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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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※いきなり別れ話から始まります。
ご注意下さい。












「キョーコ…別れて、くれないか?」

キョーコはその言葉に目を見開いた。
今日会ってから、ずっとそわそわしていた蓮…その理由が、別れ話を切り出すタイミングをはかっていたからだったらしい。
真剣な目をした蓮の目には嘘がないように見える。
どこか必死さも感じられて、キョーコはそこまで自分と別れたいのかとショックを受けた。

「………わかりました」

「え?」

「貴方がそれを望むなら、別れましょう」

――そんなの嫌だ!
そう心が叫んでる。
けれど、やっぱりと思う自分がいることも確かだった。
業界No.1の俳優と新人タレント…誰がどう考えても釣り合わない。
二人の関係を知っている人たちはそんなことないと口を揃えて言っていたけど、釣り合わないことをキョーコ自身が誰よりも知っていた。
知っていて、蓮の手を取った。
いつか、終わると知っていて…――

ぽろっ……

ぎょっとする蓮にキョーコは不思議そうにすると、蓮は躊躇いがちにそっと手を伸ばして頬に触れた。
そして、拭うように手を動かしたため、キョーコは自分が泣いていることにようやく気付く。

「キョーコ…あの………」

「…これは前に進むための涙です」

「ぇ?」

「貴方が愛を信じることを教えてくれた。貴方が私を一人ぼっちの闇の中から連れ出してくれた。私は貴方が私にくれたものを…貴方に恋したことを忘れません」

ふわりと微笑むキョーコに蓮は言葉をなくす。
綺麗な笑顔だった。
今まで見た中で、1番綺麗な笑顔でキョーコは言った。

「今までありがとうございました、蓮さん…いえ、敦賀さん」

「ぁ………」

それは別れの言葉。
頬に触れる蓮の手をそっと拒み、座っていたソファーから立ち上がると、荷物を手に取る。
それから、玄関に向かう前に扉の前で座ったままの蓮を振り向くと、キッと挑戦的な目で見た。

「見てなさいよ、敦賀蓮!絶対、今よりイイ女になって、別れたことを後悔させてやるんだから!!」

キョーコが自分を奮い立たせるための精一杯の強がり。
ビシッと蓮を指す手は震えていたけど、ニッと挑発するように笑って、今度こそ本当に立ち去った。
だから、キョーコは知らなかった。
バタンッと閉められた部屋の中で蓮が涙を零したことを…

「………もう、後悔してるよ……」

そう悲しげに呟いたことを…


蓮がキョーコに別れを切り出した理由は他人が聞けば馬鹿馬鹿しいと思えるものだった。
――キョーコの愛を実感したい
それだけだった。
アプローチも告白も全部蓮の方からで、キョーコからは「好き」という言葉さえ滅多に言ってくれなかった。
いや、滅多にどころか、告白したその時しか聞いたことがなかったのだ。
それでも、初めの頃はキョーコは恥ずかしがり屋だし…と自分を納得させていたのだが、そのうち言ってくれないのは自分を愛していないからではないか…と疑心暗鬼になっていった。
尊敬する先輩に告白されて断れなかっただけだとか、付き合ってみてから勘違いに気付いただとか、好きだったけど気持ちが冷めたとか……
キョーコはそんな人間じゃないと知っているのに、考え出すと止まらなかった。
それは、キョーコに愛されてる自信がないからというより、自分に自信がないから…だから、不安になった。
キョーコは『きまぐれロック』のマスコットキャラの『坊』であることまで明かしてくれたのに、コーンであったことも、久遠であることも黙っている自分。
話せばきっと黙っていたことを泣いて怒って、そして許してくれるだろうけど、蓮にはまだその覚悟がなくて…そのことが更に不安を煽る原因になった。
そんな蓮が至った答えが『別れ話』
過去の彼女たちと同じ方法を使うことにしたのだ。
本当に愛してるなら、「別れたくない」と言ってくれるはず…
……その思惑は外れた。
愛されていたことを知った、しかし、別れは受け入れられた。
蓮はキョーコの本質を計算に入れ損なっていたのだ。
自分より他人を優先する、その心を…
キョーコに愛する気持ちを思い出させ、ラブミー部から卒業させたのは自分なのだともっと自信を持ってもよかったのだ。
彼女が義理なんかで付き合うような軽い人間ではないとわかっていたのに…



「本日はよろしくお願いします」

あれから5日後。
蓮とキョーコが共演するドラマのクランクインの日。
蓮は別れてから初めて会うキョーコを前にして、動揺を隠すのにかなりの労力を要した。
別れる前は喜んだ共演だったが、今は辛い…何故なら、このドラマは主演二人の恋愛モノだからだ。
そして、主演は蓮とキョーコ…
別れたばかりの蓮にとって辛いものとなる。
しかし、蓮もキョーコもプロ意識の強い役者であるため、違和感のない先輩と後輩を演じ、いつも二人を見ている社以外は全て騙してみせた。

「どうしたんだよ、蓮。キョーコちゃんと何かあったのか?」

「…何もありませんよ?」

「嘘つけ!さっきのキョーコちゃんと石橋くんのラブシーン、いつものお前なら嫉妬を笑顔に隠して見てたはずだ。なのに、今日のお前は辛そうに二人を見てた…」

ブリッジロックの石橋光。
LME所属の人気のあるタレントで、今回ドラマ初挑戦となる。
ドラマの役はヒロインの恋人で、蓮の役が横恋慕してヒロインを奪う形になる。
キョーコとは『きまぐれロック』で共演しているため仲が良く、同じシーン以外の時も一緒にいた。
そんなことをすれば、普段は蓮が嫉妬に燃えて邪魔をしに行くのだが、今日はその様子がない。
そのことを心配した社は蓮を注視し、そして違和感に気付いたのだ。

「放っておいていいのか?石橋くん、絶対キョーコちゃんに気があるぞ!」

お前の彼女だろ?と社は小声で言う。
その言葉に蓮は悲しそうな顔で微笑んだ。

「……社さんはごまかせませんね」

「蓮…?」

「キョーコ…最上さんとは別れました」

「わっ、わかもがっ…」

「社さん」

思わず叫ぼうとした社の口を手で覆う。
社は目で謝り、手を外してもらった。

「わ、悪い…でも、どういうことなんだ?お前の惚れ具合から考えるとフラれたってことだよな?でも、お前が手放すなんてこと…」

「違いますよ……俺がフったんです」

「なっ?!」

再び叫びそうになった社だが、どうにか耐えて、どういうことだ?と目で訴える。
蓮のキョーコへの想いを本人より先に気付き、蓮のためにキョーコのスケジュールを調べたり、ラブミー部への依頼として食事をお願いしたり、スケジュール調整したりと協力してきた社である。
キョーコへの溺愛ぶりを1番知る者としては納得できないのだろう。

「…あの子の心が見えなくて、勝手に不安になって…過去の彼女たちが俺の気持ちを推し量るために別れ話をしてきたことを思い出して、それで……」

「お前、馬鹿だろ」

「…はい」

「あんなに恋を拒んでいたキョーコちゃんに恋をさせたのはお前だぞ。何を不安に思うことがあるんだ!言葉をくれない?態度に出ない?そんなことで不安になって、キョーコちゃんを試すようなことを言って、賭けに負けたって?」

グサッ グサッ グサッ
言葉の刃が蓮に突き刺さる。
まるで蓮の心を覗き見たかのように図星を刺され、蓮は思わず胸を押さえた。

「さっさと謝ってよりを戻してこい!じゃないとお前のモチベーションが下がって俺が困る!」

「……それは、できません」

「まさか、キョーコちゃんに断られるのが怖くてできないなんて言わないよな?」

「うっ……正直に言うとそれもあります。だけど、それだけじゃなくて…」

「他に何があるんだ?『嘘ついたのね、軽蔑するわ!』とか『ヒトを試すようなことする敦賀さんなんて私の尊敬する敦賀さんじゃありません!』とか『本当に嘘なんですか?別れたいって心のどこかで思ってたから出た言葉じゃないんですか?』とか言われるのが怖いって言うんじゃないだろうな?」

「や、社さん………俺を虐めて楽しいですか?」

社の言葉をうっかりキョーコの声で再生してしまった蓮は青ざめ、ズキズキと痛む胸を先程より強く押さえる。
社は「いや、微妙」と言いながらも、少しすっきりした顔をしていた。

「で、何でだ?」

「…あの言葉を嘘にするには遅すぎるんですよ、もう……」

「遅すぎる?」

「…いえ、違いますね。言ってはならなかった…あの子だけには」

そう言って蓮は光と話しているキョーコを見つめた。
その切ない目に社は眉を寄せる。

「あの子が言ったんです…俺が愛を信じることを教えてくれたって…。その俺が、あの子が信じた愛を疑ったなんて知ったら、あの子はきっとまた愛を信じられなくなる…もし、よりを戻せても、あの子はいつも俺を疑う。そして、そんな自分を責めることになるでしょう」

蓮の言葉に社は口をきつく結んだ。
簡単に想像できてしまったのだ…一緒にいるのにいつも蓮を疑って、そんな自分に嫌気がさして傷付いて、蓮から離れないけど背中を向けているキョーコと、そんなキョーコを見て自分のしたことを振り返って、何度でも傷付く蓮の姿が。
お互いがお互いを傷付けてるって気付いているのに、離れられなくって…そして修復できないほど溝が出来て…
愛し合っているのに、離れてしまう二人の姿が……

「…どこまで想像したのか知りませんが、そういうことです。だから、俺は軽口でもあの嘘を『嘘』だと言ってはいけないんですよ」

「……お前はキョーコちゃんのこと諦めるのか?」

「そんなことできるはずないって社が1番知ってるでしょう?諦め切れるような気持ちなら、最初から持ちませんよ」

「だよな」

温厚紳士な『敦賀蓮』を壊して、ただの男にしたのはキョーコただ一人。
これから、そんな女性と出会えるとは蓮も社も思っていない。

「俺はチャンスを待つつもりです」

「チャンス?」

「あの子の捨て台詞が、『見てなさいよ、敦賀蓮!絶対、今よりイイ女になって、別れたことを後悔させてやるんだから!!』だったんです」

「わぁお!流石はキョーコちゃん!」

天下の敦賀蓮に向かってそんなセリフを吐ける女性なんて滅多にいないだろう。
負けん気の強いセリフに社は感心する。

「…で?」

「……あの子が自分をイイ女だと認められるようになるまで待ちます。きっと、認めた時には俺のところに報告にくると思うので」

「イイ女になっただろって?」

「えぇ。その時にもう一度、告白します。でかい魚を逃がして惜しくなった情けない男のレッテルを貼られることになっても、きっとチャンスはその時しかありませんから…」

「…でもさ、キョーコちゃんが自分をそう認めるのってすごく時間がかかると思うよ?不破のせいで自分を卑下する傾向にあるし、世間からイイ女だって認められても、キョーコちゃん自身が認められるようになるまで何年かかるか……」

「何年でも待ちますよ。あの子を手に入れられる可能性があるなら、それが0に近くても縋り付きます」

そう言って穏やかに笑う蓮に社は安堵と少しの不服を感じる。

「そんな悠長なこと言ってて良いのか~?イイ女にはイイ男が必須だろ。お前が待ってる間にキョーコちゃんに男ができたらどうするんだ?」

「あの子の鈍感さと男をかわす天然スキルを乗り越えられる図太い馬の骨がいるなら見てみたいですね」

「ぉい」

「冗談ですよ。…もし、あの子に恋人ができたとしても俺の気持ちは変わりません。ずっと愛し続けるだけです。例え…あの子が俺を振り向くことがないとしても…」




―――――――――――――――――――
思ったより長くなったので、いったん切ります。

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