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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「ルーク・フォン・ファブレ子爵、参上致しました」
父に連れられ登城したルークはそう言って膝をついた。
"前回"はそんな事すら思いつかなかったし、それどころか乱入である。
恥ずかしい限りだ。
「顔を上げよ。久しいな…記憶を失って以来か…」
「はい。ご無沙汰しております」
「そう畏まらずとも良い。…お主の法案は良いモノばかりであった…これからも期待しておるぞ」
「恐れ入ります」
これからなんてないと知っているくせに、と毒を吐きたくなったが我慢する。
そんな事を口にすれば今までの苦労が水の泡だ。
アクゼリュスに行ってパッセージリングを操作しなくてはならないのだから。
「ここに呼んだのは他でもない。お主に親善大使としてアクゼリュスに行ってほしいからだ」
「…私に、ですか?恐れながら陛下。私は政治に参加してると言っても今まで外に出た事なかった未熟者です。いきなりそのような大役を任されても…」
「わかっておる。だがお主がアクゼリュスに行く事は預言に詠まれているのだ」
「…預言、ですか」
「佐用。導師、これを詠んでいただけますかな?」
大臣が持ってきた石を差し出すと、イオンは戸惑いながらもその石に触れ、預言を詠み出した。
曰く、聖なる焔の光がアクゼリュスに行く、という内容のもので、続きは石が割れていた為詠めなかった。
「…わかりました。お受けしましょう」
「そうか!ルークならそう言ってくれると思っていた。明日にでも出発しなさい」
いくらなんでもそれでは準備期間が短過ぎるのでは…とその場にいた他の貴族たちは不審に思ったが、当のルークは「拝命しました」とあっさり了解したので、疑問に思いながらも口に出す者はいなかった。
「白光騎士団の手持ちの騎士を護衛として連れて行ってもいいですか?」
「カイル・ライラックの事か?」
「いえ、彼もですが王族の護衛として一人では少な過ぎるでしょう。私の手持ちの一部隊持っていきたいのですが…」
王族ならそれくらい当たり前である。
寧ろ一師団あっても良いくらいだ。
しかし、ルーク手持ちの部隊と言えば白光騎士団の中でもよりすぐりである。
一人一人が軍の将官並の力を持っており、いずれも国ではなく公爵でもなくルークのみに忠誠を誓っている騎士たちだ。
預言の続きを知っているインゴベルトとしては彼らという戦力を失うのは痛い。
だが、ここで拒めば不審に思う人間も出てくるだろう。
「…良かろう」
インゴベルトが頷いたのを見て、今まで静かにやり取りを見ていたナタリアが「お父様!」と叫んで立ち上がった。
「やはり私も一緒に参りますわ!ルーク一人では不安ですもの」
その言葉はルークをけなしているものだと気付いていないナタリアは、その言葉を聞いて顔を歪めているクリムゾンやルークの手腕を尊敬している貴族たちに気付かない。
「ナタリア…駄目だと昨日も言ったろう」
「しかしルークは先日まで外に出た事すらなかったのですわよ?婚約者として私が支えて差し上げなければ!」
外に出た事なかったのは王の命令だったからであり、ルークの意志ではない。
それにルークは既に一人前の貴族で、自分の力で爵位も授かっている。
外に出た事がなくとも臨機応変でやり遂げるほどの力はあるのだ。
「恐れながら、ナタリア王女」
「なんですの?ファブレ公爵」
「貴女の役割は我が息子が無事にやり遂げる事を信じる事のはず。それとも、ルークでは貴女の信用に値しないと、そうおっしゃるのですか?」
「まぁ、何を言ってるんですの?私はルークを信じていましてよ。それとこれとは話が別ですわ」
クリムゾンの言いたい事を全く理解していないナタリアにその場にいた殆どの者が内心頭を抱える。
インゴベルトも自分の娘の理解力のなさに呆れたのか、溜息をつき「ルークについてゆく事を禁ず。これは勅命だ、ナタリア」と最終手段に出た。
言われたナタリアは渋々引き下がったが納得はしていないようだ。
きっと今回もこっそりついて来るだろうなぁとルークは苦笑した。
「…陛下、ティア・グランツはどうなりました?」
「おぉ、そうであった。ティア・グランツは罪を軽減するのために同行させる事になった。ヴァン・グランツも同様だ」
やはり、か…とルークは眉をひそめた。
それを勘違いしたのか慌ててインゴベルトが言葉を続ける。
「王族の屋敷への襲撃と誘拐。それに王族への不敬。本来なら即刻首を落とすべき罪だがティア・グランツがやった事は重過ぎて彼女の死だけでは償いきれぬほどだ。だから、兄であるヴァン・グランツと共にアクゼリュスに派遣し、役に立ったのなら罪を軽減してから刑に処す事になっておる」
「…そうですか」
アクゼリュスから帰還できたらティアの罪の軽減を申し出てみようと決意する。
彼女が何故兄を襲うなんて暴挙にでたのか、その理由を知ればもう少し猶予が与えられるだろうし、罪も軽くなるかもしれない。
「では陛下、導師イオン、明日の準備がありますので御前を失礼させていただきます。カーティス大佐、明日からよろしく頼む」
ルークはそう言って礼を取ると書類の引き継ぎや旅支度をする為にその場を辞した。


――あとがき―――――――――――――
礼儀がわからない…
どうやれば失礼じゃないんだろう?

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ノックが聞こえたので目が覚めていたルークは入室許可を出すとルーク付きのメイドが「失礼します」と礼を取ってから音を立てずに入ってきた。
「おはようございます、ルーク様」
「おはよう、ソフィス。気のせいかもしれないけど、いつもより早くないか?」
「いえ、気のせいではございません。公爵がお呼びです」
ソフィスの言葉にルークは「そうか」と呟くと立ち上がり、上着を羽織った。
「他に何か聞いてるか?」
「それが…共に登城するように、と」
「…へぇ。って事は軟禁の命が解かれたと解釈していいのかな?…まぁ、いいや。ソフィス、爵位を授かった時に戴いた子爵服を用意してくれないか?」
「既に」
ソフィスはそう言うと外に控えていたメイドを呼んだ。
そのメイドは黒の礼服を持ってルークの部屋に入り、その服をソフィスに渡すとルークに立礼をして下がった。
「ありがとう」
服を持ってきたメイドに礼を言うとそのメイドは頬を軽く染め「勿体ないお言葉…」と呟いた。
それが日常茶飯事なのでルークは特に気にしない。
「お手伝いした方がよろしいですか?」
普段ルークは一人で着替える。
主人の着替えの手伝いもメイドの仕事なのだが、慣れないルークが着替えは手伝わないでいい、と断ったからだ。
しかし、子爵服はいつもと勝手が違う。
なのでソフィスはわざわざ確認したのだ。
「あぁ、頼む。ボタン多くてわかりにくいんだよなぁ、コレ」
ルークは羽織った上着を脱ぎ、子爵服を見て苦笑した。
登城するなら正装しなくてはならないのだが正直なところこういう堅苦しい服は苦手なのだ。
「他は?登城する理由とか…」
「いえ…詳しい事は何も…」
「そうか…」
そう言いつつ、ルークには呼び出された理由がわかっていた。
親善大使としてアクゼリュスに向かえと言われる…あの悪夢の地へと。
ジェイドに会った時点で覚悟していた事だ、和平を理由にアクゼリュスに派遣される事は…
だが、やはり怖い。
「…どうかなされました?」
「いや、平気だ。…これでいいか?おかしいところは?」
一番上のボタンまでとめたルークはくるりと回ってみせる。
「…大丈夫です」
ソフィスはとめてないところやほつれているところがないか用心深くみたが見当たらなかったので表情を緩めて頷いた。
「じゃあ、行ってくるよ」
安心させるように笑うルークを見て、ソフィスは何故かルークが今にも消えてしまいそうな気がした。
「ルーク様!」
「ん?どうした?」
「待ってますから…必ず帰って来て下さい」
ソフィスがそう言うとルークは驚いたような顔をした後、嬉しそうに、だが悲しそうに笑った。
「ソフィスはやっぱりソフィスなんだな」
「え?」
「いや、気にするな。心配しなくても帰ってくるよ」
ルークはそれだけ言うと父が待っているであろう食堂に向かって歩き出した。
ソフィスはその後ろ姿を見ながら何も起きませんように、と心の中で願った。


――あとがき―――――――――――――
ソフィス漸く出せました。
でも、また出ない日々が始まります。
ってか女の子は難しい……

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「やっと休めるな」
ナタリアから開放され、シュザンヌの見舞いを終えたルークは苦笑しながら護衛として今まで付き添っていたカイルに話しかける。
カイルも苦笑しながら頷いた。
護衛失格である導師守護役のアニスとは違い、カイルは今までずっと寝ずの番を務めてきた。
時々、ルークに許可をもらい仮眠をした日もあるが、殆ど寝てないに等しい。
だが、ファブレ邸ならカイル以外にもルークを護衛の騎士が沢山いる。
なので安心して眠る事ができるのだ。
「それにしても良かった…罰を受けた人はいるようだけど暇を出された人はいなくて…」
ルークは見慣れたメイドや騎士たちの出迎えに自分の願いが公爵に聞き入れられたのがわかった。
実は鳩を飛ばす際に和平の事だけでなく、騎士やメイドの罰の軽減を願ったのだ。
勿論、カイツールでルークを掠われてしまったカイルの職務怠慢もお咎めなしにするよう頼んだ。
自分を掠ったのは六神将の一人だけど、彼は他の教団員の不敬の謝罪を含めて健康診断をしてくれただけだから罪に問わないでくれ、と。
それが聞き入れられた事を公爵本人に聞いている。
公爵はカイルより使用人であるはずのガイの様子に頭を痛めているようだ。
「…武力だけじゃなくて譜歌の対策も考えなきゃな。同じ事を繰り返すわけにはいかない」
「そうですね。譜歌を無力化できないか、譜術開発部に掛け合ってみましょう」
カイルは真剣に頷きながら応えた。
今回のティアの襲撃により、公爵が帰ってくるまでの短時間だが、ファブレ邸は無防備になった。
起きていたのは耐性のあったヴァンだけで、それでもふらついて戦力にならない。
そんな状況で反ファブレ派の人間が攻めてきていたのなら全滅していただろう。
そんな状況を二度と作らない為にも対抗手段を考え、譜歌に耐性をつけておかなければならない。
今回は守らなくてはならなかったルークからの減刑を願う手紙と襲撃された中、譜歌に対抗しルークについていったカイルの存在故に何とか首の皮一枚で繋がったのだ。
同じ事が再び起これば死罪もありうるのだ。
それほどルーク―王族―の存在は重い。
「まぁ、報告が済んだらゆっくり休め。何があるかわからないからな、いつでも対応できるように身体に休息が必要だ。睡眠不足は注意散漫を招いたり譜歌にかかりやすくなるからな」
「はい、心得ております。ご心配いただき誠にありがとうございます」
そう言って頭を下げるカイルにルークは軽く笑った。
「ガイ程とは言わないけど、もう少し砕けた口調を使ってもいいんだぞ。お前なら公私混同しないだろうし、父上にも許可は取ってあるんだからさ」
「勿体ないお言葉…しかし、私はルーク様の護衛である事を自負しております。その私がルーク様の非となる行動を取るわけには参りません」
相変わらずだなぁ、とルークは苦笑いをした。
初めて会った時から変わらない。
いや、その頃よりは気軽に話せるようになったが、カイルから敬語を使われる度ルークは自分とカイルの間に壁を感じるのだ。
仕方ない事だとわかっていても寂しいものは寂しい。
「ルーク様?」
「…いや、何でもない。俺は部屋に戻るよ。外に出ると言っても王には内緒でお忍びで城下に出た事があるだけだったからな。流石に疲れた」
そう言って笑うとルークは自分の部屋へと足を進めた。
カイルは何度か見た事のある寂しそうな笑みに戸惑いながらもルークの後ろ姿を見送り、姿が見えなくなってから公爵に報告をする為踵を返した。



――あとがき―――――――――――――
久々の更新!
因みに本編のように無理矢理突入したりせず正式な手順を踏んでいるのでルークが呼び出されるのは翌日ではなく翌々日です。
このルークはスレじゃなくて短髪だから仲間虐めはないと思いますが、王族としての自覚は芽生えてますので(だって繰り返してるから14歳だし)ティアが拘束された時点で前回がおかしかった事に気付いています。
でも、懐かしいなぁ…で済ましちゃいそうになるからカイルがいるのですが…
ソフィス(メイド)が出てこないっ!
どこで出せるかな?

今、無性にフリルクが読みたくてたまらない※受験生

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「ルーク!無事でしたのね?心配しましたわ!」
港につくとナタリアが待っていた。
人目も気にせずルークに抱き着くナタリアにカイルは溜息をつきたくなる。
感動の再会は良いが、自国の兵だけでなく、この場にマルクトの人間がいるのに気付いてほしい。
普通、マルクトの人間がいるのなら挨拶くらいすべきだろう。
それも和平の使者だ、それくらいルークが送った手紙に書いてあったはずなのに…
「ナタリア…挨拶くらいしないと流石に失礼だろ?」
ルークはいつまで経っても自分を離さず、後ろで頭を垂れているマルクト軍人に目もくれないナタリアに少し呆れながらそう言うと、今気が付いたとばかり軍人たちを見つめた。
「まぁ、私ったら」
ごまかすように笑い、ルークから漸く離れるナタリア。
「ナアリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアですわ」
「ピオニー・ウパラ・マルクト9世の名代で和平の使者として参りました、ジェイド・カーティス大佐です」
「貴方が…ルークから手紙は受け取っておりますわ。明日、謁見の場を設けますから今日はお休み下さいまし。ルーク、叔母様が心配なさってましたわよ。早く顔をお見せになった方がよろしいですわ」
「ありがとう、ナタリア。セシル将軍、ホテルに案内してあげてくれるかな?それからティア・グランツの件はどうなってる?」
ルークがそう尋ねるとセシルは敬礼し、話し出した。
「罪人ティア・グランツに関しては大詠師モースに一任するよう申し遣っております」
「そうか…じゃあ、彼女の事も頼むな」
「はっ!…連れて行け」
セシルは後ろで控えていた部下にそう指示するとマルクト兵たちが拘束していたティアをその部下たちに引き渡す。
部下たちはルークとナタリアに丁寧に一礼した後ティアを連れてその場を辞した。
「ではカーティス大佐、俺はここで。セシル将軍にこの後の事は聞いて下さい。…和平が成立する事を願っています」
「ありがとうございます、ルーク様」
ジェイドと共に後ろにいるマルクト兵たちも深々礼をする。
ルークは"前回"と全く違うジェイドに内心苦笑しつつ、背を向けた。
「じゃあ、セシル将軍、後は頼んだ。ナタリア、行こうか?母上に早く顔を見せて安心させてやりたいし。カイルも」
「えぇルーク、早く参りましょう。将軍、護衛はいりませんわ。カイルがいますもの」
治安の良いとは言えないこの時期に王位継承者二人を一人で護衛するのは至難だ。
それを理解していないナタリアは護衛を断りルークを引っ張って歩き出す。
ルークは今度ははっきり苦笑して「すまないな、カイル」と小声で言った。
ルークと長い付き合いのカイルはやはりナタリアとも長い付き合いなので首を振り、護衛に徹する。
それを同情しながらセシルとマルクト軍人たちは見送った。



――あとがき―――――――――――――
ナタリア阿呆の子です。
カイル大変だなぁ、ルークは戦えるとは言え公爵子息(ってかこの話だとルーク自身子爵だけど)だから剣を抜かせるような事があったら責任問われちゃうしね
ナタリアの言った事に反論したら「役立たずですわね」とか言われそう、正論でも…
勘違い王女サマだし

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カイツールに着くとグランツ謡将はカーティス大佐と話していた。
グランツ謡将の顔色は悪い。
おそらくタルタロス襲撃について尋問されているのだろう。
当たり前だ。
部下の不始末なのだ、責められない方がおかしい。
気配を感じたのか、ふとこちらを向いた。
ほんの一瞬、助かったとばかり顔を輝かせたが、私が斜め後ろに控えているのを見て、いつもルーク様に接する時のような表情になった。
「ルーク、無事だったか」
こいつもか!
ガイ・セシルといい、こいつといい…ルーク様と自分の身分を正確に把握してるか?
「はい。ご心配をおかけしました」
「いや、無事なら良いのだ。ディストにはしっかり言い聞かせておこう」
あくまでこんな公の場で師として振る舞う気か…
良いだろう
前々から言ってやりたかったのだ。
「…ルーク様。発言してもよろしいでしょうか?」
「ん?……良いよ、許す」
ルーク様はこちらを向いた時、一瞬だけ固まった。
おそらくまた無表情になっているのだろう。
以前、ルーク様が「お前ってキレると無表情になるから恐い」とおっしゃっていた。
それ以降、主の前でそんな失態は犯すまいと決めていたが、飛ばされてから失態が多くなっている気がする。
それもこれも非常識な輩が多いせいだ。
そのような馬鹿者はガイくらいだと思っていたから驚いた。
「ヴァン・グランツ。貴方、何様のつもりですか?」
「は?カイル殿、それはどういう…」
「皆まで言わないとわからないんですか?ガイ・セシルにも言いましたが、ここは外で屋敷の中ではありません。確かに貴方は私的な場ではルーク様の師であります。しかし、外では師弟である前にキムラスカ王族と神託の盾騎士団総長です。…ここまで言ってもわかりませんか?」
子供にでもわかるくらいかみ砕いて言ったつもりだ。
本当は屋敷でも最低限度の礼儀くらい弁えてほしいが、それは次に稽古に来る日でいいだろう。
ルーク様に馴れ馴れしいグランツ謡将は屋敷の殆どの者に嫌われている。
公爵やシュザンヌ様もよく思っていらっしゃらないからお許し下さるだろう。
「…いや、理解した。わざわざすまない」
「私ではなく謝罪ならルーク様におっしゃって下さい」
「そうだな。ルーク様、申し訳ありませんでした」
「いえ、頭を上げて下さい。これで侮られるようなら俺もまだまだって事ですし」
それならこれからもっと頑張らなくちゃ、と笑っておっしゃるルーク様の心の広さに感謝しておけ。
許しさえあればこの場で斬り捨ててやったものを…
「そう言えば、師匠は何故ここに?襲撃犯が貴方の妹だったので、てっきり責任を追求されて捕まっているものだと思ってました」
確かにその通りである。
屋敷を襲撃した理由がおおざっぱに言えば兄妹喧嘩。
誘拐された理由が謡将の近くにいたせいで巻き込まれた、であれば捕まる理由としては充分過ぎるくらいだ。
まさか脱獄してきたのではあるまいな、と睨みつければ謡将は首を振った。
「事情を話し、罪を軽減するために貴方様を追ったしだいにございます」
「へぇ、師匠も災難でしたね」
しみじみとそう言うルーク様に機嫌が悪くなったのか一瞬嫌そうな顔をする。
ルーク様の責任ではなく妹の教育を間違えた謡将の責任だろうに…ルーク様は何故咎めないのだろう?
感情の変化に敏感なルーク様なら気付いてないなんて事はないだろうに。
「…俺は少し疲れたのでもう休みますね」
「そうか…」
また敬語ではなくなっている。
あぁ…私にその権限があったなら即刻打ち首にするのに…
「カイル、行こうか?お前も疲れたろ?」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「いや。あ、そうだ。鳩飛ばさなきゃ」
「そうでしたね。では鳩を借りに参りましょうか?」
「そうだな。行こう」


――あとがき―――――――――――――
カイルの性格がアスランから遠ざかってくよ…(泣
次は飛んでバチカル予定

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「ルーク様!」
カイルがコーラル城につくと、ルークは既に入口に立っていた。
「ご無事ですか?お怪我は?『死神ディスト』はどこに?」
「カイル、落ち着け。俺は無事だ、怪我も何にもない。ディストは健康診断みたいな事して帰った」
「…健康診断?」
思いにもよらない内容にカイルは復唱する。
そんなカイルにルークは苦笑した。
「教団員のせいで超振動が起こったろ?それに襲われたタルタロスに乗ってたからさ、その影響や怪我がないか詫びとして診察してくれたんだ。連れ出し方はまぁ誤解を招くようなやり方だったけどさ、良い奴だったし怒るなよ?」
「そう、だったんですか…神託の盾にもマシなのがいたんですね。事前に一言でも言ってくれれば…」
「六神将だから信用してくれないと思ったらしい」
「まぁ、確かにそう申し出があっても拒否したでしょうね」
頷くカイルの様子から見て、結構好印象を得たらしい。
あんな掠い方をしたのにこの様子…余程神託の盾に悪印象を持っていたのだろう。
そのせいで基準が狂ってしまったようだ。
「しかし、私めの不注意のせいで掠われてしまい申し訳ありませんでした。覚悟はできております」
「いや、必要ない。今回の事は俺から父上に取り計らうよう頼んでみる。掠われた理由が理由だしな。だから、これからも仕えてくれないかな?お前の事、頼りにしてるし、いなくなると寂しい」
「るっルーク様っ!」
カイルはルークの言葉に感動して跪ずき、頭を垂れた。
「このカイル、この命が絶えるその時まで一生ルーク様に尽し、守る事を誓います」
「カイル?!顔上げろよ、大袈裟な奴だな。俺にそんな価値ないって…俺は……」
「ルーク様?」
辛そうに言い澱むルークをカイルは心配そうに見上げる。
「ルーク様…?」
「カイル…もし俺が本物の『ルーク』じゃなくても…いや、何でもない。忘れてくれ」
悲しそうに笑うルークにカイルは胸が痛くなった。
ルークは時々、寂しそうな悲しそうな顔で笑う。
記憶が戻らないから辛いのだろうと他の者たちは推測していたが、カイルは何故かそうは思わなかった。
どこか自嘲を含んだこの笑みは何かを諦めている笑顔だ。
そう思ったのだ。
「もう、行こうか。心配してるかもしれないし」
歩き出そうとするルークの手をカイルは反射的に握った。
「え?」
「ぁ…」
許可なく主に触れるなど…と言っている自分がこんな行動をとった事に驚きつつ、無礼だとわかっていても手を放さなかった。
今放したらどこかに消えてしまいそうで…
「私は…」
「カイル?」
いつもと様子が違うカイルに戸惑いつつも今だ膝をついているカイルの顔を覗き込む。
「どうした?」
「私は…例え貴方が本物の『ルーク』様でなくとも、私が忠誠を誓うのは今、目の前にいる貴方だけです。どんな事があろうと私の主は貴方だけです」
カイルの言葉にルークは驚き、目を見開いた。
そして心底嬉しそうに破顔し、「ありがとう」と呟いた。
「お前には救われるよ…(今も"昔"も)」
「ルーク様?」
「いや、何でもないんだ。行こう、カイル。鳩を出したらゆっくり休んで、明日は亡くなったマルクト兵に祈りを捧げさせてもらおうぜ?」
「えぇ、そうですね。では参りましょう」
カイルは立ち上がると乗ってきた馬に近付き、「お手をどうぞ」と言ってルークを落ちないように乗せる。
「お前は乗らないのか?」
「主と相乗りなどできません」
「って事は手綱引いてく事になるだろ?そうすると着くの遅くなるしさ、俺は気にしないからカイツールの近くまで一緒に乗ろうぜ?近くまで来たら降りれば問題ねぇだろ?」
にこにこと笑いながら言うルークにカイルは断るすべを持たない。
ルークに悲しむような顔をさせたくないし、確かに手綱を引いて歩けば着くのがかなり遅くなる。
それに結局、カイルはルークに甘いのだ。
「…承知しました。できれば少し前にズレていただけますか?」
ルークは頷いてゆっくり前に移動する。
カイルは慣れたようにルークの後ろに飛び乗ると、ルークを抱きしめるような形で手綱を取った。
「ご不快でしたら申し訳ありません」
「そんな事ねぇよ。カイルの腕の中、暖かいし、安心する」
ルークはカイルの胸に寄り掛かるように背中を倒すと、ゆっくり目を閉じた。
目を閉じたせいで音が鮮明になり、カイルの心音が聞こえる。
「(少し速いような気がする…けど、落ち着く…)」
安心して身体を任せるルークとの密着度にカイルは赤くなる。
触れているところから熱くなっていくような気がした。
「(無条件の信頼は嬉しいですが、無防備過ぎますよ…私の気も知らないで)」
警戒されたいわけではないが、もう少し自分の魅力に気付いてほしい…とカイルは嘆息した。
きっとそんな日は来ないだろうとわかっていつつもそう思わずにはいられなかった。



---あとがき---------------------------
今のとこカイル→ルーク状態です
ジェイドは今回…どうだろ?惚れるかなぁ??
でも、ルークに「感謝してるよ」って言われたら気になり出しそうだよね~

拍手[5回]


「くそっ」
ダンッ
と壁に拳を打ち付けるカイル。
「ルークなら大丈夫だろ、結構強いし」
とガイが無責任な発言で慰めるが、逆に苛立つばかり。
ガイと言い争っていた(と言うより説教)せいで反応が遅れてしまったのだから仕方ないと同乗員はカイルを不憫に思った。
「そこ衛兵!奴が向かった方向には何がある?」
「はっ!確か…廃墟と化したコーラル城があったかと…」
「コーラル城?公爵の持ち物か…ならば無断で入っても問題あるまい。馬を貸してくれ、見ていた通り主が掠われた」
「その…主というのは…?」
「ファブレ公爵の御子息であらせられるルーク様だ」
その言葉に衛兵は「ルーク子爵?!」と叫ぶと大慌てで馬を至急用意するようにと軍基地に伝えに行く。
「…何かあったのか?ガイ」
その衛兵と入れ違いになるようにヴァンが現れ、周りの慌てように驚きながら顔見知りであるガイにそう尋ねる。
「どうにもこうにも、ルークがディストに掠われちまってしまったんですよ」
「何っ!?」
驚くヴァンにカイルや周りの兵士たちは冷たい視線を送る。
「どういう事ですか、グランツ謡将?六神将は確か貴方の管轄下にありましたよね?」
「私はこんな指示は出してはいないっ…おそらくあいつの独断だろう」
「監督不行ですね。許可なくルーク様に触れるなど何たる無礼…部下の躾くらいちゃんとなさって下さい。タルタロスでも六神将に襲われましたよ。どうゆう教育を行っているのです?」
後ろにいるマルクト軍人が恐ろしい目でヴァンを睨んでいる。
六神将は仲間の仇だ、その上官であるヴァンが恨まれるのも仕方ない事だろう。
「…そう言えば屋敷を襲ってきたのは貴方の妹だそうですね。兄妹喧嘩なら他所でやって下さい」
「…その妹が見当たらないが」
「貴方は馬鹿ですか?ファブレ公爵の屋敷を襲い、ルーク様を誘拐した揚句、数々の不敬罪…牢屋にいるに決まってるでしょう」
全くの正論に納得はできないが、反論もできないヴァン。
そんなヴァンをカイルは今にも射殺しそうな目で見ている。
「どう責任を取るおつもりですか?この度の許し難い出来事の数々を。ダアトはキムラスカとマルクトに喧嘩を売った…そう取っても構いませんか?」
ジェイド後ろにいるイオンは真っ青になっている。
今回の事がどれだけ大事なのかわかっているからだ。
「とんでもない!そんなわけでは…」
「馬の用意ができました!!」
ヴァンの言い訳を遮るようにカイツールの入口付近で馬の手綱を引いた衛兵が叫んだ。
「…この話はまた後ほど。私はルーク様を迎えに行ってきます」
そう言い残して立ち去るカイルの後ろ姿にヴァンはホッと息を吐いた。
しかし、しばしの安息は後ろからの声で破られた。
「グランツ謡将。我々からもお話があります。勿論聞いて下さいますよね?」
にっこりと微笑んで(しかし目は全く笑ってない)そう言った死霊使いにヴァンの顔が引き攣る。
近くにいるガイに助けを求めるが、ガイは慌てて顔を背けた。
「グランツ謡将?」
断る事は許さないとその目は言っていた。
「…勿論、お伺いします…」
ヴァンは引き攣った笑顔でそう答えるしかなかった。



----あとがき-------------------------
カイル、単独でコーラル城へ
なのでジェイドはルークがレプリカだという事に感づきません
記憶喪失の話もしてないしね(ただ会った事がないって言っただけだし)
ヴァンどうなるかなぁ?やっぱ責任を取ってモースと共に辞職?
だってティアはモース直属だし、六神将はヴァン直属。

拍手[4回]


「ルーク!」
「…ガイ」
手を振ってルークの名を叫ぶガイに、カイルは剣の柄を握った。

「ルーク!良かった、捜したぜ?それにしても何でマルクトの軍艦なんかに乗ってたんだ?」
にこにこ笑いながらルークに気軽に話しかけるガイをカイルは低い声で呼んだ。
「…ガイ・セシル」
「何だ?カイル、どうかしたか?」
「貴様、ここがどこだか理解しているのか?」
「何言ってんだ?カイツールだろ?」
どういう意味で問うたのか理解してないガイは笑顔のままあっさり答える。
ルークはカイルが更にキレる一歩手前のところまでキているのを感じた。
「そうだ、カイツール…つまり公の場だ。ガイ・セシル、貴様はルーク様の何だ?」
「使用人だな」
「そうだ、使用人だ。ルーク様は確かに私的な場では対等に話しても良いとおっしゃられていた。だが、ここで屋敷で接するのと同じような態度を取れば使用人風情に呼び捨てにされている、と侮られるだろう」
「ははっ、カイルは大袈裟だなぁ」
「大袈裟ではない!」
タルタロスの中であったような事を繰り返しているカイルに後ろにいたマルクト兵たちは深く同情した。
ルークと接して、ルークが侮られるような愚かな人間ではない事を同乗していた人間は知っているが、この光景だけ見ればそうとられても仕方ない。
だからカイルは屋敷でもガイに口調を正すよう日々言ってきたのだが、成果は表れなかったようだ。
ルークは二人が言い争ってるのを見ていたが、何かがこっちに向かってきているのを感じて避けた。
が、第二弾に捕まってしまった。
「なっ…!?」
「ルーク様っ?!」
言い争っていた二人、特にカイルは勢い良く振り返った。
ルークが捕まったのは椅子に乗った男…ディストである。
因みに第一弾はアリエッタの魔物だ。
「(あれ?ここはアッシュじゃなかったっけ?で、アリエッタが軍港を襲撃して、ディストとシンクがコーラル城に…)」
「はーはっはっはっ!ちょっとお借りしていきますよ!」
「誰が許すかっ!ルーク様を放せっ!!」
「用が済んだら五体満足でお返ししますよ。勿論、意識もしっかりしたまま」
そう言い残すと椅子はルークを乗せたままコーラル城に向かう。
ルークは考え込んでいるため抵抗をするのを忘れている。
「待ちなさい、洟垂れ!!」
「キィィィイイ!!私は洟垂れではありません!『薔薇のディスト』様です!」
文句を言いつつ速度を緩めないディスト。
「…なぁ」
「なんですか?放せ、とかは聞きませんからね。後でちゃんと開放して差し上げますから今は大人しくしてらっしゃい」
「そうじゃなくってさ、何で俺を誘拐するんだ?…アッシュにでも頼まれた?」
「変な事言いますねぇ。私の意思ですよ。ただ検査をするだけですから心配しなくても良いですよ」
「えっ?同調フォンスロットを開くんじゃなくて?」
言ってからすぐにマズイとルークは思った。
ダラダラと冷や汗を流しているルークをよそに、ディストはルークの言葉に考え込む。
「…もしかして貴方、レプリカだと知ってるんですか?」
あぁ、ばれてしまった…とルークは泣きたくなった。
ディストからヴァンにその情報が伝われば警戒されるだろう。
せっかく懐いていると見えるよう演じてきたのに…
「そんな顔しなくとも大人しく検査さえさせてくれればヴァンには伝えませんよ、安心なさい」
「え?マジで?」
「えぇ、約束しましょう。…大方、髪を切った時にその髪が乖離したのを見たのでしょう?第七音素は分離しやすいですから」
「そうなんだよ!あははは…あの時は驚いたなぁ」
棒読みだがディストは気にならないらしく指摘しない。
ただ、少し楽しそうだ。
「聞いていたより聡明みたいですね。そこそこ強いそうですし?特殊部隊隊長さん?」
「あはは…レプリカだって知ってから結構鍛えたからな。本物が戻れば俺は用なしだし。抵抗できずに殺されるのも釈だし」
「ふむ。アッシュに目をつけたのは悪くないですね。と言うよりキムラスカの特徴である色を曝しているのに何故今まで一度も疑われた言葉がないのかが疑問ですよ、私は」
確かに、とルークは何度も頷く。
それはルークも"以前"からずっと思っていた事だ。
もしかしたら預言を知っていた王や公爵がわざと気がつかないフリをしていたのかもしれない。
「で、あのさ…同調フォンスロットを開いてほしいってアッシュに頼まれたんじゃないのか?」
「レプリカの事は知っていても少しみたいですね。同調フォンスロットは完全同位体でなくては開けないんですよ?」
「へ?俺とアッシュって完全同位体じゃねぇの?」
「残念ながら。稀なケースで、アッシュは音素振動数が変動してしまったんですよ」
そう聞いてルークは驚くと共にローレライの仕業だろうと検討がついた。
預言を曲げた自分を気に入っていたようだしわざわざ"送り返した"くらいだ。
大爆発の事はどうにかしてくれるのではないかと思っていたが…
「(アッシュは超振動使えないのか…『ルーク』じゃなくなったからだと師匠たちは考えてるかもな)」
「もうすぐつきますよ。検査してデータを取るだけなので少しじっとしてて下さいね」
「了解~」
ルークがそう言うとディストは満足そうに笑ってコーラル城まで速度を速めた。

-----あとがき------------------------
ディスト贔屓がまるわかり☆
ジェイドは少し反省したので扱いは良いと思う…(未定


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ブリッジは死臭が漂っていた。
「おそらく師団長ですね…」
乖離しきれていない数体の魔物の死骸を見ながら少佐が呟く。
どれも譜術の攻撃による傷を負っている。
「この様子なら師団長は無事なようですね。…まぁ、殺して死ぬような人じゃありませんし…」
確かに、とルークは内心頷く。
「とにかく移動しましょう。ここでは囲まれた時厄介ですよ」

「その通りだ」

上からの殺気にルークは後ろにいたイオンを抱え、そのルークをカイルが抱え、横に跳んだ。
殺気に気付かなかったアニスと最後尾にいたせいで避けそこなった兵士数人が降ってきた氷に当たる。
「ふんっ…いいご身分だなぁ、お坊ちゃま」
「貴様っ!この方を侮辱するならば黙ってはいないぞ!!」
叫ぶカイルを見て、最近なんだかカイルがキレやすいような気がする…とルークは内心苦笑した。
「まぁまぁカイル、落ち着けよ。守ってもらうような身分である事は確かなんだし」
「しかしっ…」
「はんっ!どうやら反論もできない屑のようだな」
「貴様ぁ!!」
「カイル!…こいつの神経逆なでるような事しないでくれないか?『鮮血のアッシュ』」
呼ばれたアッシュは目を見張り「何でてめぇが知ってる…」と呟いた。
「神託の盾騎士団特務師団長だろ?単独行動なんてしてていいのか?指示を出す立場の人間だろ、お前」
「うっせぇ、屑がっ!貴様に指図される覚えはねぇ!!」
剣を振り上げた恰好でアッシュはルークに向かって飛び下りる。
それをルークの代わりにカイルが受け止めた。
バンッ
「アッシュ!撤退だ、死霊使いが来るぞ」
リグレットはアッシュと剣を合わせていたカイルに向かって一度撃つ。
カイルは飛びのき、それを避ける。
「…死霊使いには封印術をかけたんじゃなかったのか?!」
「ラルゴが他の奴にかけようとした上、失敗した!」
「ちっ…使えねぇ」
アッシュはカイルと向き合ったまま後退し、逃亡した。
カイルは追うか追うまいか迷ったが、深追いは危険だと先程言われたばかりなので追わずにその場に留まった。
それにルークと離れるわけにはいかない。
「カイル、腕を見せろ。さっき『魔弾のリグレット』の撃った弾が掠ったろ?」
「いえ、これしき………お願いします」
断ろうとしたが、ルークの厳しい目付きに断ったら危険だと脳内で警報が鳴ったので渋々腕を出す。
「《ファーストエイド》」
第七譜術士の素質はあったようだから練習し、取得した。
生憎と回復呪文しか覚えられなかったが。
「ありがとうございます」
「おぅ!ちょっとした怪我でも後に響く事だってあるんだ、気をつけろよ」
「勿体ないお言葉にございます」
ルークとカイルがそんなやり取りをしている間、少佐たちが気絶しているアニスや兵士たちを起こす。
「おや…ここにいましたか」
「師団長!ご無事で何よりです。他に生き残った部下は…?」
訊かれたジェイドは悔しげに答える。
「半数やられました、他はあちらにいます。イオン様もルーク様もご無事なようで何よりです。お怪我はございませんか?」
「僕はルークに守ってもらいましたから」
イオンは困ったように笑った。
「…アニスに、ではなく?」
今だアニスはのびている。
それ一瞥した後、確認の意味を込めて尋ねるとイオンは曖昧に肯定した。
「導師守護役であるアニスは?」
「戦闘体勢もとらずにイオン様の隣を歩いておりました」
部下の返事の内容に流石のジェイドも呆れを隠せない。
「…ルーク様は?」
「俺はカイルに守ったから、大丈夫」
にっこり笑ってそう言うとジェイドは「そうですか」と少し安堵したようだ。
「神託の盾は撤退したようですが、残党が残っている可能性がありますので気をつけて下さい」
「あぁ。…このまま行くのか?」
「えぇ、ケセドニアまではそのつもりです。カイツールでタルタロスの整備と亡くなった兵の弔いの時間をいただいてもよろしいですか?」
「勿論。俺の方も鳩を飛ばしておくよ」
微笑みながら言われた言葉にジェイドも兵士たちも驚く。
「あの、ルーク…それは和平の取り次ぎをしていただけると言う事ですか?」
ジェイドたちの内心を代弁したかのようなイオンの言葉にルークはしっかり頷く。
控えているカイルは複雑そうな顔だ。
和平は成したいが、不敬の数々を不問にしただけでなく王への取り次ぎまでするなど寛大過ぎる。
「政治に参加してるって言っても屋敷に軟禁されてるから提案するくらいだし、王に直接会った事ないけど、それでもよければ」
「充分過ぎるくらいです。ありがとうございます」
礼を言われてルークは苦笑した。
こんなに真摯にジェイドに礼を言われたのは初めてな気がする。
「…タルタロスは動かせるのか?」
「えぇ、必要最低限のところに人を配置すれば何とか。部下たちに復旧作業をさせていますので部屋にてお待ち下さい。…少佐、案内を」
「了解しました。ルーク様、イオン様、カイル殿、ご案内いたします。…そこの兵!導師守護役を起こしておけ!!」
「はっ!」
再び中に入るとマルクト、神託の盾両軍の兵士の死体が転がっていた。
ルークはイオンの目を隠し、転ばないよう配慮しながら歩く。
貴賓室の方はイオンが不在だった為、殆ど兵は配置されていなかったので死体が見当たらなかった。
「…こちらになります。イオン様お一人では不安でしょうから扉で部屋が繋がっている部屋を選びましたが」
「俺はそれで良いよ。イオンは?」
「はい。是非ご一緒させて下さい」
「そう、良かった。カイルは?」
「異論はございません」
「そうですか。それでは、何かございましたら外にいる兵か伝声管を使ってお申し付け下さい」
少佐はそう言うと兵士を数名残して一礼してから立ち去った。
ルークたちはそれを見送った後、警戒しながら中に入り、残党がいない事を確認してから椅子の上に腰を下ろした。



-----あとがき-------------------------
次はカイツール
ガイ様出て来てねぇ
アリエッタも出て来ないし、ティアは牢屋だし、アニスは気絶中でタルタロス無事だからセントビナー寄らないし…
いや、ちゃんと考えたんですよ?
ジェイドが封印術くらってなかったら秘奥義使いまくって勝てんじゃね?とか思いまして…
ガイはきっと次出てきます

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大きな衝撃がタルタロスに走った。
少佐は近くにあった伝声管を掴み「何事だ!」と叫ぶ。
『グリフィンの群れが!今、師団長が応戦してますが、持ちこたえきれません!!』
応答した兵士の言葉にその場にいた者は驚愕する。
グリフィンは群れをなさない魔物のはずなのに、その上わざわざ戦艦を攻撃するなど今まで事例がない。
「皆様、危険ですので部屋へお戻り下さい」
「…その時間はないようだけどな」
ルークがそう呟いた直後、階段から巨体が下りてきた。
「なっ…貴様!何者だ!!どうやってここに…」
少佐の言葉に巨体の男は鼻で笑う。
「死霊使いと真っ正面からやるのは分が悪いのでな、迂回させてもらった。さぁ、導師を渡してもらおうか」
「…六神将『黒獅子のラルゴ』か…」
イオンを背に庇いながらルークは剣を抜いた。
それを見て、カイルが渋い顔をする。
「カイル、見逃せ。緊急事態だ」
「…私が突破されたらお願いします。ですからそれまで手をお出しにならないで下さい」
「わかってるよ。…イオン、アニス、動くなよ?」
イオンは頷き、カイルたちが敵の気を引いてるうちにイオンを連れて脱出しようと思っていたアニスは内心嫌々頷いた。
「…導師を渡すつもりはないようだな」
「襲撃犯に渡す馬鹿がどこにいる。貴様の相手は私がしよう」
「カイル殿!相手ならば我らがっ」
客人にあたるカイルに戦闘をさせるわけにはいかないと少佐が剣を構えながら言うがカイルは首を降る。
佐官についているのだから、それなりにやるのはわかるが、六神将相手では分が悪い。
「少佐、マルクトの面子を考えればカイルが手を出すのはマズイと思うけどさ、カイルに任せてくれないか?俺らに喧嘩売った事を後悔させてやる」
暗く笑うルークに少佐たちもラルゴの後ろに控えている神託の盾兵たちも一瞬怯える。
その沈黙を肯定と取って、カイルは剣を構えると次の瞬間皆の視界から消えた。
「なっ!?」
一瞬で目の前に現れ、振りかざされた剣にラルゴは経験からくる勘で防ぐ。
「成る程…六神将の名は伊達ではないようだな」
「貴様っ…いったい何者だ?」
一旦、距離を置いたカイルにラルゴは憎々しげに問うと、カイルは微笑を浮かべながら答えた。
「白光騎士団所属ルーク様付き護衛兼特殊部隊副隊長、カイル・ライラック」
「カイルは軍から将軍職をやるから入ってくれって頼まれるくらいの実力者だから気をつけろよ、ラルゴ♪」
にっこりと笑いながら言われた言葉(敵に気遣われるという侮辱)とその態度にラルゴはかぁーっと頭に血が上り、後ろにいた兵士の剣を抜くとカイルの後ろに向かって投げた。
それは真っ直ぐルークの顔に向かい、避ける様子のないルークに誰もが当たると思ったその時…
「見くびるなよ」
剣は宙に浮いていた…否、ルークが片手で器用にも刃先を掴んでいた。
その手から血が出てる様子もない。
「なっ…」
「白光騎士団特殊部隊隊長、ルーク・フォン・ファブレ。お見お知りを」
笑顔のままそう言うと掴んだ剣を近くにいるマルクト兵に渡す。
「ルーク様、お怪我はございませんか?」
「ないよ。カイルは心配性だなぁ」
格の違いを見せられ、その上よそ見する余裕まで見せられて、ラルゴは(建前上では)導師に使う予定だった封印術を二人の頭上に投げた。
しかしそれも飛んできたナイフのせいで方向転換され、誰もいないところで発動する。
「何っ!?」
「ルーク様、あれは…」
「ティアのナイフ。タタル渓谷抜ける時、落としたのを拾っておいたんだ♪」
ジェイドに使われるものだとばかり思っていた封印術を投げられた時は驚いたが、その存在自体は想定していた為、ラルゴが箱を取出した時点で手に持っておいたのだ。
「これで打つ手はなくなったんじゃないか?ラルゴ」
「ちっ…」
ラルゴは舌打ちすると踵を返した。
慌ててその後を後ろに控えていた神託の盾兵たちがついていく。
「待てっ!」
「深追いするな、カイル。少佐、他とは連絡取れるか?」
「…ぁ、はい、確かめてみます」
ルークに言われて、固まっていた少佐は伝声管を手に取り「聞こえるか?応答せよ!」と言うが返事は返ってこない。
「…ここにいても仕方ない。ブリッジに出るか」
「危険ですが、ここにいては状況を把握できませんからね」
「それでいいか?」
事後承諾のような形になってしまったが異論はなく、皆頷いた。
「先頭と最後尾は我々が務めます」
「頼む。イオンとアニスは俺の後ろな?」
「ルーク様は私の後ろにいて下さいね?貴方様がお強いのは重々承知しておりますが、もし傷を負いでもしたら私は…」
「わかってるって!さっきのはイオンが後ろにいたし、嘗めてるようだったからパフォーマンスも含めてやっただけだよ。ちゃんと大人しく守られてますって!」
守られる義務がある、それはルーク自身がイオンに言った言葉だ。
そしてそれは自分にも適応する事をちゃんと理解している。
「カイルさんって~少し大袈裟ですよねぇ。ルーク様ってかなり強いんだしぃそこまで心配しなくてもぉ」
今まで大人しくしていたが、頼りになる同行者に安心したアニスは「ねぇ~、ルーク様もそう思うでしょ~」とルークにベタベタし出した。
それを見てルークは本性わかっちゃってるからなぁと苦笑し、カイルは顔をしかめた。
「大袈裟なものか!もしルーク様に一つでも傷があれば襲撃された日にいた者は全て首が飛ぶ!それに私…我々白光騎士団特殊部隊はルーク様に忠誠を誓っている。我らにとって公爵であろう誰であろうとルーク様以上に大切な方はいない」
「カイル…熱演ありがとう。お前が俺に忠実なのは充分知ってるから、もう止まれ。イオンたちが呆然としてるぞ」
はっとカイルは我に返り周りを見ると、カイルの熱の篭った言葉におされた兵士たちが呆然とカイルたちを見ている。
イオンはいち早く復活すると少し羨ましそうに微笑んだ。
「ルークは慕われてるのですね」
「う~ん…まぁ、そうなんじゃないかな」
照れたように笑った後、ルークは顔を引き締めた。
「もうすぐだな」
その言葉を他の兵士たちも我に返り、何があっても対処できるように武器を手に持つ。
そしてブリッジに出た。



----あとがき--------------------------
ルークは"未来"の記憶があるから"仲間"たちが何をやっても「しょうがないなぁ」とか「こいつ、こんな性格だったよな」とか懐かしく思うだけです。
何たってスレではなく短髪ルークだもん、この話。

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