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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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ノックをしようと腕を上げた蓮はふと中から聞こえてくる音にその手を止めた。

「…間違ってないよな?」

思わずそう呟き、ドアのマークを確認する。
『Love Me』のロゴを確認した蓮は安心したように息を吐くと、コンコンとドアを叩いた。
すると、音が途絶え、代わりに「はい」と聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
蓮はガチャッとドアノブを回し、ドアを開けると、そこには予想通りの人物が意外なモノを持って立っていた。

「あ、敦賀さん!こんにちは。昼間に事務所にいるなんて珍しいですね!」

「こんにちは、最上さん。それ…ヴァイオリンだよね?」

中に足を踏み入れ、ドアを閉めながら不思議そうに問う蓮。
その問いにキョーコは頷くと、蓮に椅子を勧め、テーブルの上に持っていたヴァイオリンを置くと、お茶を入れる。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

遠慮なくお茶を一口飲む。
キョーコは自分の分も入れると、「失礼します」と言って、蓮の向かい側に座った。

「最上さんってヴァイオリン弾けたんだ…知らなかったよ」

キョーコが料理や裁縫が得意で、茶道に精通しており、蓮そっくりな人形を作れるほど器用で多才だと知っていたが、楽器まで弾けることを知らなかった蓮は少しつまらない気分になりながらも、「すごいね」と微笑んだ。
しかし、相手は蓮の(とある感情を除く)感情に敏感なキョーコである。
ピギョッと芸能人として…その前に女の子としてあるまじき顔をしたキョーコは、何がイラツボに入ったの~~!?と内心パニックになりながらも、ぶんぶんと首を横に振った。

「い、いえ、滅相もない!弾けるなんてレベルには程遠いド素人でございますぅぅぅうう!!!」

「そう?結構上手いと思ったけど…」

「え?」

「ここ防音だし、ドアの前に立つまで気付かなかったんだけど、さっきヴァイオリン弾いてたろ?少しだけ聞こえてきたけど、下手なんて思わなかったよ?」

その言葉にキョーコは目を見開くと、てれてれと頬を染めて破顔した。
その表情に蓮は無表情になり、――どうしてくれようか、この娘は――と目を細めたが、照れて俯いたキョーコは気付かず、「あのですね」と話し出した。

「実は、未緒の役作りのために始めたんです」

「え?」

予想外の言葉に、蓮は「未緒がヴァイオリンを弾くシーンなんてあったっけ…?」と首を傾げる。
そんな蓮の心境に気付いたのか、キョーコは「シーンにはないんですけど…」と話を続けた。

「未緒が顔に傷を作る原因って、唯一操より未緒のヴァイオリンの才能が秀でていたことにあるじゃないですか」

「そうだね」

「だから、原作を読んでからすぐにヴァイオリンを始めたんです。まだ養成所では役作りについて習ってなかったので、せめて雰囲気だけでも掴むことができれば…と思いまして…」

「なるほどね…ということは、始めたのは半年前くらいってこと?」

「そうなりますね。移動までの時間が長い日とか、ラブミー部の仕事がない日とか、オフの日とかにここで練習してたんです。主に昼間に練習してましたから、敦賀さんが知らないのも無理はないかと…」

にこにこしながら言うキョーコに蓮の表情も思わず緩む。
キョーコと会うのは主に『Dark Moon』の現場か、仕事帰りか、または(社がわざとキョーコと時間が会うように調整した)移動までの短い時間である。
オフに事務所にいるはずはないと思っていたので、キョーコがオフの日はラブミー部に寄らなかったから盲点だった…

「そうなんだ…半年で弾けるようになるなんてすごいね」

「いえ!ですから、弾けるとかそういうレベルではありませんし、『幻想即興曲』を先生の手を見て覚えた敦賀さんほどでは…(私は敦賀さんみたいな化け物じゃないのよ!)」

「…………今、『私は敦賀さんみたいな化け物じゃないし』って思ったね?」

「い、いえ、そんなことは……っ」

ぶんぶんと首を振るキョーコに、蓮はキュラキュラと似非紳士スマイルで「ん?」と促すと、キョーコはどばーっと涙を流して、「思いました~~、ごめんなさぁぁいぃぃぃいい!!」と泣き叫んだ。
蓮はキュラキュラ笑いながら、「やっぱり思ったんだ…」と呟く。
他の人には「凄い!」と評価された蓮だが、社には「化け物め」と言われたため、社と同じように(寧ろそれ以上に)蓮の感情に敏感で、笑顔に騙されないキョーコなら同じように思うのではないかとカマをかけたのだ。
結果、予想通りそう思われていたようで…蓮は少なからずショックを受けたが、それをおくびにも出さず、似非紳士スマイルのままキョーコを見つめた。

「ショックだなぁ…化け物だなんて」

「(十分、化け物だと思うわ。普通のピアノ未経験者は短期間であんな難しい曲を弾けるようになんてなれないわよ)」

「………今、『十分、化け物だわ』って思ったね?」

「(ひぃぃい!何でこの人、心の中が読めるのよ!)」

「それは、君は顔に出やすいから、かな。君の思ってることなんてたいていの人ならわかると思うよ」

「(なんとなくはわかっても、そこまで的確にはわからないわよ!)」

一方だけが喋っているのに会話が成り立っているこの光景は誰かが見ていたら不思議に思っただろうが、ここを訪れる可能性のある社や琴南は、蓮がいる間はなるべく近寄らないようにしているため、その光景を見る者はいなかった。

「最上さん」

「な、なんですか?」

「何か弾いてくれたら許してあげるよ?」

「はぃ?!」

「俺の心に傷を負わせたんだから、それくらいしてくれるよね?」

「(化け物って思われたくらいで傷付くほど繊細じゃないくせに…)」

「ん?」

「ご、ごめんなさぁぁいぃぃい!!心を込めて弾かせていただきまぁぁす!!!」

似非紳士スマイルに屈したキョーコは見事な土下座を見せた後、立ち上がって、先程机に置いたヴァイオリンを構える。
そして、簡単にチューニングをすると、ちらっと蓮を見て、「下手でも笑わないで下さいね…?」と呟き、弓を構えた。

「………」

奏でられる音に蓮は目を見開く。

――始めたのが、いつだって…?

音は固いし、ビブラートは効いてない…確かに初心者らしいといえばらしい演奏だろう。
しかし、音程は安定しているし、ミスもなく、音が掠れることも滅多にない。
まるで機械が演奏しているようだが、表現力がつけば、プロ級とまではいかずともアマチュアの演奏としては上手い分類に入るだろう、と蓮は思った。

一曲を弾き切り、不安げに蓮を見上げるキョーコに、蓮ははぁと深い溜息を吐く。

「……君も他人のこと言えないと思うよ。半年でそこまで弾けるなら十分化け物だ。しかも、俺には先生がついてたけど、君は独学だろ?」

「でも、私は敦賀さんと違って楽譜読めましたし、他にも楽器やってましたし…」

「へぇ…何やってたの?」

「(な、何でそこで毒吐き・嘘つきスマイルなのよ!?)…お琴、ですけど」

「そうなんだ…でも、大分ジャンルの違う楽器だよね」

「まぁ、そうですけど……で、でも、1日2時間のレッスンを5日やっただけで、つっかえずに『幻想即興曲』を弾けるようになった(社さん情報)敦賀さんほどではありません!半年もやればこのくらい誰だって弾けますよ」

そう訴えるキョーコに蓮はそうだろうか?と内心首を傾げる。
経験者ならば自分の経験に基づいて否定や肯定ができるが、生憎と蓮はヴァイオリンを弾いたことがない。
よって、キョーコの言葉を否定することはできないが、それでも、半年でここまで弾けるのは凄いと思った。

「…まぁ、君がそう言うなら、そういうことにしてあげるよ」

「そういうこと、じゃなくて、そうなんです!」

「はいはい」

明らかに信じていないキョーコに蓮はくすりと笑うと、ふと何かを思いついたのか、じっとヴァイオリンを見た。
その眼差しにキョーコは「嫌な予感がする…」と青ざめる。
そんなキョーコに蓮はにこりと微笑んだ。

「………ねぇ、君さぁ…」

「お断りします!!!」

「……俺、まだ何も言ってないんだけど」

「敦賀さんがそういう表情をする時はろくなことがないんですっ」

「ろくな…って、君ねぇ。仮にも尊敬していると公言している先輩に吐くセリフじゃないと思うんだけど…」

「それとこれとは別です!」

きっぱりと言い切るキョーコに、「流石は最上さん。割り切り方が他人とは違う」と蓮は笑う。
その笑みを見て、キョーコはますます顔を強張らせた。

「実は、『Dark Moon』の最終回のエンディングのことなんだけどね、テーマソングを『嘉月』がピアノで演奏するって話が出てるんだ」

「…そうなんですか。敦賀さんならできますよ」

「うん、ありがとう。けどね、問題があってね…」

「(聞きたくないけど)…何ですか?」

「ピアノ用に編曲すると音が足りなくなるらしいんだ」

困ったことにね、と蓮は苦笑する。
その苦笑いがくせものなのだとキョーコは思った。
似非紳士スマイルなら「そうなんですか、大変ですね」と流せるのに…と。

「だから、ピアノを2台にしようとか他の楽器を入れようって話になったんだけど、他のメンバーも出演者じゃなきゃ『嘉月』に弾かせる意味がないからね、監督もプロデューサも困ってるんだ。『嘉月』が伴奏を弾いて、『美月』に歌ってもらおうって話も出たんだけど、主旋律の音はすごく高くてね、歌手でもない彼女が歌うにはきついらしい」

「はぁ、そうなんですか…」

「うん、そうなんです。だからね、最上さん」

「……………………ナンデショウカ?」

「君、ヴァイオリンで主旋律弾いてくれない?監督たちには俺から伝えておくから」

にっこりと笑顔でそう言われたキョーコは真っ青になり、思わず後ずさる。

「……何かな、その反応は」

「い、いえ、別に…(条件反射で…)」

自然な笑みから一転、似非紳士スマイルを浮かべる蓮に、キョーコは顔を引き攣らせた。

「…ふぅん、そう…まぁ、(後で聞き出すから)いいや。それより…やってくれるよね、最上さん?」

「む、無理ですよ!」

「何で?ヴァイオリンだったら高い音でも平気だと思うんだけど…」

「そうではなくて!私みたいなずぶの素人が演奏したら、『Dark Moon』の評価自体落としちゃうかもしれませんし、最終回の撮りまで1ヶ月もないんですよ?今から練習して人前で演奏できるレベルまで仕上がるのにどれほどかかるか…っ!皆が皆、敦賀さんのように化け物じゃないんですよ!」

「大丈夫だよ。先生をつけてもらえると思うし。それから……また、化け物って言ったね、最上さん…。そう何度も言われると本当に傷付くんだけど…」

他でもない君に言われたら、特に。
とは言わない。
言ったところで「申し訳ありませぇぇん!!私のようなぺーぺーの俳優というのもおこがましいジャリタレが…」とか曲解して土下座を繰り出すことが目に見えているからだ。
それに、鈍感なキョーコのことである…余計な一言まで付け加えかねない。

「あ、すみません!で、でも、本当に無理なんですってば!それに私、『未緒』なんですよ?『美月』ならともかく、『未緒』と『嘉月』なんてありえませんって!!」

「…そんなことないよ。『未緒』は味方になるんだし、問題ないと思うよ。それに、そんなにおかしいっていうなら、『美月』を『嘉月』と背中合わせで座らせたりして、何もしなくてもおかしくないような構図にすればいいんじゃないかな」

「そ、それはそうかもしれませんけど…」

「まぁ、監督たちがどう判断するかわからないし、ここでどうこう言っても意味はないよね」

「そうですよね!」

監督たちがOKを出すわけないわ!と元気になったキョーコに蓮は苦笑する。
蓮には監督たちが蓮の案を採用するという確信があったからだ。
それほど、『嘉月』で締め括るのにこだわっていたし、『未緒』がヴァイオリンを弾けるという設定に反していない以上、やらせないという選択肢は逆にない。


案の定、キョーコがヴァイオリンを弾けるを知った緒方は蓮の案を採用し、キョーコは泣きながら練習したのであった。

因みに、そのエンディングは特別特典として最終巻のDVDに付き、発売したその日に完売。
入荷待ち、という状況を作り上げたのであった。




―――――――――――――――――――
蓮キョが好きです。
それ以上に蓮→キョが好きです。

キョーコちゃんならやりそうだなぁ…と思って書いてみました。

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