本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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好きで好きで好きで好きで…
もうごまかせないこの心。
いくら考えないようにしていても思い浮かぶ君の姿。
俺を侵食する甘い毒…
いつしか俺の全てを蝕んで…甘い毒は猛毒に変わった。
自分では制御できない感情…制御できない身体…制御できない熱…
そしてそれは、
君に襲いかかった。
「あ…」
「どうした、蓮…って、あれ、キョーコちゃんじゃないか!」
動きを止めた蓮の視線の先を追った社は、その先にキョーコの姿を見つけ、嬉しそうな声を上げる。
蓮の恋を応援する社にとっては嬉しい出会いであったが、“あれ”以降キョーコと会っていなかった蓮からすれば、恐れていた出会いであった。
そんな蓮の心情を知らない社は、強張る蓮に気付かず、キョーコに声をかける。
「お~い、キョーコちゃ~ん!」
びくりと肩が震える。
しかし、振り向いたキョーコはいつもと変わらぬ笑顔であった。
「こんにちは。社さん、敦賀さん」
以前と変わらぬ態度、変わらぬ声音。
だが、僅かに腰の前で組んだ手が震えていた。
「いや~、運命だね。キョーコちゃんも今日はここで仕事?」
「はい。ラブミー部関係でちょっと…」
「あ、そっちの仕事なんだ。珍しいね。久しぶりじゃない?」
「えぇ、まぁ…顔が売れてきた芸能人に変なことさせられないって椹さんが考慮して下さっているので」
ありがたいです。
そう言うキョーコはいつもと何ら変わりはない。
しかしそれは、蓮を意識しないようにしているからだ。
それに気付いた蓮はぎゅっと拳を握った。
「ところでキョーコちゃん。今日、この後暇?実はさぁ、蓮のやつ…」
「すみません、社さん。私、この後用事が…」
「え?そーなの?残念だなぁ…」
しょんぼりと落ち込む社にキョーコは慌てる。
「あ、あの!また敦賀さんが食べてないとかそういうお話ですよね?」
「うん、そうなんだよ。なんか、ここ数日特に食欲がないみたいでさぁ」
「でしたら、スケジュールさえ教えていただければお弁当作りますよ?」
その言葉に社は悩む。
社的には蓮の家で一緒に食事をしたもらえれば、蓮の機嫌も体調も良好!なので、そちらの方が嬉しいのだが、せっかくのキョーコからの申し出を断るのは勿体ない。
そう判断した社は「うん、頼むよ!」と返事をした。
しかし、蓮からすれば、キョーコの申し出は自分といる時間を少しでも無くすためとしか思えない。
蓮の食事事情は気になるが、蓮とあまり接触したくないという考えが透けてみえるようだ。
「あの…それでは、私はこれで…」
「あ、引き留めちゃってごめんね、キョーコちゃん」
「いえ。それでは失礼しますね」
ぺこりと頭を下げると、奥へと向かって歩いていく。
その後ろ姿を眺めていると、社に小突かれ、そちらを見る。
予想通りによによといやらしい笑みを浮かべた社がいた。
「るぇぇん~。どうしたんだ~?いつもならもっと積極的に話しかけるのに」
「いえ…少し考え事を…」
「キョーコちゃんが傍にいるのにか?」
「そんな時もありますよ」
いや、傍にいるからこそ、考えていた。
話しかけて嫌そうな顔や怯えた表情を…まだそれならいい…関心のなさそうな顔をされたらどうしよう、と。
「おい、蓮…蓮!」
「…はい?」
「お前、本当に大丈夫か?時間だぞ?」
「あぁ、すみません。大丈夫ですよ。行きましょう」
そう言って歩き出した蓮はふと“彼”のことを思い出す。
悩んでいる時にはかったように現れる“彼”…
もしかしたら会えるのではないか…そして、またアドバイスをしてくれるのでは…と考えて、そう都合よくはいかないかと自嘲した。
今日が収録日とは限らないし、中身が変わっている可能性だってあるのだ。
世の中、そう上手くはいかない…
そう考えつつも可能性を捨てきれず、休憩時間にあの場所に行ってみようと決めた。
「………あ」
諦め半分で足を運んだ蓮は、聞き慣れたぷきゅぷきゅという気の抜けた音を聞いて、はっと顔を上げた。
そこには求めていた鶏の姿…
「…また何か悩み事かい?」
どうやら中身も同じらしい。
それだけで嬉しくなった蓮は少し表情を緩めた。
「今度はどうしたんだい?」
「…聞いてくれるかな?」
「君が話したいと言うならね」
あくまで君次第だ…と言う鶏に、なんだか今日は冷たい気がすると思いつつ、蓮は口を開く。
「実はね、とある子に酷い事をしてしまったんだ」
「女の子?」
「そう。覚えてるかな?前話した子なんだけど…」
「あぁ、4つ下の高校生ね。…それで、その子相手に何やらかしたんだい?」
「やらかしたって…まぁ、間違ってはいないが…。その…彼女が食事を作りにきてくれたんだが…」
「わざわざ?脈ありなんじゃないかい?でなきゃ1人暮らしの独身男性の家なんて行かないだろう」
「そう思いたいのはやまやまなんだけどね…彼女の場合、仕事と義務感からだから…」
「仕事?」
「あぁ。マネージャーのお節介でね…彼女のスケジュールを調べ上げて、空いてる日に依頼するんだ」
親交を深めろだの、手慣れたテクでメロメロにしろだの…
俺がどれだけ自制して、彼女を傷つけないようにしていたのかわかっているのだろうか?
協力してくれるのは、そりゃ……助かっていたけど。
「…ふぅーん。マネージャーにはばれているんだね。なら、マネージャーに相談すればいいのに、何でボクなんだい?」
「マネージャーも知ってる子だからね。俺がやってしまったコトを聞いたら、それはそれは暴走するだろうからね…」
「暴走って…いったい何をやらかしたんだ、この似非紳士」
「似非って…酷いな。まぁ、否定はできないけどね。実は、料理を作りに来てくれたその日にね、彼女を…あー…お、押し倒してしまったんだ」
「……君って、紳士の皮を被ったけだものだったんだね。誰にでもそんなことやってるんじゃないのかい?」
「誰にでもって、そんなわけないだろ!家に上げたことのある女性も、恋人でもないのに押し倒したのも、彼女が初めてだ」
「…ぇ?」
「え?って…俺ってそんなに節操なしに見える?」
「いや、そういうわけじゃないけど………で、何で押し倒したのさ?」
「その…君も男ならわかるだろう…?好きな子が無防備に近くにいて、散々俺の理性を試した挙句、役で男をたぶらかす場面があるんだけどわからないから練習台になって欲しいなんて言われたら…」
理性がぷっつんしてもおかしくないはず!
いつもより色気たっぷり(ナツ)で迫られて、しかも、キス寸どめ数回…
これで耐えられる男がいたら、俺は尊敬する!!
そう言って顔を歪めた蓮に、鶏は少しの間固まった。
しかし、着ぐるみなので、蓮に気づかれることはなく、考えるような仕草をした後、蓮に問いかける。
「…役ってことは、その子、役者なんだ…」
「え?あ……」
その問いに自分の失言に気づいた蓮は、慌てて誤魔化そうとしたが、「大丈夫。誰かまではわからないし、このことを他に漏らしたりはしないよ」と鶏に言われ、諦めて頷いた。
どうせこの鶏にはいろんなことを知られているのだ、好きな子の職業くらいなんだ。
この業界に女子高生なんて山ほどいる。
その中から絞り込むなんて普通に考えれば無理だろう。
「…で、それから?」
「それからって…」
「君はどうしたいんだい?様子から見るに、その子とうまくいってるわけじゃないんだろ?」
「うっ…相変わらず君は痛いところをつくな…。ご察しの通りだよ。あからさまに避けられてはいないけど、目を合わせてくれなくなったし、こっちも気まずくて…話しかけて無視とかされたら立ち直れないし…」
「…君、意外と肝の小さい男だな」
「うるさい」
ぷいっといじけたように顔を背ける蓮に鶏は唖然とする。
天下の敦賀蓮が…いじけて、ぷいって……
「……でも、このままじゃダメだろう?それを自覚してるから、背中を押してもらいたくてボクのところに来たんじゃないのかい?」
「ご明察。全く…君の慧眼には恐れ入るよ。仲直り…というのも変かな。元の関係に戻れれば…できれば、進展した仲になれればいいなと思うよ」
「…大切な人は作れないんじゃなかったのかい?」
「そのつもりだったんだけどね…。ロックをかけていたはずなのに、意味がなかったみたいだ。そんなこと考える余裕もなかったよ。大切な人は作れない…作らないと決めていたのに、彼女はあっさりと俺の心の中に入ってしまったんだ」
「そう、なんだ…」
「あぁ。俺はもう、彼女がいないと幸せになれない。…いや、違うな。幸せになれないだけなら諦められるけど、彼女がいないと前を向いて歩くこともできないんだ」
「大袈裟で抽象的だな。前を向いて歩けないって、この世界[芸能界]でって意味かい?」
「だけじゃないよ。生きていけないって意味。彼女の世界から弾き出されたら、きっと俺は壊れてしまう…」
罪を犯し、存在意義を失いかけていたあの頃[久遠]の時のようにはいかない。
あの時は日本という新しい道を示し、救いの手を差し伸べてくれる人がいた。
けれど、今回はたった一人の手しか欲しくなくて、その子の手でなければ意味がなくて…
彼女に手を降り払われたら、それで終わり。
他に道なんてないし、いらない。
たった一人が欲しい。
「大袈裟に聞こえるかもしれないけど、それだけ俺にとって彼女の存在は大きいんだ」
「………そぅ。なら、絶対に仲直り、しないとね」
「そうなんだけどね…」
「どうしてそこでヘタれるんだ。行動しなくちゃ、話し合わなくちゃ何も変わらないままだろ」
「おっしゃる通りです…」
「君のことだ。押し倒した時もその行動を正当化して、自分の本音なんて殆ど漏らしてないんだろう?腹を割って話しなよ。それが最低限の礼儀で誠意ってもんだろ」
「…ホント、君って不思議だよね。俺の性格も行動パターンも把握してるし…なんか狡い」
「ずるいって…」
拗ねる蓮に鶏は呆れる。
普段は驚くほど大人なのに、今は子供のようだ。
「…でも、ありがとう。おかげで勇気が出たよ」
「いや…礼には及ばないよ」
そう言って気まずそうに顔を背ける鶏に蓮は疑問符を浮かべながらももう一度礼を言う。
言うことは辛辣だが、蓮相手にここまで言ってくれる人は殆どいない。
社は蓮の逆鱗に触れないように気をつけようとするし、ローリィは放任なところがある。
だから、こんな風に遠慮なく言ってくれる存在は貴重だ。
それに、遠慮なくばっさり切られて、なんだか少し吹っ切れた。
「じゃあ、ボクはそろそろ時間だから…」
「あぁ。今日はありがとう」
そう言うと、鶏は俺に背を向けて手を振った。
その姿が着ぐるみなのに格好よくて、きっと中の人は男気あるイイ男なのだろうなと思う。
そんな俺を立ち止まった鶏の中身が、覚悟を決めた目で見ていたなんてその時の俺は気づかなかった…。
それから、数時間後。
覚悟を決めたくせにたったあと一つのボタンを押せない俺のもとに、一通のメールが届く。
それは、俺を避けていた彼女からのもので、『話がしたいので近いうちに時間を作って下さい』とだけ。
礼儀正しい彼女にしては珍しい文。
いつもなら、サラリーマンが出すようなビジネス文から始まり、内容もこちらが悲しくなるほど丁寧すぎる文章で、お願いなんて滅多にないけど、あったとしても『下さい』ではなく『下さいませんか?』とこちらの意思を尊重する文章なのに…
「…もう敬意を向ける必要もないってことかな?」
尊敬よりも欲しいものがあった。
けれど、いざ、いらないと思っていた尊敬を向けられなくなると、そんな価値すらないのかとショックだった。
そう感じつつ、接触をしようとしていたのはこちらも同じなので、すぐに社さんからスケジュールを聞き出し、それを送る。
すると、少し経ったから『では、明日の22:00にラブミー部の部室で』と返信がある。
そのメールに了承の返事を送ると、俺は今までで一番緊張しながら、いかに彼女を繋ぎ留めるか…そんなことを考えながら、明日に備えた。
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