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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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――この人は綺麗だ…

キョーコは車を運転している蓮の横顔を見ながらそう思った。
男前と称されている尊敬する先輩を、キョーコはあまりそう思ったことがない。
ついでに、『温厚紳士』と感じたことも、春の日差しと称される微笑みを見てそう思ったこともない。
キョーコにとって蓮は意地悪で、笑顔で嘘や毒を吐く人で、大魔王で、夜の帝王で、怨キョを浄化するほど神々しい笑みを浮かべられるのに、怨キョを喜ばせるダークなオーラも纏える不思議な、すごく大人な人。
男前というより、綺麗で………ずっと見ていたくなる。

「最上さん?」

キョーコが無言でじっと自分を見ていることが気になったのか、赤信号になったと同時に話しかけてくる蓮。
ずっと見られてたら気にならないわけないじゃない!と自分を叱咤しながら、キョーコは「え~っと…」と目を彷徨わせた。
蓮には嘘は通用しない。
嘘をついたら大魔王。
キョーコの脳にはそうインプットされているため、悩むのをやめて素直に答えた。

「綺麗だなぁって…」

「え?何が?」

思わぬ言葉を言われた蓮は反射的に聞き返す。
嘘をついている様子はないよな…とキョーコを観察しながら、信号が変わらないことを祈った。

「何って、敦賀さんがですよ?」

さらりとキョーコは爆弾を落とす。
キョーコからしてみれば、じっと蓮を見ていたのに何故「何が?」を聞かれるのか不思議でならなかった。
しかし、蓮からしてみれば違う。
最近は『色っぽい』なんてことも言われるが、綺麗なんて言われたのは子供の頃…“キョーコちゃん”に会った頃の話で、今はもっぱら『男前』『格好いい』が蓮の外見を指す言葉である。
なのに、キョーコは『綺麗』だと言うのだ…

「……綺麗なんて、男に使う言葉じゃないと思うよ?」

フリーズした蓮だったら、どうにか一般的見解を絞り出す。
だが、キョーコは「そうですか?」と納得いかなそうな顔で首を傾げた。

――その顔反則!!!

不満そうなキョーコの顔は何かをねだっているようにも見え、蓮の心臓は高鳴った。
しかし、忙しなく動く心臓とは逆に、表情は凍りつき、無表情だ。
幸いキョーコは前を見ていたため、気付かず、その間に蓮はどうにか顔を戻した。

「あ!青ですよ」

「ホントだ」

信号が青に変わり、蓮はアクセルを踏み込んだ。

「でも…やっぱり、綺麗ですよ」

「ん?…さっきの話?」

「はい。ってか、綺麗な男性って結構いるじゃないですか。緒方監督とか、社さんもどっちかというと綺麗系だし、悔しいけどビーグルや……とかも」

伏せた名前を察した蓮は一瞬不機嫌になるが、自分の感情に敏感で、簡単に怒りを察知して怯える存在が隣にいるため、どうにか怒りを抑えた。
一瞬の怒気に敏感に反応したキョーコだったが、すぐに消えたため、「勘違いかしら…?」と首を傾げながらも、キョーコは話を続けた。

「だから、男性に使ってもおかしくないと思うんですけど」

「う~ん…そうだねぇ…。確かに緒方監督は儚げな外見としてるし、社さんも整ってるけど、やっぱり男としては綺麗って言われても素直に喜べないと思うな」

「でも、綺麗なモノは綺麗なんです!!」

除外した二人のことには触れず、そう訴えるキョーコ。
蓮は苦笑して、「わかったよ」と呟いた。

「熱弁するってことは最上さんは綺麗なモノが好きなの?」

「はい!大好きです!!」

キューティーハニースマイルが発動されたのを察して、蓮は賢明にもそちらを向かなかった。
本当はその可愛らしい笑みを存分に見たいのだが、キョーコの笑顔は理性を揺るがす。
それに、思考停止する可能性を考えると、車を運転しながら見るのは危険すぎた。

「…へぇ。じゃあ、最上さんは俺のことが好きなんだね。さっき見惚れてたみたいだし」

「そうですね」

「も~!そんなことないですよ!」という返事を予想していた蓮は想定外の返事に思考は停止する。
かろうじて残っていた理性でブレーキを踏んだ蓮は、キキーーーーッと甲高い音を立てて止まった車に驚くキョーコの方を見た。

「もう!びっくりしたじゃないですか、敦賀さん!!いったいどうしたんですか?」

「も、がみさん…今、きみ…」

「何ですか?」

「俺のこと好きって、肯定した?」

「え?疑問に思うことですか、それ?嫌いな人と一緒にいたりしませんよ」

「………」

――何だ、人間として…という意味か

思わず期待してしまった蓮は自分の学習能力のなさを嘆く。
わかっているはずなのに、何度だって期待してしまう…それが恋という厄介な病。
つくづく面倒な病だ、と思いながら蓮はキョーコを見つめた。

「…そっか。嫌われていないようで嬉しいよ」

「嫌うはずなんてないじゃないですか!敦賀さんのことを知らない頃ならいざ知らず…あ!別に外見が綺麗だから好きってわけじゃないですからね?」

「……わかってるよ」

――期待したくなるから、好きって連呼しないでほしい

切実にそう思った。
たださえ理性が切れそうなのに、初めて言ってくれた「好き」という言葉。
女友達ならともかく、男に言って勘違いされないと思うのは甘いと思うのは蓮だけではないだろう。
そんなことを考えながらぼーっとキョーコを見ていると、キョーコもこちらを見つめてきた。
心なしかうっとりしている。

「…最上さん?」

「綺麗…ですよね、本当に…。私、敦賀さん以上に綺麗なヒト、コーンしか見た事ありません。あ、コーンは妖精なので、人間の中だと敦賀さん以上に綺麗な人を見たことがない、が正解ですね」

――コーンも俺です…

そう言えたらどんなに気持ち的に楽になれるか。
けれど言えない理由がある。
だから言わずに、蓮は「どっちにしろこの子にとって俺が一番綺麗なのか…」と心の中で苦笑した。

「そんなに?」

「…はい。緒方監督とかもプリンセスかと思うほど綺麗な方ですけど、でも、敦賀さんの方が綺麗…存在自体が光り輝いてるみたい…」

「……俺は君が思うほど綺麗な存在じゃないよ?」

内包した闇はレイノに二度と関わりたくないと思わせるほどのものだ。
それを知るよしはないが、自分が闇に堕ち、狂気に満ちた人間だったことを自覚している蓮にとってキョーコの賛辞は耳に痛いだけ。
綺麗だと信じていてくれるのは嬉しいが、自分はそう言ってもらえるような人間じゃないと一番知っているのは蓮自身なのだから。

「綺麗ですよ…例え、汚れたことがあったとしても、それを含めて敦賀さんは綺麗です…」

そう呟いてキョーコはそっと蓮の頬に手を伸ばした。
滅多にないキョーコからの接触に蓮は固まる。
伸ばした手は蓮の頬をまるでガラス細工を触れるかのように優しく撫でた。

「綺麗」

顔を綻ばせ、優しく笑った。
慈愛に満ちたその笑みは、まるで母のようで………

ぽろり

目から零れ落ちる。
零れ落ちたそれは頬を伝い、頬に触れているキョーコの手を濡らした。
それをきっかけに、キョーコははっと我に返る。

「わ、わたし…っ、す、すみません!!あの、なんで泣いて…何か気に触ったことでも…」

「違う、よ。何でだろうね…思わず溢れてきたんだ」

「あ、の…大丈夫、ですか?」

微笑んだ蓮を心配げに見つめながら、涙を拭う。

――涙を流す姿さえ綺麗な人…

男が泣いたらみっともないとか思うものなのかもしれないが、キョーコはそう思った。
蓮の場合はキョーコじゃなくてもみっともないとは思わないだろうが、ここまで純粋に綺麗だと思う人間はいないだろう。

「大丈夫だよ。ありがとう」

蓮は笑った。
汚れても綺麗だと言われて全てが許された気がした自分の単純さを。
キョーコの言葉だけで救われる自分を。
けれど、そんな自分が嫌に思えず…笑ったのだ。


「ありがとう、最上さん…」


――君はいつでも俺を救ってくれるんだね

流れる涙をそのままに、蓮はそんなことを思いながら子供のように笑った。

 

 

 

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キョーコに「綺麗」と言わせたかっただけ。

 

 

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