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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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※ちと痛いカモ
未来設定
ロイエド???
階級が一個ずつ上がってます




その男は弱りきっていた。
親友を亡くして臆病になっていた。
それでも何とか自分を騙し騙し前を向いて歩き続けたが、それも限界に近い。
それをその男の部下たちは感じていた。
偽りでも良い。
彼が縋れるモノがあれば…

そこに金色の少年が帰ってきた。
目的の物を探し出して、弟と自分の手足を取り戻した少年が帰ってきた。
これからは危ない旅をする必要もない、平穏を取り戻した少年たちが。
少年は男に言った。
「真理のヤローから取り戻したぜ。次はあんたの番だ。」
その事に男は自分の事のように喜んだ。
だが、本人はそのつもりでも少年たちには疲れきった笑みにしか見えなかった。
男が危うい場所に立っているのがはっきり見えてしまったのだ。
返すつもりだった銀時計の話題は出さず、少年たちは今後どうするか?と言う質問も曖昧に返し、彼の部下たちの元に急いだ。

彼の部下たちは勢いよく部屋に入ってきた少年たちを見ると驚いた後、とても嬉しそうに笑った。
鎧の姿はなく、少年が二人いる事に。
久しぶりに心底嬉しい出来事だったから心の底から喜んだのだ。
だが、二人の顔を見て、自分たちの上司の様子に気が付いたのだと気付いた。
つまり、それだけ上司が自分を作れない状態だという事だ。
この隙をあの古狸どもが突かないわけがない。
どうにか対策を立てないと危ないだろう。
「なぁ」
「何?」
「少し、あいつと二人きりで話させてくれないかな?」
その言葉に部下たちは驚いたが、一途の希望を見出だしたとばかりその顔は輝いた。
あの上司がこの金色の少年を特別、気に入っているのを知っているからだ。
どういう感情でなのかはわからないが…
「任せていいの?言っては何だけど、貴方たちはもう解放されても良いのよ?」
じゃあ、そうする。
と、言われたら後がない事はわかりきっていた。
部下たちにも少年たちにも。
「兄さん…」
「アル。俺たち錬金術師の原則は等価交換だ。俺たちは今までの恩を返すべきなんだよ。」
男がそういうつもりで世話を焼いてくれたのではないと知っていても。
返すのは今、この時なのだと少年は理解していた。
「な?あいつが自分を作れる状態まで、それか本当にあいつが必要とする人間を見つけられるまで、側で支えてやれば良いだけだ。簡単だろ?あいつが今までしてきてくれた事に比べれば…」
その言葉に弟は苦笑した。
兄は一度決めてしまったら何度止めても覆す事はしない。
それに止めるつもりもない。
「兄さん、頑張ってね。大佐って結構、兄さんと似たとこあるから。」
「おぃ、それは俺に対する厭味か。」
そんな少年たちのやり取りに笑った部下たちを見て少年たちも笑った。


男は先程、出て行ったばかりの少年が戻ってきた事に驚いたが、いつも通り笑みを浮かべて迎え入れる。
それが少年の目には痛々しく映っている事など、勘が良かったはずのこの男は気付いていない。
男は少年の前に立った。
「どうしたんだい?あぁ、彼らも喜んでくれただろう?」
「…准将。」
「旅をする理由もなくなったし、リゼンブールに戻るのかい?」
「准将。」
「あぁ、でも君は落ち着きがないから…」
「准将。」
少年に三度呼ばれて、漸く男は喋るのを止めた。
男の顔は少し苦しそうに歪んでいる。
「無理矢理笑うのは止めろ。大尉たちも気付いてるぞ。」
その言葉に男は驚愕したようだ。
人の考えを読むのが得意だったあの男とは思えない失態だ。
「なぁ、准将はどうして欲しい?」
「…君に、かい?」
「そう。あんたは俺にどうしてもらいたい?銀時計を返してリゼンブールに帰って欲しいわけ?」
少年がそう言うと男は顔色を変えた。
自分では何度も口に出したのに少年の口から聞くと違う言葉にすら聞こえる。
とても怖い言葉に聞こえる。
「違っ…私は!!」
私は…
と繰り返し呟く男はとても弱々しい。
男の目に綺麗で力強いあの焔が見えない。
そんな彼ではつまらない。
そんな彼は彼ではない。
「…どうしてほしい?」
少年のその問いと同時に男は少年を抱きしめた。
しがみついたと言っても過言ではない。
「っ…側に……側にいてくれ。私の目の届く所に。」
「それで?」
「…銀時計を返して欲しくない。繋がりを消したくない。ずっと側にいたい。大切にするから、戦場になんて絶対やらないから、だからっ……」
「側にいてやる。」
「ぇ?」
男は腕の力を緩めて少年の顔を見る。
少年は穏やかな顔をしていた。
「何処にも行かない。あんたがそう願うなら何処にも行かない。部下にだってなってやる。あんたが自分を取り戻すまで側にいてやる。…絶対にあんたより先に死なない。」
「本当に?」
「本当だ。」
少年は男の頭を撫でた。
親が子供にするように優しく撫でた。

男は泣いた。

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