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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「―――ルーク殿?」

見かけたのは偶然だった。
久々の休暇をゆっくり過ごし、消耗品を買いに行った帰り、ふと視線を向けた先に彼はいた。
ルーク・フォン・ファブレ――の模造品[レプリカ]。
けれど、自分には彼が自信のないただの少年にしか見えない。
その少年が一人、夕日の中に立っていた。
風が夕日色の少年の髪を靡かせる。
そして――そのまま消えてしまうのではないかと、思わず手を伸ばした。

「え………?」

いきなり腕を掴まれた少年は驚いて振り返る。
逆の手で剣の柄を掴んで。
そのことに、彼は一端の武人なのだと知った。

「フリングス、将軍?」

少年の声が己の名を奏でる。
――甘い…
何故か、そう感じた。

「こんにちは…いえ、もうそろそろこんばんは、の時間ですね」

「ぇ、あ、はい、こんばんは」

「こんな時間にお一人でどうなさったのですか?」

「えっと……」

「一人じゃないですのー!ミュウもいるですのー!!」

ひょっこりと少年の道具袋の中から頭を出すチーグル。
そのチーグルの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる少年。
小動物にその強さは虐待に近いのでは…と思ったが、当の小動物が喜んでいるので良しとする。

「では、こんなところに一人と一匹でどうしたのですか?」

「こんなところ?」

「この時間帯は、この辺りは物騒ですのであまり人が通らないんですよ。ですので、暴漢などに襲われて悲鳴を上げても助けが来る確率が低いんです」

それを知って、最近はパトロールをしているんですけどね。
そう苦笑すると、少年はわたわたと落ち着かない様子で辺りを見回した。
自分たち以外、人っ子一人いない。

「俺、知らなくて…あ、でも、そういう奴らが出ても俺一人で…」

「過信をしてはいけませんよ、ルーク殿。貴方の腕が確かでも、そういった輩は卑怯な手を使いますからね。多勢でたった一人に襲い掛かることを恥とも思わない者たちですから。だから、もし遭遇するようなことがあれば助けを呼んで下さい。可能性は低くとも、それが1番生存率を上げる方法ですから」

「助けを、呼ぶ……?」

まるで知らない言葉を聞いたかのように少年は目をぱちくりと瞬かせる。
その様子に嫌な予感がして眉を寄せた。

「……貴方が不寝番を担当する際も、敵に出くわしたらそうなさるでしょう?」

「え……」

「…………しない、のですか?」

「あの…最初は、俺一人じゃ無理だし、起こしてたけど『何のための不寝番だと思ってるの?』『これくらい一人で片付けてよね!』『おいおい、ルーク。一人じゃ寂しいからってわざわざ起こすなよ』『こんな時間に起きるなんて美容の敵ですわ!』『おやおや、お坊ちゃんは一人じゃ何もできないようですね』って何度も言われて…。だから、そういう時は俺一人で対処してますけど…」

それが当たり前なんでしょ?
そんな目で少年はこちらを見た。
しかし、そんな当たり前があるはずない。
不寝番は寝ずに敵がいないか見張る係であって、敵が来たら一人で戦う係ではない。
そんなことをして、もしその不寝番が倒されてしまったら、寝ている者たちは無抵抗のまま殺されてしまうことになる。
そんなの考えずともわかるはずなのに、彼らは何を考えてそんな対応をするのか…

「あの、フリングス将軍…?」

「………彼らは?」

「へ?」

「彼らが不寝番の時、敵に遭遇したらどうしてるんですか?」

「そりゃ、叩き起こされますけど…」

今度こそ絶句する。
少年が不寝番の時は起こすなと言いながら、自分たちが不寝番の時は起こす?

「……………矛盾、してませんか?」

「だって、俺は罪人なんですから、あいつらより働かなきゃいけませんし。それに、不思議に思って聞いてみたら『ルークは1番強いんだから一人でも平気でしょ』って言われたので…」

パーティーの中で1番強い奴は一人で対処しないといけないんだろ?

まるで、洗脳…いや、まるでではない。
これは洗脳だ。
無知をいいことに自分たちの都合の良いように常識という名の非常識を埋め込んで、それを疑問に思うことすら許さない。
少年のことをお人形のように扱う彼らは、少年に自我があることを理解しているのだろうか…
レプリカだから、罪人だからと人格を無視して、思い通りに動く人形を作っているようにしか思えない。
しかも、『1番強い』?
軍人が半分を占めるパーティーで、王族である軍事訓練を受けていない少年が?
それはつまり、少年を前線に出していたということだ…レプリカだとわかる前から王族を。

「…ルーク、どの」

「?」

「本日はどちらに宿泊予定でしたか?」

「えっと、明日発つ予定なので街の端の方の……」

「そうですか。では、後ほどそちらに部下を向かわせますので、ルーク殿は私の執務室で旅の話をして下さいませんか?」

「へ?別にいいですけど、ジェイドが報告書を出してるんじゃ…」

「カーティス大佐の報告書は簡潔的でわかりやすいのですが、報告書に感情は伴いませんからね。是非、その時にどう思ったのか貴方の主観を混ぜて構いませんので教えて下さい」

そう、大佐は簡潔でわかりやすく、模範のような報告書を書く。
だから、違和感に気付くのが遅れた。
その状況に至るまでの経緯を…何故、少年がそのような行動に出たのか、その理由が報告から欠けていることに。

「あ、はい。わかりました」

少年は戸惑いながらも頷いた。
その事に安堵する――彼らと少しでも離すことに成功したから…
彼らと共にいる限り、少年は人形でしかいられない。
それは予想ではなく確信だ。
レプリカだとかそういう問題じゃない。

「では、行きましょうか」

「ミュウもいるですの!」

少年の肩に乗るチーグルが存在を主張する。
今の今までその存在を忘れていた。

「はい。では、ミュウ殿もご一緒に」

「ミュウも話すですの!ミュウはずーっとご主人様と一緒だったですの!!」

「そうですか。よろしくお願いしますね」

チーグルの証言がどこまで当てになるかはわからないが、少年一人の証言より良いかもしれない。
少年は洗脳されきっていて、彼らの非常識な行動でも肯定してしまうだろう。



その後、書記官を連れて執務室で話を聞いたアスランは言葉を失った。
出るわ、出るわ、非常識な行動の数々。
数え切れないほどの不敬と犯罪。

――ちょっと待て…ルーク殿と会ったのがマルクト内だなんて聞いてませんよ?!
――しかも、ファブレ公爵の屋敷に侵入して子息を誘拐した犯罪者を放置?!
――極秘任務の途中でそれ以外の行動なんて…

最初の方を聞いただけで眩暈がする。
連れてきた書記官も真っ青になりながら、ルークとミュウの話を紙に綴った。

「……………ルーク殿」

「はい?どうしました?」

アクゼリュス崩落、そしてユリアシティのところまで話し終えたルークの肩をがしっと掴むアスラン。
ルークはきょとんと首を傾げてアスランを見た。

「貴方は私が守りますっ…いえ、護らせて下さい、お願いします!!」

「ふぇ?守るって…罪人を守る必要なんてないと……」

「いいえ!貴方がそんなに罪を感じる必要も、その身を矢面に立たせる必要もないのです!」

――罪人といったら、周りの面子の方が余程罪人だ
――だいたい、アクゼリュスの崩落はルーク殿が騙されてと聞いていたが、どう考えたって暗示じゃないかっ

「戦う必要なんてないんです。戦うのは我ら軍人の役目ですから」

「でも、武器を持ってるなら子供でも…」

「ティアさんの言い分が通るのは戦時中だけです。一触即発の状態だったとはいえ、まだ戦争の起きていない状況で民間人が戦う必要なんてないんですよ」

「お、俺はレプリカで…っ」

「レプリカは皆軍人なんですか?」

「そうじゃ、ないですけど…」

「貴方がその手を汚す必要なんてないんです。誰が何を言おうとも、これからは私が貴方を護ります」

膝をついてその手を取る。
主であるマルクト皇帝以外に膝をつくことになるとは思わなかったが、少年に関しては例外だ。
いっそ、頭を床に打ち付けるほど下げた方が気持ち的に楽かもしれない…
それほど大佐の対応は最悪なものだった。
陛下にもし駄目だと言われたら、この地位を返上してでも少年を護ろうと思わせるほど…そう言えば少年が遠慮するとわかっているから、結果が出るまで言うつもりはないが。

その後、書記官にも泣いて守られてほしいと頼まれたルークは戸惑いながら頷き、それを確認したアスランは朝一の謁見を申し込んだ。
そして次の日の朝。
アスランの報告に真っ白になったピオニーは即効ジェイドを呼び出し、事実を照らし合わせ、すぐさま処分を下した。
その後、キムラスカとダアトに文を出し、事の次第を伝えると、ルークの共にアスランを付け、キムラスカからはジョゼットが派遣された。

研究員として幽閉されたジェイド以外の行方を知る者はいない…――




―――――――――――――――――――
おかしい…
フリルクを書こうとしたのにフリルクにならなかったうえ、仲間に厳しくなった…

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無題
何これ萌えるしかないじゃないですか…
フリルク…いい!
たま 2011/07/28(Thu)01:44: 編集
Re:無題
コメントありがとうございますv

フリルクいいですよね!
よっしゃ、同士ゲット!!!(ぉい
アスランに護られて、いざというときはルークがアスランを護ればいいよ(ぇ
一緒にいるうちに、義務とかそういうのじゃなくて、お互いが大事だから「護る」二人になれればいいなと思いますvvv
【2011/09/30 12:35】
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