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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「君が好きだっ」

そう言って抱き締めたその人は、尊敬する先輩。
仕事に対する姿勢や大人な対応に憧れを抱いていた。

私の傷[過去]を知っている、数少ない人…
そして、きっと私以上に辛い過去を背負う孤独な人。

孤独…違う、孤高、ね。
私の手の届かないところにいるはずの人だもの。
私では癒せない傷を負った人だもの。
私が側にいていいような人じゃない…だけど、貴方が…他ならぬ貴方が求めるなら、応えるわ。
例え、本当に求めるモノが私じゃなくても……


玉砕覚悟で告白して、予想外にも受け入れられた蓮は、思わず都合の良い夢を見てるのではないかと疑った。
ラブミー部のキョーコが、曲解もせず告白を受け入れるなんて、考えもしなかった…けれど、頬をつねってみても夢から醒める様子はないし、痛みも感じる。

「夢、じゃない…」

じわじわと湧いてくる喜び。
それと同時に不安も湧いてきた。

「…義理、とかじゃないよな…?」

今時珍しいほど義理堅い娘だ。
世話になっている先輩の告白を断わるなんて…と義理で受け入れた可能性も否定できない。
だいたい、彼女は恋や愛を否定していたはずだ。
その彼女があんなにあっさり受け入れるだろうか…?
普段の彼女なら「嘘です!からかうのも好い加減にして下さい!」とか「いたいけな後輩で遊ぶのはそんなに楽しいですか?」とか「光栄です!私めも敦賀様を信仰しております!!」とか言うはず。
なのに彼女は「嬉しいです。あたしも好きですよ…とても」と言って、抱き締めた俺の背中に手を回した。
その時の俺は嬉しくて他のことは考えられなくて…
だけど今は、何か大きな間違いを犯した気分だ。
何か、見落としているような……

見落としたモノに気付いたのは、彼女と3回目に過ごした時だった。


「ねぇ、最上さん。なんで今日も『ナツ』なの?」

蓮の家で食事を取り、ソファーで二人してくつろいでいた時、彼女のしている化粧が気になって、そう尋ねた。
普段、あまり化粧をしないキョーコ。
しかし、前回もその前も『Box“R”』の撮影後に会ったから気にしなかった。
化粧をするのが好きな彼女のことだ、落とすのが嫌だったのだろう…そう思って…
それに、『ナツ』が取り憑いている時は積極的に触れてくれるし、恥ずかしがって触れることを嫌がったりしないから、仕事の都合上なかなか一緒にいられない俺にとって、貴重な時間の中ずっと彼女に触れていられるのは嬉しかった。
だけど、何か違うような気がしていたのも確かだ。
俺が好きなのは最上さんであって『ナツ』ではない…いや、『ナツ』も最上さんの一部だから勿論好きだけど、一番好きなのは最上さん自身だ。
なのに、付き合うようになってから、仕事以外では『ナツ』にしか会ってない気がする…

「…イヤ、なの?」

「嫌じゃないよ、勿論。ただ、『君』だけじゃなくて、最上さんにも会いたいな、って」

「その必要があるんですか?あたしじゃ不足?」

「そうじゃない。『君』も好きだよ。ただね、素の君にも会いたいんだ。会って、安心したい。ここにいるのは君の意思だと確かめたい」

俺の我が儘。
君の気持ちが見えなくて不安だから…恐くて恐くて仕方ないから。
だから、君に会いたい。
君を抱き締めたい。

「……なんで?」

「え?」

「なんで、ですか?貴方が求めてるのはあたしでしょ?」

そう言って艶っぽく微笑する『君』
この時になってようやく、俺は見落としたモノに気付いた。
いや、きっと見ないふりをしていた。
『彼女』だからこそ、受け入れてくれたのだと知っていたから…

だけど、俺の求める人は『君』じゃない…俺が愛する人は『最上キョーコ』だから…

「…ごめんね。俺が『君』の時に告白したから、そう思ってるんだよね?」

『君』が言い寄られてるのを見て、それが何度も続いて、我慢できなくなった。
君の時は他の人からは隠れている魅力が『ナツ』の時は溢れ出していて…花に集まる蝶のように『君』の周りに邪魔な虫がうようよと群がる…それを見るのが苦痛で仕方なかった。
だから、告白した。
俺にとって、君は君でしかなかったから、どんな君も、最上キョーコでしかなかったから…

「違うんだ。俺は『ナツ』が好きなんじゃない。最上さん…君が好きなんだ。最上キョーコという人間を愛しているんだ」

「え…?」

「見た目で好きだなんて言ったわけじゃない。君だから好きなんだ」

それに外見は普段の君の方が好きだ。
そう言うと、キョーコは『ナツ』ではありえない間抜けな表情を浮かべる。
それを見て、やはり誤解していたのだと確信した。

「あたしじゃなくて、私…?」

「そう。君だよ」

「うっ、嘘!嘘に決まってます!」

「どうして?『ナツ』の時は素直に受け入れてくれたのに」

「だって、『ナツ』はカリスマ女子高生で、モデルみたいな存在感を持っていて…皆、私じゃなくて『ナツ』を求めてた!」

「…皆って、君に告白してきた男共?」

「そうです!『ナツを見て君に一目惚れした』『君はすごく魅力的だ』『モデルみたいだね。君の美しさに魅入られてしまったよ』…全部、全部、『ナツ』への賛辞です!私じゃなくて、みんな変身した『あたし』しか見てない…私自身を求める人なんていなかった…っ」

『ナツ』は私…でも、私じゃないのに…
そう苦しげに呟くキョーコに、蓮は思わず拳を握る。
役者だからこそわかる苦しみ…
蓮で例えるなら、『嘉月』が好きだと告白されるようなものだろう。
蓮はあまりないが、それでもドラマや映画での役のイメージを押し付けられることがある。
その度に、演技を認められる喜びと、役ではない自分を見てもらえない寂しさが付き纏った。
役ごとに外見も性格も変わるキョーコは尚更だろう。
キョーコではなく『ナツ』を求められている…そして、蓮も『ナツ』の時に告白したから、同じだと思われてしまったのだ。

「だから、『ナツ』として付き合ってくれたの?幻想を見る俺に幻滅して、俺で遊ぶつもりだったの?群がってくる男共と変わらない…『君』にとって玩具[暇潰し]でしかなくて、飽きたら捨てるつもりだった?」

「ちがっ…違います!!……確かにショックでした。敦賀さんは違うと思ってたのに、私を見てくれない方たちと同じなんだって…。でも、遊びとかそういうわけじゃなくて、敦賀さんがそう望むなら、構わないと思ったんです。『ナツ』だったら傷付かないから…自分を見てくれなくても、面白ければ満たされるから…。だから、敦賀さんが満足して、もう必要ないからと別れることになっても、『ナツ』の心の傷になることはない。私も傷付かない。だって恋なんてしてないから…」


「…君は残酷で、考えが甘いね」


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