、お金に困ったことのない蓮は、その感覚がわからないのか戸惑うような表情のまま相槌を打った。

「えっと……不破くんにわざわざ請求しないで、俺を頼ってくれていいんだよ?」

「遠慮します。敦賀さんに頼るのとアイツに請求するのでは話が違います。アイツに請求するのは私が働いて稼いだお金です。ですけど、敦賀さんに頼るのはおかしいでしょう?」

敦賀さんに貢がせてアイツのようになれ、とでも?
冷たい表情のキョーコに慌てて蓮は否定する。
復讐心は消えたものの、尚の行いに関して嫌悪が消えたわけではないようだ。

「モー…琴南さんに話したら、それくらいしても罰はあたらないわよと大賛成してくれました」

それどころか慰謝料も絞り取れとまで言う始末。
経済観念がキョーコ以上にきっちりしている琴南らしいセリフである。

「と、ところで、どうしていきなり君曰く利用しているってことに気付いたの?」

下手すぎる話の転換に、キョーコは訝しげに蓮を見る。
いつものさりげなさや強引さはどこに置いてきたのやら…
焦ってるような表情に、キョーコは不思議に思いつつ、素直に話の流れに応じた。

「きっかけはなくて、唐突に…天啓みたいに悟った……気がしてたんですけど、どうやら勘違いみたいです」

「え?」

「琴南さんや敦賀さんと話してみて気付いたんですけど、“ひとり”ではなくなったから気付けたんじゃないのかなって」

そう言ってキョーコはふふっと柔らかい笑みを漏らす。

「心を押しこめても誰も気付かなかったあの頃と違って、些細な変化に気付いて心配してくれる人がいるから…だから気付けたんだと思います」

そう言って微笑んだキョーコに、蓮は目を見開いた後、ふわりと温かく優しげな笑みを浮かべた。
自分に向けられる好意に鈍感なキョーコの変化…
まだ些細な変化かもしれないけど、それども確かに変わりつつある。
愛を拒絶するキョーコにとってこれは良い変化だろう。

「そうだよ…君はひとりじゃない。琴南さんや俺だけじゃない、社さんやマリアちゃんや君を大事にしてくれてる下宿先の夫婦も君の変化に気付いて心配するよ。君が大切だから…」

「…そうだと、嬉しいです」

前向きな返事に更に頬を緩ませる。
そんな蓮の笑顔にキョーコもまた、いつものように逃げ出すことはせず、嬉しそうに笑ったのだった。

 

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