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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「…俺にはもう、あんたのトコにいる理由はない。あんたへの恩義はきっちり返したつもりだぜ?」
「あぁ。釣りがくるくらいだ。」
「利子だよ、利子!!有り難く受け取っとけ!」
エドワードがそう言うとロイは「そうするよ」と笑って頷いた。
「あんた、何のつもりだ。あんたに俺の行動を制限する権利も干渉する権利もない!」
「あるじゃないか。私は大総統で君はその部下。」
「だからっ」
そこでエドワードは言葉を切った。
ロイの目の中の焔を見たからだ。
今までの比ではない、爛々と燃えたぎる焔を見たからだ。
…この焔は危険だ。
「誰が君を放すものか。君は私が見つけたんだ。君は私を見つけたんだ。だから、もう手遅れだよ、鋼の。」
そう言って、愛しそうに頬を撫でるロイをエドワードは動けずにじっと見つめた。
撫でる手とは違ってロイの目は全然優しくなんてない。
「君がいくら逃げても無駄なんだ。私は絶対に逃がさないからね。帰っておいで…」
「なんで…」
「何で?おかしな事を訊くものだ。君がいなければ駄目なんだと言っただろう?」
「それはっ!!」
「君が言いたい事はわかっているさ。確かにヒューズへの思いと似てはいたよ。ちゃんと考えたさ、じっくりとね。だが、似て非なるモノだ。奴にはこんな気持ち抱いた事などない。勿論、他の人間にもね。」
「こんな気持ち?」
「独占欲」
あっさりと、しかし、しっかりと言い放った言葉はロイにとって無縁だったものだ。
そしてエドワードにも予想もつかなかった言葉だ。
依存はしているだろうと思っていたが独占欲なんてあるとは全く思わなかった。
ロイがエドワードにみせた執着は家族愛のようたものでしかなかったし、周囲もそう感じていたとはっきりわかっていたからだ。
「お前は俺の物だ。文句は言わせん。」
「っ俺は物じゃ」
「言い方が悪かったか?だが、取り消さない。お前は俺のだ、エドワード・エルリック。誰にも渡さない、俺だけの物だ。」
エドワードはロイの目の焔が更に燃え上がったのを見た。
そして悟った。

逃げられない……

「俺の意思は無視かよ…」
「すまない。私は君が言った通り子供なのでね。耐え切れないのだよ、君がいないのは。それに、私はもう何処へでも君を道連れにすると決めてしまったからね。」
何を勝手に、と言えなかった。
塞がれたから、とまで言えば見当はつくだろう。
文字にするまでもなくエドワードが反論する前にロイが唇で言葉ごと塞いだのだ。
「…歪んだ愛だと自覚しているが…受け取ってくれないかい?」
懇願のような口調なのに声音と表情、何より目の中の焔がそれを裏切っている。
「……どーせ返品不可なんだろ。」
「わかってるじゃないか。」
そう言って笑う目の前にいる男は本当にムカつくのに何故、恨みきれないのか謎だ。
「もう君を放したりはしない…」


「どーゆー事ですか、大総統閣下!!」
「君にそう呼ばれると照れるね。」
「厭味に決まってるじゃないですか。そんな見え透いた嘘なんかどうでもいい。兄さんは退役届けを出したんでしょう?貴方に兄さんを束縛する権利なんてない。」
アルフォンスの言葉にロイは苦笑する。
どこかで聞いたような言葉だ。
「兄弟揃って似た事を言うものだね。」
「僕と兄さんですからね。…どーせ、押し切ったんでしょう?兄さんって意外と押しに弱いですから。ほら、兄さんって生まれながらの兄属性だし。」
言葉の一つ一つに棘を感じる上に否定できないところが痛い。
押し切ったとしか言いようがないから。
昔はエドワードの方がきついと思っていたのだが…とロイは遠い目をした。
「僕より兄さんの方が優しいですよ。」
心の声まで聞くな、このブラコン。
「そろそろ兄さんを僕たちに返して下さっても良いと思いますけど?」
「しかし、鋼のはどっちにしろ旅に出るつもりだと…」
「愚問ですね。」
ハンッとアルフォンスに鼻で笑われてマジで落ち込むロイ。
誰か昔の素直で優しいアルフォンスを返してくれ。
「ごめんなさいね、アルフォンス君。この人、エドワード君がいないと仕事してくれないのよ。」
そう言いながら話に入ってきたのはホークアイだ。
鷹の目がこの男を一人で寄越すような真似をするはずがない。
「そう言いながらリザさんもエドの事、狙ってるんでしょ~!」
アルフォンスの後ろから現れたウィンリィの言葉にロイもアルフォンスも驚く。
そんなそぶりは見た事なかったのだが…
「えぇ、その通りよ。流石はウィンリィちゃんね。」
「女の勘を嘗めないで下さい。それにあたしはエドの幼なじみですよ?」
説得力があるようなないような…
しかし、特にロイには他の点が気になっていた。
「ききききき君!!本当に鋼のを狙っているのかね!?」
「はい、そうですが…何か?」
「何か?ではない!!私が鋼のの事を好きな事を」
「知ってます。それが何か?恋愛は個人の自由だと認識していましたが。」
ホークアイの言う事は最もだ。
恋愛は誰かに制限されるものではない。
「しかしだねっ」
「アルフォンス君。だから安心してエドワード君を預けてくれないかしら?この無能にエドワード君を任せたりしないから。」
「でも…准将も兄さんの事狙ってるんですよね?任せるに任せられないんですけど…」
確かにそうである。
「大丈夫よ。私は手を出したりしないから。絶対に無理強いとかもしないし。」
そうだろうと言われた言葉に確信が持てるのは彼女が彼女だからだろうか?
他の人に言われても先程のように一蹴してしまうのだが…。
「…わかりました。僕は涙をのんで兄さんを送り出しましょう。…ただし!」
アルフォンスはロイに向けて指差す(あぁ…昔、エドワードに人を指差しちゃ駄目だと言っていたのは何処の誰だったか…)と
「休みは一週間に確実にニ度!そしてその日は僕たちに兄さんを独占させる事!!!」
と高々に宣言した。
その内容にロイは青くなる。
「無理に決まっているだろう!大総統補佐官だぞ?それに一日でも鋼のに会えないなんて耐えられるか!!」
思い切り、私情だ。
「じゃあ許可できません。自慢ですけど、僕は貴方より兄さんをオとすのが上手いんですよ。」
うっ、と詰まったロイに代わってホークアイが「わかったわ」と了承した。
彼女が了承したのなら大丈夫だろう。


知らぬ間にそんな契約が成り立っているなど荷造りをしている当人は思いもしないだろう

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※続き


「エド~!ちょっと、コレどうゆう事よ~~!!!」
ウィンリィの声にエドワードは驚いて木の上から飛び降りる。
その途端、ガシッと肩を掴まれた。
「どうした、そんなに慌てて…」
「どうしたもこうしたもないわよっ!」
そう言ってウィンリィが広げたのは新聞。
そこにはロイが大総統になったという事と…
「はぁ!?何だとっ!!」
「私が訊いてるんでしょ!あんた、辞めてきたんじゃなかったの?」
鋼の錬金術師エドワード・エルリック
大総統補佐官に任命
一階級特進、中将
「あのヤローどういうつもりだ…」
「そうだよねっ」
「うぉっ、アルフォンス?いつの間に…」
いつの間にか家にいたはずのアルフォンスがエドワードの隣で新聞を覗き込んでいる。
その額には気のせいと思いたいが青筋がたっていた。
「あの男、ふざけるのも大概にして欲しいところだよ。兄さん、待ってて!今からあの男殺ってくるから☆」
爽やかにそう言い切るとアルフォンスは背を向けて駅の方に行こうとする。
流石に弟を犯罪者にするわけにはいかないのでエドワードはその肩を掴んだ。
「待て、待て、待て!とにかく、まずは電話してくるからさ。」
「兄さんがあんな男のために動く事ないよ。ね、ウィンリィ?」
「当たり前じゃない!エドは約束守ったんでしょ?」
その言葉に頷くとウィンリィもスパナ片手に立ち上がる。
「アル、私も手伝うわ。」
「え?本当?頼もしいなぁ。」
アルフォンスはにこやかに笑うと再び駅に向かおうとする。
今度はウィンリィも一緒にだ。
「待てって!あいつはどうでも良いけど、お前らを犯罪者にはしたくないんだよ!!」
本人(ロイ)が聞いたら号泣するような言葉にアルフォンスとウィンリィは感動したのか納得したのか「わかった」と頷いた。
「そうよね~。あんな男のために手を汚すのもね。」
納得、の方だったようだ。
「兄さん!そんなに僕たちの事っ…」
こっちは感動しているようだ。
とにかく二人を止める事に成功したエドワードはホッと胸を撫で下ろした。
「電話して、どういう事か聞いてくるよ。二人はここにいろ。」
「わかったよ。逆探知されないように気をつけてね。」
「わかってるって」
リゼンブールにいるのを相手は知らないはずなので嗅ぎ付けられるわけにはいかない。
なので、二人の声が相手に聞こえるような事があってはならないのだ。
「ふざけんなよ…」


エドワードはロイ直属だったので本人に直接繋がる番号を知っている。
なので、電話をすればすぐに繋がるはずなのに出ない。
「あのヤロー何やってんだ…」
『ガチャ』
『…もしもし?もしかしなくても大将っスか?』
出たのがハボックだという事にエドワードは首を傾げる。
この番号は大総統の部屋にある電話に繋がっているはずだ。
「ハボック大佐?奴は?」
『いやぁ…その…すまん!!俺たちじゃあの人を止められなかったんだ!』
「どういう事だ?」
何かあったのか?と訊くとあったと言うか…と言葉を濁される。
『…多分、大総統はそっちに着いてる頃だと…』
「…逆探知は出来ないはずだろ?」
その前に「着く」と言われても、電話すらしていない。
『そうなんだよなぁ。大将がかけてくる電話っていっつも逆探知も何にも出来ねぇからフュリーも落ち込んでたぜ?』
「じゃなくて!」
『リゼンブールだろ?大将がいるトコ。』
「ぇ…?」
その戸惑った声は肯定と同じだ。
エドワードは否定しようとしたがハボックの『やっぱり…』と言う声に遮られた。
『大総統がな、言うんだよ。大将は何だかんだ言いつつ、まずはリゼンブールに帰るって。そこでアルたちと過ごしてから旅に出るだろうから、まだそこにいるだろうってさ。当たり?』
「うっさい」
自分の考えが読まれているのが悔しくて吐き捨てるように呟く。
そこでふと、気が付いた。
いる場所の見当がついていると言う事はつまり…
「俺は逃げる!!」
「それは困るな。」
電話越しではない声。
そしてハボックの声でもない、この声は…
「てめぇ…」
エドワードの憎々しいといった声を綺麗に無視してロイはエドワードの持っていた受話器を取る。
「ハボック、足止めご苦労。」
『そーですよ。大将の逆鱗受けるのいやですからね!』
「無理だな。」
ガチャンッとまだ文句の聞こえる受話器を置くと、去ろうとして背を向けているエドワードを抱きしめた。
「相変わらず、つれないな。」
「つれてたまるか!!」
何度も繰り返した会話をしながらエドワードは逃げ出そうと、ロイは逃がさまいと攻防戦を続ける。
そして、軍配は上がった。
「やっと諦めてくれたか…」
上がったのは勿論、ロイ。
いくらエドワードが強かったとしてもやはり体格差だけはどうにもならない。
それに基礎体力や筋力もロイの方が上だ。
伊達に軍人歴が長いわけではない。
「そーゆー問題じゃねぇっての。俺だって文句があるから大人しくしただけだ。逃げねぇから放せっ」
「嫌だね。」
「はっ?」
「嫌だ、と言ったんだ。」
「子供みたいな事言ってんじゃねぇよ!」
エドワードはそう言ってロイの胸を突っ張るが、全く動かない。
同じ軍人として、それ以前に男として屈辱的だ。
「子供で良いさ、君の前ならね。君は子供を一人で置いていくほど非道じゃないだろう?」
「子供ならな!あんたは大人だろ。逃げないっつってんだからさっさと放せっ!!」
「そっちこそ何度も言わせるな。放す気はないと言っているだろう?あの時、放さなければと何度も後悔したからね。私はその経験を今に活かしているだけだよ。」
ロイに聞く気がないのを理解するとエドワードは溜息をついた。
どこの駄々っ子だ…
「わかったから、せめて力を緩めろ。痛いんですけどー」
「あぁ、すまない。逃がしたくないと思うと力が入ってしまってね。」
ロイが力を緩めるとエドワードはふぅと息を抜いた。
「…あんたどういうつもりだ。俺は退役届け出しただろ。」
「ん?受理してないだけさ。私がまだ受理していない…つまり、君はまだ軍人だ。そうだろう?」
あっさりとそう言い切ったこの男を本気で殴りたいと思った。
あぁ、こいつを殺すと言っていたあの二人を止めるのではなかった…。
今からでも良いから殺って欲しい…

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※弱い大人、優しい子供の続き?




「今度は私の番だったね。」
男は笑った。
金色の少年は青年になっていた。
「ったく、おっせーよ。」
「そう言うけどねぇ、君たちが凄すぎるんだよ。」
「まぁな。」
男も青年も笑った。


「おめでとうございます、大総統閣下。」
「ありがとう。」

この男の様子に昔の面影は見えない。
とてもじゃないがあの弱々しい男と同一人物だとは思えないくらい今の彼はしっかり地に足がついていた。
「閣下の年でこの任についたわりに民から指示も良好です。」
「…『鋼の』効果かな?エルリック少将は民からの人気が高いからね。君みたいな部下を持って私も鼻が高いよ。」
「恐れ入ります。」
昔は生意気な口調で喋っていた青年もすっかり丁寧な口調が板についている。
それは時の流れを確かに感じさせるものだった。
「しかし、これで目標が達成したわけではない。これからの課題はまだまだ沢山ある。まず始めるのは軍の縮小化だ。反感をどう抑えるかが腕の見せどころだ。」
そこで男は一旦、言葉を切って男直属の信頼できる部下たちを見渡した。
「諸君。ここまでついてきてくれた事に礼を言う。そして、これからも力を貸してくれ。君らの働きに期待している。」
『Yes,sir!!』
部下たちは無駄な動きのない綺麗な敬礼を一斉にした。
「…ありがとう。」
男は年に似合わない嬉しそうな幼い笑顔を見せた。
元から30代の人間とは思えないくらい童顔な男だから更に幼くみせる。
しかし、すぐに男は顔を引き締めた。
「もう人が戦争で泣かない国にしたい。何年かけても、何十年かけても絶対に。」
「…お供します。」
男の副官で現在秘書官として男の下についているホークアイ准将は力強く言い切った。
「閣下が倒れられちゃこっちも困りますしね~。」
緊張感なく、いつも通り眠そうな顔をしているハボック大佐はそれでも目だけ真剣に言い放った。
「私たちが命を預けるのは貴方だけですよ、閣下。」
ブレタの言葉に他の二人も頷く。
ただ一人
金色の青年だけは頷く事もせず、しかし何か言うでもなく、ただ、男を見ていた。
その事に男は寂しそうに笑った。


「君は…」
「はい?」
「君はもう支えてくれないのかい?」
男の言葉に青年は苦笑した。
何を今更…とでも言うように。
「貴方を支えてくれる人たちは沢山います。それにきっと貴方が本当に必要とする人間も現れますしね。」
青年の言葉に男は苦虫を噛んだような顔をした。
「…昔の口調で良い。昔の君の言葉が聞きたいんだ、鋼の。」
「せっかく人が敬語で話してやってんのにわかんねー奴だな。」
青年は呆れた顔をして男を見た。
「その口調の方が君らしいからね。…君はもう一緒にいてくれないのかい?」
「あんたはもう自分を保てんだろ、あの頃と違ってさ。別に俺があんたの部下を止めたからって今までの記憶や繋がりが消えるわけじゃねーんだし。」
青年はあの時したように男の頭を撫でた。
やはり親が子を撫でるように優しく。
そこに親愛以上の感情はない。
「あんたの隣に立つ人間は俺じゃない。あんたはこれから自分の隣に立つ人間を探すべきだ。」
青年の言葉が男に突き刺さる。
「君じゃ…駄目なのかい?」
「駄目。」
即答されて男は更に落ち込んだ。
男には今も、そしてこの先も来て欲しくない別れだと言うのに…
「あのさぁ、別に永遠の別れってわけじゃないんだ。俺はあんたより先には死なないって約束したし?それに、あんたさえ良ければこれからも会ったりとかするつもりだったんだけど…」
青年のその言葉を聞いても男の気分は晴れない。
ずっと側にいたい。
それが男の願いだからだ。
「私は…私の隣に立つのは君しかいないと思ってるんだ。君が側にいてくれたから今の私がここにいる…いや、遠回しな事を言うのは止めよう。私が君の隣にいたいんだ。君の側にいたいんだ。」
男はあの時したように青年を抱きしめた。
しかし、あの時のように男の目の中の焔は死んでいない。
少し、揺らいではいるが……
「私の我が儘で君の時間を使わせてしまった事はわかってる。でも私はこれからも君を放したくない。放せないんだ…」
「放せない、ねぇ?俺はそう思わない。あんたは俺がいなくても立ってられるよ。あんたの焔は消えない。」
青年は譲らない。
別に青年は男が嫌いだとかいやがらせの為に言っているわけではないのだ。
男の元にいればこの男は青年に依存してしまう。
今でさえ依存しかけているというのに…
青年は自分が男を甘やかしてしまう事を自覚していた。
「そんな理屈なんて関係ない。私が君を好きなんだ。」
「好き?」
「愛してる…」
青年は顔を歪めた。
そしてまた男の頭を撫でる。
「違うよ。」
「?」
「あんたのそれは恋情じゃない。親愛で友愛だ。ちょっと違うかもしれないけどヒューズ准将への感情に近いもんだと思うんだけど、違う?」
「違っ……」
違う?
本当に?
「俺しかいなかったから勘違いしただけだ。あの人への感情と少し違ったから。」
だろ?
青年は笑う。
男は否定できない。
「退役届け、受理しとけよ。」
青年は背を向けた。
「っ鋼の!!!」
「…また、旅に出ようと思ってるんだ。」
引き止めようと伸ばされた腕はやんわり避けられる。
「待ちなさいっ、鋼の!!」
「…またお会いましょう、大総統閣下。」
青年は振り返らなかった。
男はその場に佇んだまま動けなかった。


「恋情じゃない?」
少し経った後、男は呟いた。
その男の目には爛々と焔が輝いている。
「それがどうした。恋愛だろうが親愛だろうが友愛だろうが知った事か。側にいたいと言う感情に嘘はないんだから別に構いはしない…いや、違うな。側にいたいなどと言う甘い感情ではないな。手に入れたい。ずっと私に縛り付けておきたい。あの子が欲しい。」
そこまで呟いて男は笑った。
「成る程。恋情ではないな、確かに。これでは独占欲だ。」
それがどうした。
愛と独占欲の違いなど微々たるものじゃないか。
側にいたい、大切にしたい…
私の手で
ほら、変わらない。
「私の焔を煽ったのは君だよ、鋼の。後悔するならあの時、私に手を差し延べてしまった自分に後悔するんだね。」

そしてまた、男は笑った。

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※ちと痛いカモ
未来設定
ロイエド???
階級が一個ずつ上がってます




その男は弱りきっていた。
親友を亡くして臆病になっていた。
それでも何とか自分を騙し騙し前を向いて歩き続けたが、それも限界に近い。
それをその男の部下たちは感じていた。
偽りでも良い。
彼が縋れるモノがあれば…

そこに金色の少年が帰ってきた。
目的の物を探し出して、弟と自分の手足を取り戻した少年が帰ってきた。
これからは危ない旅をする必要もない、平穏を取り戻した少年たちが。
少年は男に言った。
「真理のヤローから取り戻したぜ。次はあんたの番だ。」
その事に男は自分の事のように喜んだ。
だが、本人はそのつもりでも少年たちには疲れきった笑みにしか見えなかった。
男が危うい場所に立っているのがはっきり見えてしまったのだ。
返すつもりだった銀時計の話題は出さず、少年たちは今後どうするか?と言う質問も曖昧に返し、彼の部下たちの元に急いだ。

彼の部下たちは勢いよく部屋に入ってきた少年たちを見ると驚いた後、とても嬉しそうに笑った。
鎧の姿はなく、少年が二人いる事に。
久しぶりに心底嬉しい出来事だったから心の底から喜んだのだ。
だが、二人の顔を見て、自分たちの上司の様子に気が付いたのだと気付いた。
つまり、それだけ上司が自分を作れない状態だという事だ。
この隙をあの古狸どもが突かないわけがない。
どうにか対策を立てないと危ないだろう。
「なぁ」
「何?」
「少し、あいつと二人きりで話させてくれないかな?」
その言葉に部下たちは驚いたが、一途の希望を見出だしたとばかりその顔は輝いた。
あの上司がこの金色の少年を特別、気に入っているのを知っているからだ。
どういう感情でなのかはわからないが…
「任せていいの?言っては何だけど、貴方たちはもう解放されても良いのよ?」
じゃあ、そうする。
と、言われたら後がない事はわかりきっていた。
部下たちにも少年たちにも。
「兄さん…」
「アル。俺たち錬金術師の原則は等価交換だ。俺たちは今までの恩を返すべきなんだよ。」
男がそういうつもりで世話を焼いてくれたのではないと知っていても。
返すのは今、この時なのだと少年は理解していた。
「な?あいつが自分を作れる状態まで、それか本当にあいつが必要とする人間を見つけられるまで、側で支えてやれば良いだけだ。簡単だろ?あいつが今までしてきてくれた事に比べれば…」
その言葉に弟は苦笑した。
兄は一度決めてしまったら何度止めても覆す事はしない。
それに止めるつもりもない。
「兄さん、頑張ってね。大佐って結構、兄さんと似たとこあるから。」
「おぃ、それは俺に対する厭味か。」
そんな少年たちのやり取りに笑った部下たちを見て少年たちも笑った。


男は先程、出て行ったばかりの少年が戻ってきた事に驚いたが、いつも通り笑みを浮かべて迎え入れる。
それが少年の目には痛々しく映っている事など、勘が良かったはずのこの男は気付いていない。
男は少年の前に立った。
「どうしたんだい?あぁ、彼らも喜んでくれただろう?」
「…准将。」
「旅をする理由もなくなったし、リゼンブールに戻るのかい?」
「准将。」
「あぁ、でも君は落ち着きがないから…」
「准将。」
少年に三度呼ばれて、漸く男は喋るのを止めた。
男の顔は少し苦しそうに歪んでいる。
「無理矢理笑うのは止めろ。大尉たちも気付いてるぞ。」
その言葉に男は驚愕したようだ。
人の考えを読むのが得意だったあの男とは思えない失態だ。
「なぁ、准将はどうして欲しい?」
「…君に、かい?」
「そう。あんたは俺にどうしてもらいたい?銀時計を返してリゼンブールに帰って欲しいわけ?」
少年がそう言うと男は顔色を変えた。
自分では何度も口に出したのに少年の口から聞くと違う言葉にすら聞こえる。
とても怖い言葉に聞こえる。
「違っ…私は!!」
私は…
と繰り返し呟く男はとても弱々しい。
男の目に綺麗で力強いあの焔が見えない。
そんな彼ではつまらない。
そんな彼は彼ではない。
「…どうしてほしい?」
少年のその問いと同時に男は少年を抱きしめた。
しがみついたと言っても過言ではない。
「っ…側に……側にいてくれ。私の目の届く所に。」
「それで?」
「…銀時計を返して欲しくない。繋がりを消したくない。ずっと側にいたい。大切にするから、戦場になんて絶対やらないから、だからっ……」
「側にいてやる。」
「ぇ?」
男は腕の力を緩めて少年の顔を見る。
少年は穏やかな顔をしていた。
「何処にも行かない。あんたがそう願うなら何処にも行かない。部下にだってなってやる。あんたが自分を取り戻すまで側にいてやる。…絶対にあんたより先に死なない。」
「本当に?」
「本当だ。」
少年は男の頭を撫でた。
親が子供にするように優しく撫でた。

男は泣いた。

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