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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「ここが今日から敦賀くんも暮らすことになるマンションよ。実家や社長の家よりかなり狭いけど、我慢してね」

この後は仕事はないというキョーコの車で連れてこられたのは億ションと呼ばれるようなマンションで。
確かにヒズリ家や社長宅より狭いが、アメリカの一軒家は基本的に広いものだし、一芸能人と芸能事務所社長の家を比べるほど蓮は箱入りではない。
それに、日本では都内に家を建てるのは難しく、マンションを借りるのさえ他の何倍もかかると知っていたため、都内でこんな大きいマンションの最上階をワンフロア借りるということがどれほど凄いことか、蓮は知っていた。

「(三人で借りてるって聞いたけど…それでも凄い…)」

蓮と4つしか違わないのに、それほどの収入を得ているキョーコに思わず嫉妬する。
そんな蓮の感情の揺れに気付いたのか、マンションを見上げたまま動かない蓮にキョーコは困ったように笑った。

「私の場合、臨時収入もあるからこんなところに住めてるのよ?」

「臨時収入?」

「料理の本とか、衣服の本とか、簡単な人形の作り方の本とか…結構いろいろ本を出しているの。そっちからの収入も結構あるから…」

「…多才ですね」

演技一筋で生きてきた蓮にとってキョーコの言葉はフォローというよりトドメだ。
キョーコにそのつもりはなくとも、演技だけが人生を占めている蓮よりも、いろんなことに手を伸ばしているキョーコの方が演技力まで上だなんて…と悔しくなる。
更に顔が険しくなった蓮に逆効果だったと気付いたキョーコは苦笑した。

「他人はそう言うけど、私の親友は器用貧乏だって言うわよ?」

「器用貧乏?」

「何でも一通りできるけど、そのせいで一つのことを徹底してできないって意味。私が1番やりたいのは演技なのに、料理のレシピや服の型紙なんて作るために時間を削られて演技の勉強に費やす時間が最近ないの。演技のことを疎かにしてるつもりはないんだけどね…」

受け持っているレギュラー番組からの依頼だったため断れなかったのだとキョーコは言う。
その言葉に、多才でも、その才能が本人にとって必ずしもプラスではないのだと蓮は悟った。
同時に、キョーコを嫉んだ自分を恥じる。
才能があるからといっても磨かなければ光らない。
キョーコに演技力があるのはその才能を磨き続けているからだと知っているからだ。

「……すみません」

「いいの。私もこんなマンションのワンフロアだなんてまだまだ早いと思うもの。だけど、事務所の方に勧められてね…それまではバイト先に下宿させてもらってたんだけど…」

「は?バイト先?」

信じられない言葉が飛び出してきて蓮は唖然とする。

「バイトって…京子さん、デビューしてからもバイトしてたんですか?!」

「当たり前じゃない。デビュー当時は事務所のバックアップもなかったし、そんなに売れてなかったから時期はあったし、俳優養成所に通いながら活動してたからお金が必要だったからね。でも、顔が売れ始めてからはカウンター内だけだったけど」

「仕送りとか…」

「…親と仲が良くないから、生活費は自分で稼いでいたわ」

当然のことだと言うキョーコに蓮は自分の甘さを知る。
自分が演技だけに集中できたのは偏に親のバックアップがあったからだ。
住む環境も、食べる物も、演技にかける費用も、全て親が用意していたもので、蓮はそれに甘えて自分のやりたいことだけをやってきた。
日本に来てからもローリィに頼り切りで、自分から演技以外のことをしようとしたことはない。
そんな自分がキョーコの多才さに嫉妬するなんてお門違いだと蓮は思った。

「敦賀くん…?」

「俺、恵まれてるのに、そんな自分に気付いてませんでした…」

「…敦賀くんには敦賀くんの苦しみがあるでしょ?環境に恵まれてるからって、それが本人にとって幸せかというのは別だわ」

キョーコはそう言って微笑むと、「行きましょう?」と蓮の手を握って歩き出す。
マンションの前でずっと立ち話をしていたことに気付いた蓮は配慮が足りなかったことを後悔しながら、おとなしく手を引かれた。



「ちょっと、キョーコ!遅いわよ!」

部屋の中に入るなり聞こえきた声に蓮は驚く。
しかしキョーコは予想していたのか、笑顔で「ごめん、モー子さぁん!」と告げた。

「まったく、もぉー!あんたが新しい同居人を連れてくるって言うから予定を空けておいたのよ?」

「まぁまぁ、奏江さん。キョーコちゃんは同居人が増えるかもしれないから、都合がつけば空けておいてほしいって言っただけだし、予定の時間より早いよ?」

奏江さんがキョーコちゃんに早く会いたかったのはわかるけど、と男性が呟く。
その言葉にかぁぁあっと女性の顔が赤くなったため、男性の言葉が事実なのだと蓮は知った。

「驚かせてごめんね。"敦賀蓮"くん、だよね?」

「あ、はい」

「俺は彼女のマネージャーの社倖一で、彼女は…」

「知ってます。女優の琴南奏江さん、ですよね?」

LMEが誇る2大女優(片方はタレントだと先程知ったが)の片割れ。
彼女の評価もキョーコ同様アメリカでも高い。
キョーコと琴南が共演した映画を蓮は見たことがあるが、お互いがお互いの力を引き出し合っていて、素晴らしい作品になっていた。
インタビューで二人はライバルで親友だと言っていたが、まさか同居していたなんて思いもしなかった蓮である…まぁ、それが普通だが。

「えぇ。貴方のことはキョーコと社長から聞いてるわ。演技の勉強をするためにアメリカに留学してたんですってね。そのせいで日本語が怪しいところがあるって聞いたけど、日常会話は平気なの?」

「はい、それなりに…」

そういう設定になっているのかと思いながら蓮は頷く。
先に教えておいてほしいものだ。

「あ、あの…」

「なぁに?」

「3人で同居していると聞いたのですが、京子さんのマネージャーは…?」

その言葉に琴南と社はきょとんとする。
そんな反応をされると思っていなかった蓮は何か見当違いなことでも聞いてしまったのかと焦ったが、琴南はそんな蓮ではなく隣のキョーコを呆れた顔で見た。

「あんた、ラブミー部のこと話してないわけ?」

「うん、忘れてた…」

「もぅ!仕方ない子ね!」

はぁ、と溜息を吐くと琴南は蓮と向き合った。

「この子がラブミー部に所属してるのは聞いてる?」

「いえ…あの、ラブミー部って…?」

「私も昔はそこに所属してたんだけどね、愛を取り戻すために立ち上げられたセクションなの。この子はそのセクションの第一号。私もこの子もオーディションで落とされたんだけど、ラブミー部で愛ある奉仕を行えば、LMEのバックアップありでデビューさせてもらえることになったのよ」

そう言えば、先程キョーコが事務所のバックアップがなかったと言っていたことを思い出す。
そちらよりバイトの方が気になって聞き流してしまっていた。

「でも、私もこの子もCMのオーディション受けてバックアップなしでデビューしちゃったものだから、マネージャーなしで活動することになったの。で、私はめでたくラブミー部卒業してマネージャーを付けてもらったんだけど、この子はまだラブミー部だからマネージャーがいないのよ」

だから、京子のマネージャーはここにはいないの。
そう言った琴南に蓮はいない理由はわかったものの、納得できずに眉を寄せる。

「…何で京子さんはまだラブミー部に?」

「えっと…」

「この子、卒業していいって太鼓判もらったのに卒業しなかったのよ」

「え?」

「自分はまだ愛がわからないから、卒業資格がないって」

愛が、わからない…?
ドラマでも、映画でも、違和感なく恋愛をしていたのに…?
蓮はよくわからず、キョーコをじっと見つめる。
キョーコはばつの悪そうな顔をして頬を掻いた。

「演技はできるのよ、この子。だけど、実際の恋愛は全く無理。どんなにアプローチされても総スルーよ」

「ちょっ、モー子さん!私、アプローチなんてされて…」

「ないわけないでしょ!デビュー当時ならまだともかく、垢抜けて綺麗になったアンタを男共が放っておくわけないでしょ!まったく…アンタ、何で演技なら向けられる恋情に気付けるのに、素だとわからないのよ…」

「だって、私を好きだなんてそんなことあるわけないもの…」

そんなキョーコに蓮は唖然とする。
キョーコのデビュー作(『Dark Moon』は父が出ていた『月篭り』のリメイク版だったから見ていた)から知っているが、4年前よりずっと綺麗だ。
当時はちょっと可愛い女の子、だったのが、今では蛹から羽化した蝶のように美しい女性になった。
今だって、ナチュラルメイクなのにどんな女優やモデルよりも輝いて見える。
事務所の中から駐車場に移動する短い距離で、どれだけの人が足を止めて彼女に見惚れていたことかっ…!
隣を歩く蓮に嫉妬の眼差しを送った男は一人や二人ではない。

「京子さん、自覚ないんですか……?」

「ふへ?」

「確か、以前見た雑誌にお嫁さんにしたい女芸能人ランキングNo.1って載ってましたし、彼女にしたいランキングもNo.2だったのに…」

「それはたまたまよ」

「でも、京子さん、すっごく綺麗で優しいですし、演技力もあって、かなり魅力的な女性だと思いますけど」

「ほら!今日会ったばかりの敦賀くんにも言われちゃったわよ?いい加減、自分を卑下する癖はやめなさい。アンタに自覚がなくても、今売れてる芸能人って言ったら真っ先にアンタの名前が出てくるくらいアンタは芸能人としても女としても魅力的なんだから!謙遜も過ぎると厭味よ?」

琴南にそう言われ、しょぼんと落ち込むキョーコ。
本気で自覚がないことを知っている琴南と社は、俯くキョーコを見ながら、そうなる原因となった某ミュージシャンを恨んだ。

「まったく………まぁ、いいわ。騒がしくしてごめんなさいね、敦賀くん」

「あ、いえ…」

「キョーコ。とりあえず、顔合わせはしたんだし、後は明日でいいでしょ?」

「あ、うん!はい、敦賀くん」

琴南に促されて、キョーコは慌てて鞄に入れていたカードキーを蓮に渡す。
同じようなキーを2枚貰った蓮は、怪訝そうにキョーコを見た。

「あの…」

「こっちのカードが敦賀くんが使う部屋の鍵。私の部屋の隣だから、何かあったら遠慮しないで内線で連絡してから来てね!それから、こっちのカードがこの部屋の鍵。この部屋は共同リビングにしてるの。基本的に時間が合う時はここで食事したり、演技の話をしたりしてるわ。あ!そういえば敦賀くんはもうご飯食べた?」

「いえ…でも、あまりお腹がすいてな…」

「ダメよ、食べなきゃ!特に敦賀くんは成長期なんだから!!モー子さんと社さんは?」

「アンタが帰ってくるって聞いてたから食べてないわ。外で食べるより安上がりだし、カロリー考えてくれるし、アンタの料理の方が美味しいからね」

「そうそう!キョーコちゃんの料理が食べれるのに外で食べてくるわけないじゃないか!最近、朝は一緒だけど、夜はかちあわなくてキョーコちゃんの夕飯はご無沙汰だからね。すっごく楽しみだよ!」

いらないと言う蓮に反論の余地を残さずその意見を却下し、琴南と社の言葉で笑顔になったキョーコは「今日はビーフシチューです!昨日からじっくり煮込んであるんですよ~」とニコニコしながらキッチンに去っていった。
食事に良い思い出がない蓮は渋い顔をしてそれを見送る。
そんな蓮の肩をぽんっと社が叩いた。

「安心しなよ、敦賀くん。キョーコちゃんの料理はすっごく美味しいから!以前、料理コーナーで苦手なものを騙して食べさせるコーナーを受け持ってたんだけど、一度もばれずに食べさせたくらい凄いんだよ」

「はぁ」

「奏江さんも外ではあんまり食べないけど、キョーコちゃんの料理だけは沢山食べるし!」

キョーコちゃんの料理に慣れたら、他のじゃ満足できなくなるよ~!とベタ褒めする社に蓮は「はぁ」と気のない返事をする。
料理といえば、母の殺人料……万人受けしない料理をノルマ分口に詰め込まれた思い出と、50人前くらいをぺろりと腹に収めてしまう(ただし、母の料理は人並み分しか食べない)父の姿が思い浮かぶ。
その印象が強すぎて、美味しいと言われる日本料理もあまり食べられないのだ。

しかし、食べれないと思っていたにも関わらず、キョーコの料理を一口食べた途端、そう思っていたことも忘れて、今まで感じたことのない空腹感を感じ、ぱくぱくと用意されたビーフシチューとサラダを食べ切った。
それどころか、人生初のおかわりまでしてしまった蓮である。
ほれ見たことか、とにんまり笑う社の視線を感じながら、蓮は無理矢理ではなく初めて自主的に用意された食事を完食したのであった。

「(料理の本を出してほしいって言われるわけだよな…)」

こんなに美味しいなら、プロデューサも必死で本を出してほしいと頼み込むに違いないと思いながら蓮は笑顔で「ご馳走様です」と呟いた。





―――――――――――――――――――
あら…続いてしまったわ。
何となくで続いてしまったので、続きを書くかは未定…ってか、完結するか未定。
くっつくのかなぁ、この蓮とキョーコ…

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