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「えっと、何だっけ?」
「私がクビになった、ってとこです」
「あぁ、そうだった!で、そしたらどうしたの?」
光の問いに一瞬躊躇ったが、キョーコは言った。
「敦賀さんはクビになって経験なんてないでしょうから、私の気持ちなんてわからないでしょう、って生意気言っちゃったんです。そしたら、『あるよ』って言って、両手を使って数を数え始めたんです」
「え~?!敦賀さんがクビ?」
「えぇ、両手で数え切れないほど」
あの時、安心しちゃったのよね。
この人でもクビになったことがあるんだ…って。
その後のメリケンジェスチャーでイラっときたけど!
「でも、そんなにクビになってたら業界でも有名になるんじゃない?成功してるだけにさ」
「私もそう思いました。そんなにクビになってたら、日本のマスコミが放っておかないんじゃないかって。だから、米国とか海外で活動してたんじゃないかと思って指摘しちゃいましたよ」
「マジで?」
「はい。まぁ、その時もごまかされてしまったんですけど、正解してたんですね…」
「そういうことになるよなぁ…まさか、敦賀さんが、なぁ」
そう思うわよね。
演技が上手いだけに、私も信じられなかったわ…
「…あちらでも“クー・ヒズリの息子”って扱われて、比較されて、苦しかったんだと思います。監督に逆らったこともあるって聞きましたし、自分の演技をさせてもらえなくて悔しかったんじゃないでしょうか…。肩書で見られて、上手くいっても七光だと思われて、自分を見てもらえない…だから、敦賀さんは素性を隠して日本に来たんだと私は思うんです」
親から離れて、一人で日本に…。
先生の言い方のせいで亡くなってるものだと思っていたけど、実は近くにいた久遠少年。
15の時から会ってないと悲しそうに、辛そうに言っていた先生。
自分たちのせいで…と思い詰めていた。
自分たちが頑張るほど、久遠少年を追い詰めていた…と悔やんでいた。
「…親がハリウッドスターって思った以上に大変なんだね」
「そうですね。憶測でしか言えませんけど、凄く辛かったと思います。親が好きな分、余計に…」
「え、親が好きとかそういう話もしたの?」
「ふふっ、遠まわしにですけどね。クー・ヒズリとその息子さんは親ばか子ばかラブラブ親子だったに違いない!って言ったら、『そうだね』って敦賀さん、楽しそうに肯定してくれましたから」
「へぇ…でも、何でそんな話を?」
「あ、それはこの後話しますね。とりあえず、話を戻しますけど…敦賀さんが完璧なイメージがあるのって日本では最初から売れてて、これといった失敗がなかったからじゃないですか?」
「あー、うん、確かに。デビュー当初から演技も上手いし、人当たりもいいし、こけたこともないし…あ!だから、“流石はクー・ヒズリの息子”ってなるんじゃないかって京子ちゃんは言いたいんだね?」
「はい!だから、この話をさせてもらったんです。敦賀さんにだって下積み時代があって、苦労して今の地位にいるんだって思ったら親近感湧きません?」
「うん、確かに!俺たちと同じように努力して、“ココ”にいるんだって思ったら、あまり親とか気にならなくなるよね」
「「うんうん」」
乗ってくれた光たちにキョーコは笑顔で頷く。
“ハリウッドスターの息子”という雲の上から“自分たちと変わらない業界人”にまで引きずり下ろすことがキョーコの目的である。
キョーコにとっては、役者としても人としても雲の上の人だが、今回はそのイメージを壊さなければならない。
それは――自分の中の何かが変わりそうで――恐い。
けれど、これは自分の役目なのだ。
目標を失わないためにも必要なこと…そして、蓮を尊敬する自分のためにも。
――結局、私って自己本位よね…
自分が蓮を失うのが恐いからここにいるのだ。
それを思い知らされてしまった。
「で、京子ちゃん、他にも知ってるの?」
「知ってますよ~。実は以前、敦賀さんの代マネをやらせていただいたことがあるんですが…」
「え!?そうなの??」
「ほら、風邪がはやって、人手が足りなくなった時期があるじゃないですか。その時に、敦賀さんのマネージャーさんも風邪をひいてしまいまして、代わりに私が派遣されたんです」
その頃はまだ嫌いだった。
少し親近感が湧いたとはいえ、私にとっては“意地悪な人”だったから。
「スケジュールがぎっしり詰まってて、初日はついていくので精一杯でしたよ」
「そうなんだ~」
「はい。敦賀さん、一人でなんでもできちゃうし、何で私が派遣されたんだろう?って思って、主任に訊いたら、敦賀さんを食事させるためだけに派遣したって言われたんです!私にはそれしか期待してなかったんだってかなり悔しかったですよ」
それに、マネージャーという仕事を嘗めていたからすごく反省した。
謝ったら許してもらえたけど…あ、社さんにも謝っておこう。
今更だけど、思い出したら申し訳なくなっちゃったわ…
「だけど、3日目だったかな…?敦賀さんが喉を気にしてるのに気付いて、風邪の前兆じゃないかって尋ねたんです。なのに、自分は一度も風邪をひいたことがないから大丈夫だって取り合ってくれなかったんですよ!」
「…ということは、結局次の日…」
「見事に熱を出しましたね。キュララの監督に言われた『自己管理のできない奴はプロ失格』って言ったら、『君に言われるなんて』ってかな~りショック受けて落ち込まれました」
「あ。その頃はまだ仲悪かったんだ?」
「そうですね。私もその時は自業自得だわ、くらいにしか思いませんでしたし」
だって、私の忠告聞いていれば、もしかしたら風邪をこじらせずにすんだかもしれないのよ?
でも、その後に私の言うことを聞いておけばよかった…ってあっさり非を認めちゃうんだもん。
大人だなぁ…って思わずにはいられなかったわよ。
「その後の撮影が最悪なことに人工雨の中での撮影で、止めようと思ったんです。でも、自業自得だからって、熱があるのに撮影に臨んで…その後、楽屋で倒れました」
「えぇ!?それ、ホント?」
「はい。ずっと雨の中にいたせいで熱が上がって、身体も震えてて、意識もなくて…」
「…あれ?だけど、敦賀さんが仕事に穴あけたって話聞いたことないけど…」
「空けませんでしたよ。その後、意識を取り戻して、再び撮影に戻りましたから」
「ちょ…止めなかったの?!」
「止めたかったですよ…でも、目で言いくるめられてしまいました。敦賀さんはプロ意識の高い人ですし、仕事に関しては妥協しない人ですからね。その仕事に対する姿勢に憧れて、私もこうなりたいって思ったくらいです。なので、せめても…と思って、ひえぴたや氷枕を買ってきて泊まり込みで看病したり、食べやすい食事を作ったりして全力でフォローすることにしたんです」
嫌いな私がそこまでやるとは思ってなかったのか、すごく驚いてたわよねぇ、敦賀さん。
でも、私は敦賀さんのプロ根性を見てしまったから…だから、彼の無遅刻無欠席を守りたいと思ったの。
「はぁぁぁあああ?!きょきょきょきょきょ京子ちゃぁぁぁあああん!も、問題発言だよ、それ!!!!」
「え?どれですか?風邪なのに止めなかったことですか??」
「そっちじゃなくて、泊まり込みの方!看病するためとは言え、一人暮らしの独身男性の部屋に泊まるなんてっっ」
「あはは~、何言ってるんですか。敦賀さんですよ?引く手あまたなのに、私みたいなのに手を出すわけないじゃないですか~。実際、お風呂をお借りさせていただいた時に『君みたいな地味で色気もない女の子に手なんて出さないよ』って鼻で笑われましたもん」
ケラケラと笑いながらそう言うキョーコに顔を引き攣らせるブリッジロック。
キョーコだけがその重要性に気付いていなかった。
…ある意味流石である。
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キョーコにとっては問題発言じゃないんです(私の中で
だって、過去にショータローと同居してましたからね。
男性と一夜過ごす危険性に全く気付いてないと思います。