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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「えっと、何だっけ?」

「私がクビになった、ってとこです」

「あぁ、そうだった!で、そしたらどうしたの?」

光の問いに一瞬躊躇ったが、キョーコは言った。

「敦賀さんはクビになって経験なんてないでしょうから、私の気持ちなんてわからないでしょう、って生意気言っちゃったんです。そしたら、『あるよ』って言って、両手を使って数を数え始めたんです」

「え~?!敦賀さんがクビ?」

「えぇ、両手で数え切れないほど」

あの時、安心しちゃったのよね。
この人でもクビになったことがあるんだ…って。
その後のメリケンジェスチャーでイラっときたけど!

「でも、そんなにクビになってたら業界でも有名になるんじゃない?成功してるだけにさ」

「私もそう思いました。そんなにクビになってたら、日本のマスコミが放っておかないんじゃないかって。だから、米国とか海外で活動してたんじゃないかと思って指摘しちゃいましたよ」

「マジで?」

「はい。まぁ、その時もごまかされてしまったんですけど、正解してたんですね…」

「そういうことになるよなぁ…まさか、敦賀さんが、なぁ」

そう思うわよね。
演技が上手いだけに、私も信じられなかったわ…

「…あちらでも“クー・ヒズリの息子”って扱われて、比較されて、苦しかったんだと思います。監督に逆らったこともあるって聞きましたし、自分の演技をさせてもらえなくて悔しかったんじゃないでしょうか…。肩書で見られて、上手くいっても七光だと思われて、自分を見てもらえない…だから、敦賀さんは素性を隠して日本に来たんだと私は思うんです」

親から離れて、一人で日本に…。
先生の言い方のせいで亡くなってるものだと思っていたけど、実は近くにいた久遠少年。
15の時から会ってないと悲しそうに、辛そうに言っていた先生。
自分たちのせいで…と思い詰めていた。
自分たちが頑張るほど、久遠少年を追い詰めていた…と悔やんでいた。

「…親がハリウッドスターって思った以上に大変なんだね」

「そうですね。憶測でしか言えませんけど、凄く辛かったと思います。親が好きな分、余計に…」

「え、親が好きとかそういう話もしたの?」

「ふふっ、遠まわしにですけどね。クー・ヒズリとその息子さんは親ばか子ばかラブラブ親子だったに違いない!って言ったら、『そうだね』って敦賀さん、楽しそうに肯定してくれましたから」

「へぇ…でも、何でそんな話を?」

「あ、それはこの後話しますね。とりあえず、話を戻しますけど…敦賀さんが完璧なイメージがあるのって日本では最初から売れてて、これといった失敗がなかったからじゃないですか?」

「あー、うん、確かに。デビュー当初から演技も上手いし、人当たりもいいし、こけたこともないし…あ!だから、“流石はクー・ヒズリの息子”ってなるんじゃないかって京子ちゃんは言いたいんだね?」

「はい!だから、この話をさせてもらったんです。敦賀さんにだって下積み時代があって、苦労して今の地位にいるんだって思ったら親近感湧きません?」

「うん、確かに!俺たちと同じように努力して、“ココ”にいるんだって思ったら、あまり親とか気にならなくなるよね」

「「うんうん」」

乗ってくれた光たちにキョーコは笑顔で頷く。
“ハリウッドスターの息子”という雲の上から“自分たちと変わらない業界人”にまで引きずり下ろすことがキョーコの目的である。
キョーコにとっては、役者としても人としても雲の上の人だが、今回はそのイメージを壊さなければならない。
それは――自分の中の何かが変わりそうで――恐い。
けれど、これは自分の役目なのだ。
目標を失わないためにも必要なこと…そして、蓮を尊敬する自分のためにも。

――結局、私って自己本位よね…

自分が蓮を失うのが恐いからここにいるのだ。
それを思い知らされてしまった。

「で、京子ちゃん、他にも知ってるの?」

「知ってますよ~。実は以前、敦賀さんの代マネをやらせていただいたことがあるんですが…」

「え!?そうなの??」

「ほら、風邪がはやって、人手が足りなくなった時期があるじゃないですか。その時に、敦賀さんのマネージャーさんも風邪をひいてしまいまして、代わりに私が派遣されたんです」

その頃はまだ嫌いだった。
少し親近感が湧いたとはいえ、私にとっては“意地悪な人”だったから。

「スケジュールがぎっしり詰まってて、初日はついていくので精一杯でしたよ」

「そうなんだ~」

「はい。敦賀さん、一人でなんでもできちゃうし、何で私が派遣されたんだろう?って思って、主任に訊いたら、敦賀さんを食事させるためだけに派遣したって言われたんです!私にはそれしか期待してなかったんだってかなり悔しかったですよ」

それに、マネージャーという仕事を嘗めていたからすごく反省した。
謝ったら許してもらえたけど…あ、社さんにも謝っておこう。
今更だけど、思い出したら申し訳なくなっちゃったわ…

「だけど、3日目だったかな…?敦賀さんが喉を気にしてるのに気付いて、風邪の前兆じゃないかって尋ねたんです。なのに、自分は一度も風邪をひいたことがないから大丈夫だって取り合ってくれなかったんですよ!」

「…ということは、結局次の日…」

「見事に熱を出しましたね。キュララの監督に言われた『自己管理のできない奴はプロ失格』って言ったら、『君に言われるなんて』ってかな~りショック受けて落ち込まれました」

「あ。その頃はまだ仲悪かったんだ?」

「そうですね。私もその時は自業自得だわ、くらいにしか思いませんでしたし」

だって、私の忠告聞いていれば、もしかしたら風邪をこじらせずにすんだかもしれないのよ?
でも、その後に私の言うことを聞いておけばよかった…ってあっさり非を認めちゃうんだもん。
大人だなぁ…って思わずにはいられなかったわよ。

「その後の撮影が最悪なことに人工雨の中での撮影で、止めようと思ったんです。でも、自業自得だからって、熱があるのに撮影に臨んで…その後、楽屋で倒れました」

「えぇ!?それ、ホント?」

「はい。ずっと雨の中にいたせいで熱が上がって、身体も震えてて、意識もなくて…」

「…あれ?だけど、敦賀さんが仕事に穴あけたって話聞いたことないけど…」

「空けませんでしたよ。その後、意識を取り戻して、再び撮影に戻りましたから」

「ちょ…止めなかったの?!」

「止めたかったですよ…でも、目で言いくるめられてしまいました。敦賀さんはプロ意識の高い人ですし、仕事に関しては妥協しない人ですからね。その仕事に対する姿勢に憧れて、私もこうなりたいって思ったくらいです。なので、せめても…と思って、ひえぴたや氷枕を買ってきて泊まり込みで看病したり、食べやすい食事を作ったりして全力でフォローすることにしたんです」

嫌いな私がそこまでやるとは思ってなかったのか、すごく驚いてたわよねぇ、敦賀さん。
でも、私は敦賀さんのプロ根性を見てしまったから…だから、彼の無遅刻無欠席を守りたいと思ったの。

「はぁぁぁあああ?!きょきょきょきょきょ京子ちゃぁぁぁあああん!も、問題発言だよ、それ!!!!」

「え?どれですか?風邪なのに止めなかったことですか??」

「そっちじゃなくて、泊まり込みの方!看病するためとは言え、一人暮らしの独身男性の部屋に泊まるなんてっっ」

「あはは~、何言ってるんですか。敦賀さんですよ?引く手あまたなのに、私みたいなのに手を出すわけないじゃないですか~。実際、お風呂をお借りさせていただいた時に『君みたいな地味で色気もない女の子に手なんて出さないよ』って鼻で笑われましたもん」

ケラケラと笑いながらそう言うキョーコに顔を引き攣らせるブリッジロック。
キョーコだけがその重要性に気付いていなかった。
…ある意味流石である。

 

 

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キョーコにとっては問題発言じゃないんです(私の中で
だって、過去にショータローと同居してましたからね。
男性と一夜過ごす危険性に全く気付いてないと思います。

拍手[26回]

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『てんてこ舞い、です』

「てんてこ舞い~~~???」

社は無表情な蓮と画面の少女を交互に見ながら、思わず叫ぶ。
それほど少女の言葉は意外だった。

「れーんー。これってホントか?」

『京子ちゃん、それってホント?!』

社とリーダーの声が被る。
それを聞きながら、蓮は深く溜息を吐いた。
できることなら誰にも知られたくなかった…
あんな問いをしたことが全国放送で流される…なるほど、凄く恥ずかしい。
そして、社長はそれを許可したのか…イメージダウンに繋がると思うんだが…。

――いや、それ以上に問題が…

『はい。しかも、どういう意味?って聞くならまだしも、敦賀さんはこう言ったんです』


    『「てんてこ舞いってどんな舞なんだ?」』


司会者の三人が固まった。
蓮の隣にいる社も固まった。
そして、次の瞬間――

『『『「ぶふーーーーーーーーっっ」』』』

思いっきり噴き出した。

――あぁ、わかっていたさ!そういう反応をされるって!!

鶏(つまり最上さん)にも同じ反応をされたんだ。
しかも、スタジオに向かう際、何度も噴き出されたんだ。
他の人も同じような反応を示すことは予想がついてたさ!
腹を抱えて笑う三人を最上さんは申し訳なさそうな顔で見ている。
その表情は彼らに対してではなく、俺に対してなんだろう。

『私もつい笑っちゃったんですけど、疑問に思って聞いてみたんです。「日本に20年もいて一度も聞かなかったのか」って。その時はごまかされてしまいますけど、クー・ヒズリの息子さんだったのなら日本で暮らしていなかったでしょうし、納得ですよね』

『っ…きょ、京子ちゃん。いいの?そんな風に言っちゃって…。今日はクー・ヒズリの息子=敦賀蓮のイメージを払拭するために来たんでしょ?』

『そうですね。でも、私はイメージを払拭したいだけで、決してお二人の関係を否定しに来たわけじゃないですから。私が訴えたいのはクー・ヒズリの息子“だけど”敦賀蓮は敦賀蓮、ってことです』

否定したところで親子関係じゃないってことになるわけじゃないですし、と少女はあっさり言う。
その割り切り方が誰にでもできればいいのにな、と蓮は苦笑した。
皆が皆そう考えてくれたなら、蓮も生きやすかっただろうに…
隣で笑っていた社も少女の言葉に共感したのか、うんうんと頷いている。
それを横目で見た蓮は「周りに恵まれてるな…」と照れくさそうに微笑んだ。
が、実はそれどころじゃなかったことを社の言葉で思い出す。

「そういえば、キョーコちゃんがあの鶏だったんだなぁ…」

「そう、ですね」

「俺、台本読みの時は誰も近づかせない蓮と一緒にいたから、広く浅くの蓮にも友達が!って喜んだのに…ってか、お前が傍に置いてた時点気付くべきだったなぁ…」

「…俺も知りませんでしたから、気付かなくて当然ですよ」

「みたいだな。キョーコちゃん、大嫌いなんて言ったんだ…ホント、嘘のつけない子だよねぇ。…って、あ!じゃあ、お前がスランプの時にわざわざ楽屋を訪ねてきたのも偶然じゃなかったんだな!」

良かったな、キョーコちゃんに気にかけてもらえて!とにまにまと笑う社の言葉に蓮はぴしりと固まる。
すごい顔で固まった蓮に社は眉を寄せた。

「どうした?」

「……俺、あの鶏に恋愛指導されたんですよ…」

「はぁ?!」

「しかも、気になる相手が高校生で4つ下ってはっきり言ってしまいました…」

「あー…それは痛いな」

同情するような目で蓮を見る社。
本人に恋愛相談した上、全く気付いてもらえなかったのだ。
あの頃、あの少女以上に蓮と仲の良い人間は高校生どころか成人した女性にもいなかったのに…
その時点で普通なら『もしかして、私のことだったり…!?』とか思うだろう、普通なら。
しかし、普通でないのが最上キョーコである。
恋愛方面が壊死している少女はもちろん自分のことだと思うことなく、『堕とせ』だの『関係を深めたまえ』だの自分じゃない(と思い込んでる)他の女性との恋愛を推奨してきたのだ。
悪気がないとわかっているからこそ、痛すぎる…

「最上さん、そのこともあったから鶏だったことをばらさなかったんでしょうね…。最初の失言以降も結構言いたい放題でしたし。『大先輩の敦賀さんにこんなことを言ったって本人にばれたら…ひぃぃいいいい!!』って思ったんでしょう…まぁ、全部俺のためにしてくれた行動だって知ってますけど、ね」

「確かに、尊敬してる先輩に恋愛指導なんて普通はしないよなぁ…まぁ、そんだけスランプになったお前が心配だったんだろ」

あはは…と乾いた笑いを漏らす社に蓮は苦笑する。
否、苦笑しかできない。
二人は目を見合わせると、溜息を吐き、止まることなく続いている画面に再び目を向けた。

『――――で、その後、私が坊をクビになったことを話したんですよ』

『あぁ!京子ちゃん、初回で不破尚相手にやらかしちゃったもんねぇ!』

『えぇ、(あいつを陥れるために)はりきりすぎちゃいまして…』

「…何か、副音声聞こえたぞ」

「……俺もです」

『まぁ、最初の方が面白いって言われて、復帰できたけどね。ってか、京子ちゃん、よくきぐるみであそこまで動けるよねぇ~』

『体力に自信がありますから!…って、脱線してますよ、光さん』

『あ、ごめん!』

「…………名前呼び…」

「れ、蓮!あれは三人とも石橋姓だからだと思うぞ!絶対にお前の危惧してるようなことじゃないから!な?」

闇の国の蓮さんが現れそうになり、社が慌ててフォローを入れる。
蓮は納得しながらも気に食わず、「石橋光、ね」とこっそりブラックリスト入りした。

 

 


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展開遅いなぁ~
突っ込みが入るから、ですかねぇ…

拍手[22回]



「王様ゲームしない?」

『月篭り』のリメイク版『Dark Moon』が無事クランクアップし、その関係者たちは打ち上げをしていた。

『Dark Moon』の監督が『月篭り』を撮った伊達監督と親子関係であり、その事で監督である緒方がナーバスになったり、呼吸困難になったり、倒れたりと、前途多難だったり
前作の『未緒』役であった飯塚が今回の『未緒』役である京子を降ろせと言ったり、その京子が行方知らずになったと思ったら、髪型を始め、設定をガラッと変えてきたり
主演の敦賀蓮が『嘉月』をできなくなって緒方から休みを取らされ、その上、LME社長であるローリィによる演技テストで駄目だと判断された場合、『嘉月』から降ろされることになったり
それが解決して、順風満帆かと思いきや、軽井沢ではビー・グールのレイノによるストーカー事件が発生したり、バレンタインではNo.1アーティストの不破尚が現場に押しかけてきて、京子の唇を奪ったり
…と、一筋縄ではいかなかった撮影。
しかし、それを乗り越えてきた甲斐があってか、前作の『月篭り』を越えることはできないだろうと言われていた『Dark Moon』はこの世代では難しい視聴率40%越えを達成し、見事、前作の視聴率も越えることができたのである。
横文字なんて軽い感じがする、と題名の批判から始まり、敦賀蓮は保津周平には及ばない、前作を越えることはない…その評価を見事覆したのだ。

そんなわけで、素晴らしい作品を作り上げた役者とスタッフたちのテンションはありえないほど高かった。
未成年以外は酒が入り、弱い者は既に酔い潰れている。
弱くない者も普段以上にハイペースで酒を飲んでいるため、半分ほどが酔っ払いと化していた。
だからだろう…彼の一言に皆が賛同したのは……

「王様ゲーム、ですか?」

「はい。もちろん、ある程度節度を守ったお題にするって条件ですけど」

どうですかね?と貴島が緒方に尋ねる。
緒方はう~ん、と悩んだわりに、酒が入っていたためか、あっさり「いいんじゃないですか?」と許可を出した。
すると、貴島は待ってました!とばかり女性陣に声をかける。
そうすれば、女性陣目当ての男性も集まり、結構な数でゲームをすることとなった。
その中には逸美に誘われて参加することにしたキョーコと、そんなキョーコを心配して参加することにした蓮、そして巻き込まれた社の姿もあった。


「それじゃあ、紙に番号書いたから、引いてって~!」

貴島は手早く参加人数マイナス1分の番号を書いた紙と『王様』と書いた紙を1枚用意し、近くに都合良くあった袋にそれらを入れると、自分の分は取らずに隣に回した。

「あれ?貴島くんは?」

「俺は最後でいいですよ。じゃないと公平じゃありませんし…」

「そう。じゃあ、遠慮なく引かせてもらうね」

そんなやり取りを見つめていた蓮は回される袋が来るのを待ちながら、こっそりと隣にいたキョーコに話しかけた。

「ねぇ、最上さん」

「はい?…なんでしょうか?」

「王様ゲーム…ってどんな遊びなの?」

その言葉にキョーコはぎょっとしたが、敦賀さんだもんねぇ…と変な納得をして答えた。

「…私も、(ショータローのせいで友達いなかったから)やったことはないんですけど、1人王様を決めて、その王様が番号を指定して命令をするんです。例えば、『1番の人は秘密を暴露する』とか『5番の人が2番の人の肩を揉む』とか『9番の人は誰々の物まねをする』とか」

「そうなんだ…ありがとう。わかりやすかったよ」

丁寧に説明してくれたキョーコに笑顔で礼を言いながら、蓮は「もし、最上さんに変な命令をする奴がいたら…」と不安に思う。
キョーコの生真面目さをよく知っている蓮からしたら、当然の不安である。
「最上さんに当たりませんように」と願いながら、キョーコから回ってきた袋から一枚紙を引いて、隣にいる社に回した。


「皆、回ったみたいだからやるか!」

『王様、だーれだ!!』

「…私です」

スッと手の上がった方を一斉に見る。
そこには困ったような表情の大原がいた。

「大原さんか!では、ご命令をどうぞ、女王さま?」

「もう!貴島さんったら!…えっと、じゃあ、13番の人、『ねこふんじゃった』を」

「13番、誰だ~?」

遠慮がちに命令を下した大原が指名した番号の人物を探す。
「私、ちがーう」「私もー」という言葉が行き交う中、スッと手が上がった。

「私よ」

「えっ、飯塚さん?!」

いきなり大御所に当たり、顔を引き攣らせる貴島。
当てた大原の顔色も悪い。
しーんと静まり返る中、しかし、飯塚はそんな様子を気にせず、セットの方に向かうと、ピアノの前に座って『ねこふんじゃった』を弾き始めた。
蓮以上にミスマッチである。

「…これでいいのかしら?」

弾き終えると早々席に戻る飯塚。
照れているのか、頬が少し赤い。
動揺の少なかった蓮が拍手を送ると、周りもつられたように拍手をした。

「とてもお上手でしたよ」

「…『ねこふんじゃった』で誉められるって、微妙な気分だわ」

「俺なんて、全然弾けませんでしたから」

くすりと笑いながら蓮が言う。
その言葉に「確かにそうだったわね」と飯塚もくすりと笑った。

「…えっと、飯塚さん、お疲れ様でした。じゃあ、紙回収してまた配るから~!」

貴島の言葉に皆、先程の袋の中に紙を戻していき、先程の要領で袋を回す。

『王様、だーれだ!』

「……俺、ですね」

手を上げたのは蓮。
そんな蓮を見て、女性陣がきゃあきゃあ騒ぎ、男性陣は「敦賀くんの命令って予想できないなー」と呟き合う。

「えっと、そうですね……3番の方は『嘉月』、10番の方は『美月』、25番の方は『未緒』で最終話の台本のページ25~30の部分を演って下さい」

『えぇ?!』

蓮らしいといえばらしい命令だったのだが、蓮の性格を掴めていたい人たちには予想外の命令だったらしい。
キョーコは「敦賀さんらしいなぁ」と笑い、緒方は「敦賀くんは本当に役者ですね」と微笑み、逸美は「流石は敦賀さん!」と蓮を尊敬する。

「ちょっ、蓮!俺、役者じゃないんだけど!!しかも、『未緒』ってお前鬼かっ!」

「あ、社さんが25番だったんですね」

「そんな、のほほんと言わないでくれ!俺にあの恐ろしい『未緒』が出来るはずないだろっ」

「……社さん、それ、どういう意味ですか?」

絶対無理!と訴える社をじとーっと見つめるキョーコ。
社の言い方だと、役を演じることより『未緒』を演じるという点に抵抗があるように聞こえたからだ。
そんなキョーコの問いに、社はビクッと身体を震わせ、言葉に詰まる。

「社さん。別に俺はあの悪鬼のような『未緒』を再現しろなんて言ってませんよ?」

「敦賀さん、ひどーい!!確かに私の『未緒』は悪鬼かもしれないけど……」

むっとするキョーコの頭を「ごめん、ごめん」と言いながら、ぽんぽんと叩く蓮。
「お前、ただそのやり取りがやりたかっただけだろ…」と社は呆れたように蓮を見た。

「えっと、あとは誰かな?」

「あ、私が『美月』です」

「私が『嘉月』ですけど…」

手を上げたのは女性スタッフの一人と、逸美である。
逸美は「『嘉月』を表現するなんて…」と難しい顔だ。
役者として蓮に負けたくない気持ちはあるものの、蓮の演じた『嘉月』以上のものは自分にはまだ演じられないと知っているからだ。
それでも、唯一の役者として初心者二人を引っ張り、何とかノルマを熟したのであった。

「ふぅ…ホント、役者って凄いなぁ…。俺には無理だよ」

「そうですか?台詞を噛んだりしませんでしたし、結構向いてるかもしれませんよ」

「いいや、俺には裏方が向いてるって改めて思ったよ。それに、俺じゃなきゃ、誰がお前のマネージメントをするんだ?」

「くすくす…そうですね。これからも頼りにしてますよ、社さん」

そんなやり取りをする二人を「良い男が二人じゃれあってる~!目の保養だわっ」と見ていた女性陣が騒ぐ。
隣にいるキョーコも「仲良いなぁ~」と思わず微笑んだ。


『王様、だーれだ!』

「おっ!やった、俺だ!」

そう言ってガッツポーズを取ったのは、発案者である貴島。
ノリの良い人物が王様を当てたことに、皆息を飲んで指令を待つ。

「じゃあ…1番と20番が…」

「ぁっ」

番号に反応した小さな声に、貴島はにたぁっと笑った。

「駄目じゃないか、京子ちゃん。それじゃあ、バレバレだよ」

「うぅっ…」

隠し事が苦手なキョーコは困った表情で唸る。
そんなキョーコに貴島は笑顔で告げた。

「そうだなぁ、京子ちゃんなら…『Prisoner』のプロモの恰好をしてほしいな」

「えっ?!そんなの無理ですよ!衣装だってありませんし…」


「衣装ならあるぞ!!」


パァンッ
部屋のドアを勢いよく開けて派手に登場したのは、LME社長のローリィである。
あのローリィが自分も関わったDMの打ち上げに来ないわけがないと思ってはいたが、何もこのタイミングじゃなくても…と蓮は内心頭を抱える。
他の者は登場も衣装も派手なローリィの姿に口を空けて、ぽかーん…としている。
その中で(元から呆気に取られていなかった蓮と社を除くと)最初に我に返ったのはLME所属で多少慣れているキョーコであった。

「あ、あの、社長!衣装があるって…」

「最上くんの天使があまりにも良い出来だったのでな、マリアが生で見たいというから衣装一式買い取ってあったんだ!」

「え…………」

「ということは、生で見れるんですね!ナイスです、社長さん!!」

ラッキー!と笑う貴島に、社長は「もっと誉めてくれたまえ」とばかりの笑顔だ。
蓮は「余計なことを」と忌ま忌ましげに呟き、隣にいる社を青ざめさせた。

「本当ですか?僕も見てみたかったんです。春樹に本当に天使みたいだったわと自慢されて、気になっていたものですから…」

「あ、そういえば緒方監督はそのPVを見て、キョーコちゃんに『未緒』役を持ってきたんでしたよね?」

「はい。あの悪魔よりも邪悪にして、闇よりも闇色のオーラを持った天使を見て、やっと見つけた…僕の未緒…!!と感動して京子さんに話を持っていったんです」

社の言葉を肯定した緒方に、そんないきさつがあったのか…と一同は驚く。
監督が直接オファーしたという噂があり、事務所の力か…と最初は風当たりが強かったキョーコ。
キョーコが『月篭り』を越える『未緒』を演じたことで弱まったものの、それでも歳の近い女性などからのやっかみは耐えなかった…それに関しては役についてではなく蓮と仲良いことに関係するが。

「ってことだ、最上くん」

「…はい」

嫌そうに立ち上がるキョーコの隣で手が上がる。

「ん?敦賀くん、どうしたの?」

「…俺、1番なんだけど」

「ぇ、そうなんだ…う~ん、じゃあ、京子ちゃんに合わせて悪魔みたいな恰好……ってあります、社長さん?」

「俺を誰だと思ってるんだ!あるに決まってるだろう!!」

『あるんだ…』

愚問だなと笑うローリィに一同は呆れ半分感心半分で呟いた。
蓮はそういうことなら…と立ち上がり、「行こうか、最上さん」と成り行きを見守っていたキョーコに声をかける。
そんな蓮を「こいつ、こういう展開になるように計算してたな」と呆れた目で社が見つめ、「素直で結構!」とローリィがにたぁといやらしい笑みを浮かべた。

「お前たちが抜ける間は俺とこいつが入ろう」

「よろしくお願いします」

メイクと着替えのために一端抜ける二人にそう言って、どかっと蓮が座っていた席に座るローリィと、「お前も座れ」と言われてさっと座る執事。
一同は「この人が入るの?!」と恐怖に怯えた。


『王様、だーれだ!』

「俺だ!」

名乗り出たのは、ローリィ。
参加して早々王様を引き当てたローリィに一同の顔は引き攣る。

「まさか、くじに細工なんて…」

「するわけないだろう。俺はカンと運の良さで生きてきた人間だからな!」

当たって当たり前だ!と主張するローリィに執事が隣で頷く。
恐ろしい人だ……と一同は震えながらローリィを見た。

――早く帰ってきて!京子ちゃん、敦賀くんっ――

皆の心が一つになった瞬間だった。



数十分が経ち、次は誰が指名されるのかとビクビクしている一同。
王様が誰になるかなんてこの数回で嫌というほどわかりきっているため、誰もが命令される内容ばかり気にしていた。

「あれ?皆さん、どうしたんですか?」

ガチャッ
ドアが開く音と共に降ってきた声に、天の助けだ…と一同は縋るようにそちらを見た。
――そこには正しく"天使"がいた。
この世のモノとは思えないほど美しい、清楚な天使…
誰もが現れた天使に見惚れ、目を離せない。
その中には不破尚のプロモを見たことがある者はもちろん、ローリィや顔もCGじゃないかと噂していた『美月』の友人の『良子』役の女優の姿もあった。

「あの…?」

「最上さん、どうしたの?」

その後ろから現れた男に一同は更に目を見張る。
そこには黒髪長髪の美麗な悪魔がいた。
前にいる天使にも引けを取らないほど美しく、魅惑的な悪魔。
そのテノールの美声で甘く囁かれたら、たちまち誰でも堕ちるだろう…
男も女も現れた天使と悪魔に目を奪われ、微動だにしない。
そんな中、最初に動いたのはやはりローリィであった。

「お前ら、人間か?」

「ちょ、社長!酷いですよっ」

「人間以外の生物だった記憶は生憎とありませんが」

怒る天使と苦笑する悪魔。
動くことすら憚れた空気が一変し、元の空気に戻っていく。

「京子ちゃん、綺麗!本当に天使みたいだわ!」

「あ、ありがとうございます、百瀬さん」

「敦賀くん、すっごく綺麗だわ…撮影の時も色っぽいと思ったけど、悪魔の敦賀くんは演じてなくても色っぽいわね!」

「だから、俺男ですって」

きゃーきゃーわいわい言いながら二人の周りに集まってくる人々。
俺、京子ちゃんみたいなお迎えだったら、天に召されてもいい…
私、敦賀くんみたいな悪魔だったら、魂でも命でも何でもあげちゃう!
そんな事を言いながら騒ぐ男女。
写メもカシャカシャ撮られ、その場は混沌と化した。
そんな中、ローリィが困っている二人をじっと見て、うんと納得するように頷く。

「野郎ども!準備だ!!」

その掛け声に、どこから現れたのか、いつもローリィと行動しているダンサーたちがどばっと部屋の中に入って来たかと思うと、その場にセットを作ってしまった。
呆気に取られる一同を無視して、ローリィは二人を呼ぶ。
二人は嫌な予感がしながらも、逆らえずに従った。

「…なんでしょうか?」

「写真撮影するぞ!」

「…記念撮影、ではなく?」

「写真撮影だ!ポストカードにしたり、クリアファイルにしたり、キーホルダーにしたら売れるだろうからな」

いっそ、写真集でも…とぶつぶつ呟くローリィに二人の顔が引き攣る。

「(敦賀さんとセットで写るなんて、日本中の女性を敵に回すようなものじゃない!まだ死にたくないわぁぁぁああ!!)」

「(冗談じゃない!今はまだ不破の曲を買った奴しか見てないけど、そんなことになったら、世間の目にこの最上さんが曝されて…っ!この娘の魅力は俺だけが知ってればいいんだっ…――)」

キョーコは内心泣き叫び、蓮は彼氏でもないのに独占欲をたぎらせる。
そんな蓮の内心を察した社とローリィは生暖かい目で蓮を見ながら、「そんなこと思う前に、まずは告白しろ」と小声でつっこんだ。

「あああのっ!この衣装はアイツのプロモで使ったやつですし、販売目的で撮るのは流石に…」

「あ、そのことでしたら僕に任せて下さい。僕の方から春樹に頼んでみます。相乗効果で不破くんのCDも売れるでしょうし、大丈夫だと思いますよ」

「そうか!緒方くん、頼んだぞ!!」

「はい。その代わりと言ってはなんですが…」

「もちろん、出来上がった製品は全ての種類を君と麻生春樹くん、と言ったかな?彼女の分も用意しよう!」

「お願いします」

嬉しそうに笑う緒方に、蓮とキョーコは「余計なことをっ」と拳を握る。
人畜無害と認識していた二人だったが、その評価を改めたのだった。

「…社長。プロデューサから許可が出ても不破くんからは出ないのでは?彼は俺のことを嫌っているようですし…」

「事務所に許可を貰うから大丈夫だ。彼も事務所には逆らえんだろう」

実はそちらの方は既に根回し済みだったりする。
マリアの希望で天使の衣装を買い取った時から計画していたことだからだ。
セットで写るのが尚ではなく蓮なのは、ローリィなりの優しさなのだが、蓮からしてみればそれなら撮らないでほしいというのが本音だ。

「よし!もう異論はないな?」

「「……………………………はい」」

これ以上何を言っても無駄だと悟った二人は大人しく頷いた。
着々とセットが組まれていくのを遠い目で見る二人。

「…最上さん、災難だったね」

「あはは…私、無事に日の目を見れるでしょうか?私のような色気も胸もない地味なジャリタレが敦賀さんとツーショットなんて恐ろしくてたまらないんですが…」

「そんなに自分を卑下しちゃダメだよ」

「はぁ。…まぁ、仕事だと割り切るしかないですよね」

「そうだね…」

ローテンションな二人とは逆に周りはハイになって二人をぱしゃぱしゃケータイやデジカメで撮っている。
絵になる二人を見ながら、「クーにも送ってやろう」とローリィはにたりと笑った。
もちろん純粋な親切心などではない。
喜ぶだろうが、直接見れなかったことを悔しがることを予想しての判断だ。

「あ、そういえば」

「なんですか?」

「よく似合ってるよ、最上さん。とても綺麗だ。本物の天使かと思ったよ」

「…ありがとうございます。こういう衣装はなかなか着れないので、また着れたことに関しては嬉しいです!あ、敦賀さんもよくお似合いですよ(こんな衣装を着こなすなんて流石は敦賀さんよね。大魔王が降臨したらもっと似合うかも)。すごく素敵です!」

誉めたら誉め返されて、思わず照れる蓮。
何故か無表情になった蓮に、キョーコは「私が大魔王って思ってたのがばれたのかしら?」と普段よく心を見透かしているような発言をする蓮を思い少し不安になった。

「敦賀さん…?」

「いや…その、ありがとう。そう思ってもらえて嬉しいよ」

「は、はいっ(なんで悪魔の恰好なのに神々スマイルぅぅぅうう?!)」

シュ~っと音を立てて怨キョたちが浄化されていくのを感じながら、キョーコは「立場逆の方が良かったんじゃないかしら?」と思った。



その後、王様ゲームそっちのけで撮影が行われ、二人は嫌だったが仕事だと割り切り、自分の中にあるイメージとその場の雰囲気に合わせて悪魔と天使を演じた。
ドラマやCMの撮影とは全然異なるため、初めてのキョーコは少し緊張したが、瑠璃子との演技対決で初めてカメラの前に立ったにも関わらず演技してみせたキョーコである、そこは何とか無難に乗り越えたのだった。

そうして撮られた写真はローリィの前言の通り商品化され、異様なまでの収益を叩きだした。
単体のものもあったが、特に売れたのはツーショットで、尚と美森の組み合わせとはまた違う大人な雰囲気に、その写真を見た者は誰もが足を止めてその写真に見入ったほどだ。
緒方の予想通り、相乗効果で尚のCDを買う人間も増え、尚は素直に喜べず、苦虫を噛み潰したような顔をしたらしい。
また、グッズ一式をクーに送ったローリィは、クーとジュリエナから予想以上の反応が得られたことに満足し、「次は逆の恰好をさせてみるか…」と思案し始め、蓮とキョーコは悪寒を感じてそれから数日間、何かを警戒するかのように気を張り巡らせていたとか。





―――――――――――――――――――
消化不良…(またか
とりあえず、蓮とキョーコちゃんに悪魔と天使の恰好をしてほしかっただけです。

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「ここが今日から敦賀くんも暮らすことになるマンションよ。実家や社長の家よりかなり狭いけど、我慢してね」

この後は仕事はないというキョーコの車で連れてこられたのは億ションと呼ばれるようなマンションで。
確かにヒズリ家や社長宅より狭いが、アメリカの一軒家は基本的に広いものだし、一芸能人と芸能事務所社長の家を比べるほど蓮は箱入りではない。
それに、日本では都内に家を建てるのは難しく、マンションを借りるのさえ他の何倍もかかると知っていたため、都内でこんな大きいマンションの最上階をワンフロア借りるということがどれほど凄いことか、蓮は知っていた。

「(三人で借りてるって聞いたけど…それでも凄い…)」

蓮と4つしか違わないのに、それほどの収入を得ているキョーコに思わず嫉妬する。
そんな蓮の感情の揺れに気付いたのか、マンションを見上げたまま動かない蓮にキョーコは困ったように笑った。

「私の場合、臨時収入もあるからこんなところに住めてるのよ?」

「臨時収入?」

「料理の本とか、衣服の本とか、簡単な人形の作り方の本とか…結構いろいろ本を出しているの。そっちからの収入も結構あるから…」

「…多才ですね」

演技一筋で生きてきた蓮にとってキョーコの言葉はフォローというよりトドメだ。
キョーコにそのつもりはなくとも、演技だけが人生を占めている蓮よりも、いろんなことに手を伸ばしているキョーコの方が演技力まで上だなんて…と悔しくなる。
更に顔が険しくなった蓮に逆効果だったと気付いたキョーコは苦笑した。

「他人はそう言うけど、私の親友は器用貧乏だって言うわよ?」

「器用貧乏?」

「何でも一通りできるけど、そのせいで一つのことを徹底してできないって意味。私が1番やりたいのは演技なのに、料理のレシピや服の型紙なんて作るために時間を削られて演技の勉強に費やす時間が最近ないの。演技のことを疎かにしてるつもりはないんだけどね…」

受け持っているレギュラー番組からの依頼だったため断れなかったのだとキョーコは言う。
その言葉に、多才でも、その才能が本人にとって必ずしもプラスではないのだと蓮は悟った。
同時に、キョーコを嫉んだ自分を恥じる。
才能があるからといっても磨かなければ光らない。
キョーコに演技力があるのはその才能を磨き続けているからだと知っているからだ。

「……すみません」

「いいの。私もこんなマンションのワンフロアだなんてまだまだ早いと思うもの。だけど、事務所の方に勧められてね…それまではバイト先に下宿させてもらってたんだけど…」

「は?バイト先?」

信じられない言葉が飛び出してきて蓮は唖然とする。

「バイトって…京子さん、デビューしてからもバイトしてたんですか?!」

「当たり前じゃない。デビュー当時は事務所のバックアップもなかったし、そんなに売れてなかったから時期はあったし、俳優養成所に通いながら活動してたからお金が必要だったからね。でも、顔が売れ始めてからはカウンター内だけだったけど」

「仕送りとか…」

「…親と仲が良くないから、生活費は自分で稼いでいたわ」

当然のことだと言うキョーコに蓮は自分の甘さを知る。
自分が演技だけに集中できたのは偏に親のバックアップがあったからだ。
住む環境も、食べる物も、演技にかける費用も、全て親が用意していたもので、蓮はそれに甘えて自分のやりたいことだけをやってきた。
日本に来てからもローリィに頼り切りで、自分から演技以外のことをしようとしたことはない。
そんな自分がキョーコの多才さに嫉妬するなんてお門違いだと蓮は思った。

「敦賀くん…?」

「俺、恵まれてるのに、そんな自分に気付いてませんでした…」

「…敦賀くんには敦賀くんの苦しみがあるでしょ?環境に恵まれてるからって、それが本人にとって幸せかというのは別だわ」

キョーコはそう言って微笑むと、「行きましょう?」と蓮の手を握って歩き出す。
マンションの前でずっと立ち話をしていたことに気付いた蓮は配慮が足りなかったことを後悔しながら、おとなしく手を引かれた。



「ちょっと、キョーコ!遅いわよ!」

部屋の中に入るなり聞こえきた声に蓮は驚く。
しかしキョーコは予想していたのか、笑顔で「ごめん、モー子さぁん!」と告げた。

「まったく、もぉー!あんたが新しい同居人を連れてくるって言うから予定を空けておいたのよ?」

「まぁまぁ、奏江さん。キョーコちゃんは同居人が増えるかもしれないから、都合がつけば空けておいてほしいって言っただけだし、予定の時間より早いよ?」

奏江さんがキョーコちゃんに早く会いたかったのはわかるけど、と男性が呟く。
その言葉にかぁぁあっと女性の顔が赤くなったため、男性の言葉が事実なのだと蓮は知った。

「驚かせてごめんね。"敦賀蓮"くん、だよね?」

「あ、はい」

「俺は彼女のマネージャーの社倖一で、彼女は…」

「知ってます。女優の琴南奏江さん、ですよね?」

LMEが誇る2大女優(片方はタレントだと先程知ったが)の片割れ。
彼女の評価もキョーコ同様アメリカでも高い。
キョーコと琴南が共演した映画を蓮は見たことがあるが、お互いがお互いの力を引き出し合っていて、素晴らしい作品になっていた。
インタビューで二人はライバルで親友だと言っていたが、まさか同居していたなんて思いもしなかった蓮である…まぁ、それが普通だが。

「えぇ。貴方のことはキョーコと社長から聞いてるわ。演技の勉強をするためにアメリカに留学してたんですってね。そのせいで日本語が怪しいところがあるって聞いたけど、日常会話は平気なの?」

「はい、それなりに…」

そういう設定になっているのかと思いながら蓮は頷く。
先に教えておいてほしいものだ。

「あ、あの…」

「なぁに?」

「3人で同居していると聞いたのですが、京子さんのマネージャーは…?」

その言葉に琴南と社はきょとんとする。
そんな反応をされると思っていなかった蓮は何か見当違いなことでも聞いてしまったのかと焦ったが、琴南はそんな蓮ではなく隣のキョーコを呆れた顔で見た。

「あんた、ラブミー部のこと話してないわけ?」

「うん、忘れてた…」

「もぅ!仕方ない子ね!」

はぁ、と溜息を吐くと琴南は蓮と向き合った。

「この子がラブミー部に所属してるのは聞いてる?」

「いえ…あの、ラブミー部って…?」

「私も昔はそこに所属してたんだけどね、愛を取り戻すために立ち上げられたセクションなの。この子はそのセクションの第一号。私もこの子もオーディションで落とされたんだけど、ラブミー部で愛ある奉仕を行えば、LMEのバックアップありでデビューさせてもらえることになったのよ」

そう言えば、先程キョーコが事務所のバックアップがなかったと言っていたことを思い出す。
そちらよりバイトの方が気になって聞き流してしまっていた。

「でも、私もこの子もCMのオーディション受けてバックアップなしでデビューしちゃったものだから、マネージャーなしで活動することになったの。で、私はめでたくラブミー部卒業してマネージャーを付けてもらったんだけど、この子はまだラブミー部だからマネージャーがいないのよ」

だから、京子のマネージャーはここにはいないの。
そう言った琴南に蓮はいない理由はわかったものの、納得できずに眉を寄せる。

「…何で京子さんはまだラブミー部に?」

「えっと…」

「この子、卒業していいって太鼓判もらったのに卒業しなかったのよ」

「え?」

「自分はまだ愛がわからないから、卒業資格がないって」

愛が、わからない…?
ドラマでも、映画でも、違和感なく恋愛をしていたのに…?
蓮はよくわからず、キョーコをじっと見つめる。
キョーコはばつの悪そうな顔をして頬を掻いた。

「演技はできるのよ、この子。だけど、実際の恋愛は全く無理。どんなにアプローチされても総スルーよ」

「ちょっ、モー子さん!私、アプローチなんてされて…」

「ないわけないでしょ!デビュー当時ならまだともかく、垢抜けて綺麗になったアンタを男共が放っておくわけないでしょ!まったく…アンタ、何で演技なら向けられる恋情に気付けるのに、素だとわからないのよ…」

「だって、私を好きだなんてそんなことあるわけないもの…」

そんなキョーコに蓮は唖然とする。
キョーコのデビュー作(『Dark Moon』は父が出ていた『月篭り』のリメイク版だったから見ていた)から知っているが、4年前よりずっと綺麗だ。
当時はちょっと可愛い女の子、だったのが、今では蛹から羽化した蝶のように美しい女性になった。
今だって、ナチュラルメイクなのにどんな女優やモデルよりも輝いて見える。
事務所の中から駐車場に移動する短い距離で、どれだけの人が足を止めて彼女に見惚れていたことかっ…!
隣を歩く蓮に嫉妬の眼差しを送った男は一人や二人ではない。

「京子さん、自覚ないんですか……?」

「ふへ?」

「確か、以前見た雑誌にお嫁さんにしたい女芸能人ランキングNo.1って載ってましたし、彼女にしたいランキングもNo.2だったのに…」

「それはたまたまよ」

「でも、京子さん、すっごく綺麗で優しいですし、演技力もあって、かなり魅力的な女性だと思いますけど」

「ほら!今日会ったばかりの敦賀くんにも言われちゃったわよ?いい加減、自分を卑下する癖はやめなさい。アンタに自覚がなくても、今売れてる芸能人って言ったら真っ先にアンタの名前が出てくるくらいアンタは芸能人としても女としても魅力的なんだから!謙遜も過ぎると厭味よ?」

琴南にそう言われ、しょぼんと落ち込むキョーコ。
本気で自覚がないことを知っている琴南と社は、俯くキョーコを見ながら、そうなる原因となった某ミュージシャンを恨んだ。

「まったく………まぁ、いいわ。騒がしくしてごめんなさいね、敦賀くん」

「あ、いえ…」

「キョーコ。とりあえず、顔合わせはしたんだし、後は明日でいいでしょ?」

「あ、うん!はい、敦賀くん」

琴南に促されて、キョーコは慌てて鞄に入れていたカードキーを蓮に渡す。
同じようなキーを2枚貰った蓮は、怪訝そうにキョーコを見た。

「あの…」

「こっちのカードが敦賀くんが使う部屋の鍵。私の部屋の隣だから、何かあったら遠慮しないで内線で連絡してから来てね!それから、こっちのカードがこの部屋の鍵。この部屋は共同リビングにしてるの。基本的に時間が合う時はここで食事したり、演技の話をしたりしてるわ。あ!そういえば敦賀くんはもうご飯食べた?」

「いえ…でも、あまりお腹がすいてな…」

「ダメよ、食べなきゃ!特に敦賀くんは成長期なんだから!!モー子さんと社さんは?」

「アンタが帰ってくるって聞いてたから食べてないわ。外で食べるより安上がりだし、カロリー考えてくれるし、アンタの料理の方が美味しいからね」

「そうそう!キョーコちゃんの料理が食べれるのに外で食べてくるわけないじゃないか!最近、朝は一緒だけど、夜はかちあわなくてキョーコちゃんの夕飯はご無沙汰だからね。すっごく楽しみだよ!」

いらないと言う蓮に反論の余地を残さずその意見を却下し、琴南と社の言葉で笑顔になったキョーコは「今日はビーフシチューです!昨日からじっくり煮込んであるんですよ~」とニコニコしながらキッチンに去っていった。
食事に良い思い出がない蓮は渋い顔をしてそれを見送る。
そんな蓮の肩をぽんっと社が叩いた。

「安心しなよ、敦賀くん。キョーコちゃんの料理はすっごく美味しいから!以前、料理コーナーで苦手なものを騙して食べさせるコーナーを受け持ってたんだけど、一度もばれずに食べさせたくらい凄いんだよ」

「はぁ」

「奏江さんも外ではあんまり食べないけど、キョーコちゃんの料理だけは沢山食べるし!」

キョーコちゃんの料理に慣れたら、他のじゃ満足できなくなるよ~!とベタ褒めする社に蓮は「はぁ」と気のない返事をする。
料理といえば、母の殺人料……万人受けしない料理をノルマ分口に詰め込まれた思い出と、50人前くらいをぺろりと腹に収めてしまう(ただし、母の料理は人並み分しか食べない)父の姿が思い浮かぶ。
その印象が強すぎて、美味しいと言われる日本料理もあまり食べられないのだ。

しかし、食べれないと思っていたにも関わらず、キョーコの料理を一口食べた途端、そう思っていたことも忘れて、今まで感じたことのない空腹感を感じ、ぱくぱくと用意されたビーフシチューとサラダを食べ切った。
それどころか、人生初のおかわりまでしてしまった蓮である。
ほれ見たことか、とにんまり笑う社の視線を感じながら、蓮は無理矢理ではなく初めて自主的に用意された食事を完食したのであった。

「(料理の本を出してほしいって言われるわけだよな…)」

こんなに美味しいなら、プロデューサも必死で本を出してほしいと頼み込むに違いないと思いながら蓮は笑顔で「ご馳走様です」と呟いた。





―――――――――――――――――――
あら…続いてしまったわ。
何となくで続いてしまったので、続きを書くかは未定…ってか、完結するか未定。
くっつくのかなぁ、この蓮とキョーコ…

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――嫌われて、軽蔑されることになっても、これが私にできることだから…

キョーコはぎゅっと拳を握ると、覚悟を決めて話し出した。


「私が演技するきっかけになったのは敦賀さんなんです」

「そうなんだ。あれ?でも、嫌ってたって言ってなかった?」

「えぇ、嫌ってたからこそ、です。演技する理由は違いますけど、演技をしようと思った理由は敦賀さんを演技でオロオロさせたいからだったんですよ」

「オロオロって…京子ちゃん、勇気あるというか無謀というか…」

「えぇ、そうですね。そんな理由で演技をしようと思ったなんて!と敦賀さんに怒られてしまうかもしれませんけど、あの時私は本気でそう思ったんです」

キョーコは苦笑しながらそう呟く。
蓮の“本気”を目の当たりにして、引きずられた。
自分がいない間に役を勝ち取った瑠璃子ではなく、自分を遠隔操作して蓮に対して悔しさを抱いた。

――私は演技をさせてもらえなかった…

新開監督に演技を褒められても全く嬉しくなかった。
それどころか悔しくて悔しくて…だって、誘導されて上手く見えたって私の実力じゃないもの。
だから、私の力で演技したいと…彼の本気に引きずられないだけの演技力を身につけたいと思った。

「あの人は仕事に関してはとても厳しい人で、仕事に真剣な人には本気で相手をしてくれる人です。そして、相手の演技もホンモノにしてしまう役者で…まだ役者を目指す前に一度だけ演技をさせてもらったことがあるんですけど、その時、私は演技をさせてもらえなかったんです。敦賀さんの演技に本気で驚いて、素で反応してしまった…。それがすっごく悔しかったんです!」

「えっと…演技のことはよくわからないけど、それが悔しくて見返してやろうって思ったの?」

「それに近いですね。それから何度かばったり会ったりしたんですけど…ある日、この番組に初めて出させていただいた時、人気のないところで座り込んでる敦賀さんに出会ったんです」

「え!ちょ…京子ちゃん!言っちゃっていいの?今までずっと黙ってたのに…」

「この話をするためには明かさないといけませんからね。今まで黙っていてすみませんでした。“坊”は私です。敦賀さんには鶏のきぐるみって言った方がわかりやすいかしら…?それとも『やぁ、敦賀くん。またしけた顔をしてるね』の方がわかりやすいですか?」

蓮を相手にする時だけ使っていた声音で話すと、光たちは「そんな声も出せるんだ」と驚いた。
ずっと番組ではホワイトボードで話していたからだろう。
キョーコは困ったような顔で頷いた。

「でもさ、ばらしてよかったの?ずっとエンドロールに名前のせるの嫌がってたのに…」

「嫌だった理由は敦賀さん(とあのバカ)に坊が私だってばれたくなかったからなのでいいんです」

「何で知られたくなかったの??」

「実は、坊の格好の時、敦賀さんの図星をついて怒らせて『ごめんなさい、大嫌いなのでいじわる言っただけですー』って言っちゃったんですよ」

「うわっ!本人に『大嫌い』って言ったの?それなら確かに明かしたくないよなぁ…」

「そうなんですよねぇ…まぁ、でも『面と向かって大嫌いって言われたの初めてだ』って笑って許してくれたんですよ」

「おぉ~!おっとなぁ~~!!」

「そう思いますよね!謝ってくれたから許すって言われて、凄く大人だなぁって感心しちゃったんですよ。私だったら無理だなぁって。だから、何か悩んでるようだったので、力になるから教えてくれって頼みこんじゃいました」

その内容がアレだもんなぁ…
思いだしただけで笑えるわ…と、笑ってられないんだった。
秘密にするからって言って教えてもらったのに、全国放送でばらすんだもの。
次に会った時は大魔王か…存在抹消されてるかもしれないわね。

「え?敦賀さん、何か悩んでたの?」

「えぇ、台本のことで悩んでたみたいなんです」

「台本?」

「はい。急に台本が変更になったらしくて、その中のある単語がわからなかったらしいんです」

「へぇ…わかんない単語って?」

 

「てんてこ舞い、です」

 

 

 

 


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言っちゃった…

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2a03c42e.png
色までつける絵を描くのは久しぶりです…
カインとセツ…やっぱ、女の子描くのは苦手だなぁと実感しました。
ってか、今更気付いたけど、蓮とキョーコちゃんはまだ描いたことない!!
描きたいなぁ…そのうち描くか。
でも、マンガとか思いつかないんですよねぇ…
カインとセツならまだ本編読んでないし、イメージ膨らますのも難しくないんですけど、蓮とキョーコちゃん……ただただ蓮が哀れになりそうです(笑

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ブルブルブルブル

「お、蓮!ケータイ鳴ってるぞ!」

テーブルの上に置いてあった蓮のケータイが震え出したことに気付いた社がTVをじっと見つめていた蓮にそう言う。
蓮は礼を言うと、ケータイを開く。
“社長”の文字に蓮は眉を顰めると、通話ボタンを押した。

「…もしもし」

『お、蓮か?』

「そうですけど、どうかしたんですか?今日は仕事にならないから一日待機って言ったの社長ですよ?」

『もちろん、そのまま待機だ。お前のマンションも張られてるからな』

「じゃあ…」

『チャンネルを“きまぐれロック”に合わせろ』

「は?」

『どうせニュースチャンネルに合わせてあるんだろ?だから、チャンネルを変えろ。今から緊急生放送をやる』

その言葉に蓮は目を細める。
今日のところは事務所からは特にコメントは出さないと聞いていたのだが、何かあったのだろうか。

『いいな?絶対に見ろよ』

「ちょ…社長!!」

言いたいことだけ言って通話を切ったローリィに蓮は深く溜息を吐いた。

「社長、なんだって?」

「…よくわかりません。ただ、緊急生放送をするから“きまぐれロック”にチャンネルを合わせろとだけ…」

「“きまぐれロック”?」

「社さん、知ってるんですか?」

ドラマや映画といった演技に関わるもの以外には興味のない蓮は、それがどういった番組なのかわからず、反応を示した社にそう尋ねる。
すると、社は呆れたように蓮を見た。

「うちのタレントが持ってる番組だよ。“ブリッジロック”っていう三人組で、人気のあるタレントなんだぞ!それくらい知っとけ」

「すみません…」

「まぁ、いいけどさ。生番になったのはお前が理由だろうけど…」

「いったい何をするつもりなんでしょうか?」

「俺が知るか!とりあえず、見るしかないだろ」

社はそう言うとチャンネルを“きまぐれロック”に合わせる。
ちょうど始まるところだったらしく、まだ司会者の三人しかいなかった。

『はい。本日は予定を変更して、緊急生放送となりました!』

『ゲストの○○さんを楽しみにしていた皆さん、すみまへん』

『しかぁし!生放送になったというところでお気づきになられた方もいらっしゃるでしょう!今日の話題は“敦賀蓮”さんです!!』

『本人に来てもらうわけにはいかなかったので、今日は“敦賀蓮”を語ってもらうために、彼女に来てもらいました!!』

『『『我らが後輩の、京子さんです!!!』』』

紹介と共に画面の中に現れた少女に二人は目を見開く。
朝のニュースを見ていた二人は、もしかしたら…と予感はしていたものの、実際そうなってみると、やはり驚いてしまう。
今朝とは違い、可愛らしい笑顔で現れた少女は、リーダーに勧められるがままに椅子に座った。

『こんにちは、京子ちゃん。今朝はびっくりしたよ』

『こんにちは。びっくりさせてすみません。独断だったので、お咎めをいただいちゃいました』

『あはは、勇気あるよねぇ~。因みに、お咎めってこの番組に出ることだよね?』

『はい。今日は敦賀さんに怒られたり嫌われたりするのを覚悟で、敦賀さんのあれやこれを暴露させていただきに来ました』

『え~?あの敦賀さんが怒ったり嫌ったりって想像できへんなぁ…』

『怒るとすっごく恐いんですよ。私、四回ほど大魔王を拝みましたもん』

そう言うと少女はその時のことを思い出したのか、蒼白になってガタガタを震える。
そんな少女の様子に司会者の、特にリーダーが心配そうに少女を見つめ、そしてそれほど恐ろしいのか…と認識を変えたようだった。

「るぇぇぇん?お前、そんなにキョーコちゃんの前で怒ったのか?二回は居合わせたけどさぁ、更に二回もマジギレしてるとは思わなかったよ。しかし、大魔王か…キョーコちゃんも言うねぇ」

からかい顔になった社にむっとしながらも、蓮は少し落ち込む。
あれほど怯えられてるなんて…と。
しかし、少女の言う四回のうちの1つがわからない。
1つ目は芸能界に入る理由を聞いた時、2つ目は不破尚のPVに出た際の嘘、3つ目は軽井沢での裏切り…

「…あと一回は何だ…?」

「蓮?」

「いえ、何でもありません」

気付かないうちに少女いわく“大魔王”を発動したのかもしれない…
蓮はそう自分を納得させ、画面に視線を戻した。

『それに、私最初すっごく嫌われてたんですよ』

『え?そうなん?仲良いって聞くけどなぁ…』

『あー…今は以前ほど嫌われてない、かと。タレント部の主任に聞いてみたらわかりますよ~。敦賀さんが私のこと嫌ってたって断言してくれるはずです!それか、敦賀さんのマネージャーさんも知ってますし…』

「あ~あ…お前が最初の頃、キョーコちゃん苛めるから、周りから見れば仲良しなのにキョーコちゃんからは嫌われてないかも程度なんだぞ~」

「…動機が、不純でしたからね」

そう言いつつも、少し後悔している蓮。
ふざけた理由で芸能界に入ろうとした少女が許せなかったとはいえ、最初にやりすぎたからこそ、少女からの認識がこのような状態なのだろう。
最初、嫌われていたことを思えば、今の状態は大分改善されたと言ってもいい。
改善されすぎて、人間のカテゴリーを外れて神様扱いだが。

『へぇ~。そこまで言うならホンマなんやろうなぁ。よく、嫌われてる相手を尊敬できるね、京子ちゃん』

『あはは…実は私も最初は敦賀さんのこと嫌いだったんです』

『え!?マジ?』

『はい。まぁ、近くに敦賀さんのことが嫌いな人がいたので、その影響もあったんですけど…初対面の印象がすっごく悪かったので、敵視してました』

苦笑する少女に蓮はその時のことを思い出す。
確かに、“温厚”や“紳士”で知られていた蓮としてはありえない態度を取った覚えがあった。

「そういえば、最初の頃すっごく蓮のこと敵視してたよなぁ…。俺には礼を言うのに、蓮には文句しか言わなかったし、演技対決の時も睨んでたし…あの時、「骨は折れても治るもの」って言うからさぁ、この子恐い…って思っちゃったんだよな、俺。それから、その後も蓮を無視して俺とばっか話すし、あと……」

「…社さん。あの頃のことは反省してますから、そのくらいにしてください」

「えー」

「社さん」

「わかったよ」

つまんないのー、と呟く社に「冗談じゃない」と思う蓮。
あの頃は嫌われてても平気だったが、今はその時のことを思い出すだけで胸が痛むのだ。
あの子にそれほど嫌われていたのか…と。

『だけど、敦賀さんの仕事に対する姿勢を見て、人となりを知って、いつの間にか尊敬してました』

『そうなんだ~。今日はそこ辺りも詳しく話してくれるの?』

『そうですね。社長に「蓮の尊敬できるとこだけじゃなくて、情けないところや恥ずかしいことも全部話してこい!」と言われましたから』

『え~?敦賀さんの尊敬できるとこってのはわかるけどさ、情けないとことか恥ずかしいことなんて存在するん?完璧人間やん、敦賀さんって』

『ありますよ~。…まぁ、そのことばらす時は、死を覚悟しないといけませんけどね……』

『えぇ!?死って、京子ちゃん大丈夫なの?!』

『…どうでしょう?それでも、敦賀さんを知ってもらうためには、敦賀さんの人間らしいところも知ってもらうべきだと思いますから。そのためには、イメージを崩してしまっても、言った方がいいと思うんです』

死を覚悟…のところではどんよりしたが、それでも真剣な表情でそう言う少女。
その表情を見て、蓮は自分のことを考えてくれた上で言うのか…と嬉しくなり、思わず破顔した。
それを見た社は「蓮にこんな表情させられるのってキョーコちゃんだけだよ…」と画面の向こうにいる少女を尊敬する。

『皆さんが敦賀さんを“クー・ヒズリの息子”として見てしまうのって、敦賀さんが完璧に見えるからっていうのも少なからずあると思うんです』

『うんうん、確かに。“クー・ヒズリの息子”ってことは“ジュリエナの息子”ってことにもなるしね。そうすると、どうしても「そんな親を持つなら、その息子は…」って思っちゃうよね』

『外見が完璧なだけに、その認識を崩すのって難しいよなぁ…』

『はい。だから、その“完璧”を崩すために、そして“敦賀蓮”を見てもらうために私はここに来ました。これから話す内容は、本人に話したら絶対止められるので本人からの許可はありませんが、社長とクー・ヒズリからは許可を得ています』

『え?社長はともかくクー・ヒズリからも?』

『はい、直接』

『えぇ~~~!!??知り合いなの?もしかして』

『はい。ちょっとした機会がありまして…それも、これから話しますね』

少女はそう言ってにっこり笑う。
それを見て社は「キョーコちゃん、クーに懐いてたもんなぁ」と呟き、あれ?と首を傾げた。

「確か、息子さんの名前って“クオン”だよな?で、それってお前だよな?」

「…そうですけど」

「ってことは、キョーコちゃん、お前を演じてたってことだろ?じゃあ、あまり似てなかったんじゃ…」

「そんなことなかったです。彼…父さんが詳細を教えたとしか思えないくらい、幼いころの俺に似てましたよ。思わずあの後確認に行ってしまうくらいには」

「へぇ~、そうなんだ~。昔のお前、あんなんだったのか…想像できん。でもって、親ばか子ばかのラブラブ親子ってのも想像できん」

「…しないでください」

照れたような顔でぷいっと顔を背ける蓮に、レア顔!と思いつつ、追求をやめることにする社。
突きすぎて“闇の国の蓮さん”が顔を出したら心臓に悪いからだ。
再び画面に意識を戻した蓮をちらりと見た社は、もうちょっとからかいたかったなぁ…と思いながらも本題に入ろうとする少女の様子に、慌てて画面を見た。

 

 

 


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関西弁がわかんないです。
ってか、ブリッジロックの話し方がわかんないです。

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事務所の中に無事入ったキョーコはまっすぐラブミー部の部室へと向かった。
一瞬、主任である椹のところに向かおうかとも考えたが、電話が鳴り響いているであろう場所では話ができないと判断して。
今までTVをチェックしていたのか、それとも表玄関を強行突破してきたキョーコが信じられないのか、皆唖然としてキョーコを見つめている。
そんな視線をもろともせず、キョーコはさっさと部室に向かった。


「ふぅ…緊張したーーー」

誰かが聞いていたら「嘘つけ!」と言いそうなセリフを吐いたキョーコは、誰もいない場所に来て安心したのか、椅子の上に崩れ落ちるように座り込んだ。

ブルブルブルブル

座った途端、震えだしたケータイにキョーコはびくっと震える。
そして、慌ててケータイを取り出し、誰からかも確認せずに通話ボタンを押す。
その瞬間、

『あんた、何やってんのよぉぉぉおおおお!!!!!』

と部屋中に女性の叫び声が響いた。
耳元に持っていく前でよかった…と思いながら、キョーコは笑顔になる。
なんたって愛しの親友からの滅多にない電話である。
どんな状況であろうと、嬉しいものは嬉しい。

「モー子さん!」

『「モー子さん!」じゃないわよ!あんた、何やらかしてんのよぉ!!タレント部の主任から、今日は事務所来るなって連絡入んなかったわけぇ?!』

「ううん、入ったわよ?」

『なら、何で…』

「だって、許せなかったんだもん」

『は?』

「まるで、敦賀さんが“クー・ヒズリあっての敦賀蓮”みたいに言われてるのが許せなかったんだもの」

その言葉に奏江は息を呑んだ。
キョーコは本気で怒っていることがわかったからだ。
電話越しでもわかる負のオーラ…
電話越しで良かったわ…と怨キョの被害にあったことのある奏江は思った。

『…あんた、クー・ヒズリのこと“先生”って呼んで慕ってなかった?』

「えぇ、慕ってるわよ?でも、それとこれとは話が別だわ」

『まぁ、そうだけど…』

肩書で判断したりしない奏江は蓮が誰の息子だろうと気にはしない。
クー・ヒズリの息子だと知った時は驚き、「ハリウッドスターの息子なんて大変でしょうねぇ…」と同情はしたものの、所詮他人事。
世間にどう言われようと関係ないが、蓮を神様のように信仰しているキョーコにとっては違うのだろう。
だから、言わずにはいられなかったのかもしれない…
奏江自身、もしキョーコがそんな目にあったら抗議していたかもしれない…と思いつつ、本人には照れくさいため言わなかった。

『…まぁ、いいわ。ということは、あれは意図してマスコミの前に出たのね?』

「うん……やっぱり、怒られるわよね…?」

『当たり前でしょ!最悪、クビ…にはならないでしょうねぇ』

「え?なんで??」

『あんたの暴走が良い方向にいってるからよ。今、TV見てないの?』

「う、うん」

『あんたの発言の後、“敦賀蓮”の見方が変わったのか、あんた寄りの発言をするコメントが増えたのよ。LMEとしても、これからの活動のことを考えると“クー・ヒズリの息子”じゃなくて“敦賀蓮”を見てほしいでしょうし、殆どお咎めなしだと思うわよ』

その言葉にキョーコはほっとした。
クビを切られる覚悟をしていたとはいえ、やはり本当にそうなったら嫌だったからだ。
それでも、例えクビになるとわかっていても、何度だって同じ行動を取るだろう。
それだけキョーコにとって蓮の存在は大きかった。

『じゃあ、私の要件はそれだけよ。あんたが突発的にじゃなくて、覚悟して行動に移したのなら私に言うことは何もないわ』

「…心配、してくれたの?」

『……好きに判断しなさい。じゃあね、キョーコ』

「!…うん!モー子さん、ありがとう!!大好きぃぃいいいvvv」

『っ…はいはい。じゃあ、切るわよ!』

ブチッ

その言葉と同時に通話が切れ、プープーと空しい音が部屋に響く。
キョーコは嬉しそうにケータイを見つめると、いそいそとケータイを鞄に戻そうとした。
が、

ブルブルブルブル

再び震えるケータイ。
キョーコは一瞬固まると、名前を確認する。

「…非通知……」

キョーコが知ってる中で非通知でかけてくるのは二人。
椹と蓮である。
恐る恐る通話ボタンを押すと、『最上くんか?』と今朝より疲れた、しかし、どこか満足そうな声がした。

「椹さん…?」

『最上くん…君、やってくれたなぁ…』

「す、すみません!!!」

『いや、責めてるわけじゃないよ』

「え?だ、だって…」

『蓮を知ってる俺たちとしては、よくぞ言ってくれた!という心境だな。もちろん、独断で勝手にインタビューに応えたことは咎めないといけないが、それでも、君が勇気を出してくれたおかげで蓮は潰れずにすむかもしれん』

嬉しそうに言う椹にキョーコはほっとする。
お咎めはありのようだが、酷いことにはならずに済みそうだ。

『我々や社長が「蓮とクー・ヒズリは別物」と説明しても、世間はどうしたって“蓮=クー・ヒズリの息子”と見る。けれど、同じ役者である君の言葉なら、世間に届くだろう』

「そういうもの、ですか?」

『あぁ。やはり、視点の問題かな?だから、君が蓮は蓮だと躊躇うことなく言ってくれて嬉しかったよ。個人としてもLMEの社員としても礼を言いたい』

「私はただ、皆さんの認識が許せなかっただけです…感謝していただくようなことは……」

勝手をしたのに感謝されて小さくなるキョーコ。
報道陣の前に出たのはキョーコの我が儘だ。
“敦賀蓮”の演技を軽んじる世間が許せなかったキョーコの我が儘なのだ。

『…君ならそう言うと思ったよ。だからな、社長室に向かえ』

「は?どうやったら“だから”になるんですか?脈絡が…」

『勝手をしたことを反省してるんだろう?けれど、後悔はしてないはずだ。だから、社長室に行って、社長に“お咎め”をもらってきなさい。その内容が“お咎め”として納得できるかどうかは判断できないが、それで君の独断を許す。だから、行きなさい』

「…わかりました」

 

 

 


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椹さんの喋り方がようわからん…
でも、あのキャラ不憫で好きなんですよねぇ~

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敦賀蓮はハリウッドスター、クー・ヒズリの息子だった!!??


捏造が多いと共に流行も生み出してきたという某雑誌の一面を飾った見出し。
何が原因かは不明だが、どこからか漏れてしまったらしい…否、漏れたわけではなく、ただの捏造記事だったのかもしれない。
しかし、それが事実であったため、事態は笑いごとではすまなかった。


『演技がうまいのも納得ですよねぇ~』

『流石はクー・ヒズリの息子ですよね!!』

――プチッ

キョーコは据わった目で画面を消した。
その様子をオロオロと『だるまや』の女将さんが見ていたが、キョーコはそんな女将さんを気遣う余裕はない。

――敦賀さんに対する侮辱だわ…

キョーコは真っ暗になった画面をまるで親の敵を見るような目で睨みつけながらそう思った。
普段、あまりTVを見ないキョーコ。
そのキョーコに「大変だ」と言って、このことを教えてくれたのは、今傍でキョーコを見守っている女将さんであった。
そして、あの後にきたケータイへの連絡。
疲れ切った声で「今日は事務所には来ないで現場に直行すること」と椹に言われたキョーコは問合せが殺到しているのだろうと察すると同時に、事務所も張られているのだと察した。

「行くのか」

疑問ではない、ただの確認。
そう大将に問われて、キョーコはしっかり頷いた。

「はい」

「そうか」

言葉は少なかったが、それだけで通じた。

「悔いのないように言いたいことを言ってこい」

「はい!」

大将に背中を押されたキョーコは真剣な表情で頷くと、鞄を持って歩き出した。
まるで、戦場にでも行くかのように出て行ったキョーコを、女将さんは心配げに、大将はいつも通り無表情で見送った。

「あの子、大丈夫かね…?」

「あいつならやるさ。事務所に怒られて辞めさせられたら、ずっとここに置けばいい」

まぁ、そうはならんだろうが…と呟く大将。
絶対に“敦賀蓮”にとって不利なことは言わないとわかっているからこそ叩ける軽口。
「あんたも素直じゃないねぇ」と笑った女将さんは、「さぁて、ご飯にしようか」とキョーコが作っていった朝食を食べ始めるのであった。

 

報道陣が詰めかけているLME本社の表玄関。
キョーコはそこ目掛けて、まるで報道陣が見えていないかのように歩いた。

――冷静に、冷静に…

感情で喋ったらダメ、と自分に言い聞かせながら、普段通りを心がけて歩くキョーコ。
嘘は苦手でも演技はできる。
でも、演技でもダメだ。
演技では世間は騙せても本人には通用しない。
それでは意味がない。
本心で…しかし、冷静に――

「京子さん!」

目論見通り、報道陣は厳戒態勢の中現れたキョーコの周りここぞとばかり囲んだ。
そんな報道陣に内心「ひっかかったわ」と微笑む。
これからやることは事務所からは怒られ、本人からは余計な世話だと言われるのが必須なこと。
…それでも、我慢ならなかったのだ。

「京子さん!先輩である敦賀さんのことですが…」

「敦賀さんがクー・ヒズリの息子だということは…」

「何か、本人にはお聞きしていますか?」

「京子さん、何かコメントを!!」

餌に群がるハイエナのような報道陣の詰問にキョーコはぴたりと足を止めると、報道陣を見て微笑んだ。
微笑みといっても普通の笑みではなく、緒方が『京子』を未緒に押した理由である闇色のオーラで、共演者には怯えられた魔性の微笑みである。
その笑みに報道陣は震えあがり、一歩、二歩、と後ずさる。
それを見て、少し複雑な感情を抱きながらもキョーコはそれを表には出さず、小さな声で呟いた。

「敦賀さんが、クー・ヒズリの息子だった…?」

反応を示したキョーコに再び口を開くきっかけを得た報道陣。
こんな小さな声でも反応するなんて、流石ね…とどこか皮肉げに思いながら、先程より控え目に尋ねる報道陣に目を向けた。

「え、えぇ…京子さんはそのことは…?」

「知っていますよ。それが何か?」

思わず、そっけなく返事をしてしまった。
薄い反応に戸惑う報道陣を「いい気味だわ」と思うキョーコ。
どうやら、自分で思っていた以上に自分は怒ってるらしい…とキョーコは冷静に自己分析した。

「あ、あの、そのことに関して驚いたりとか…もしかして、本人から何か…?」

「本人からは何も聞いてませんよ。今日、ニュースで見て凄く驚きました」

――聞いてるわけないじゃない!私はただの後輩なんだから…

でも、知ってることもある。
それだけで判断材料は十分だ。

「し、しかし…」

「けど、それだけです」

「え?」

「クー・ヒズリの息子だった。それは確かに驚くことかもしれませんけど、ここまで騒ぎ立てることですか?敦賀さんの価値はそんなところにはないのに」

冷静に淡々と述べられる言葉に誰もが驚き、固まる。
そんな報道陣をよそに、キョーコは一台のカメラに狙いを定めて、そのカメラを睨みつけるように見つめた。

「私は敦賀さんを尊敬しています。役者として、人間として。けれど、それは“敦賀さん”だから尊敬しているのであって、“クー・ヒズリの息子”だから尊敬しているわけではありません。“クー・ヒズリの息子”だから演技が上手いとも思いませんし、“クー・ヒズリの息子”だから人気があるとも思いません。敦賀さんが必死で“敦賀蓮”を築きあげてきたからこそ、私は敦賀さんを尊敬してるんです」

芸能界に入る前の私なら、他の人と同じ反応だっただろう。
『顔だけ俳優』と思っていた頃なら…
しかし、私は“敦賀蓮”を知ってる。
そして、ハリウッドスターではなく、親としての“クー・ヒズリ”を知っている。

――だから、許せなかった…“敦賀蓮”を知ってるから、許せなかった

敦賀蓮を見ない人たちを。
肩書に惑わされる愚かな世間を。

「それだけ言いたかったんです」

それだけ言い残して、キョーコは邪魔な報道陣をかき分けて何事もなかったかのように事務所の入口へと向かう。
ぼけっと突っ立っている報道陣が我に返って何か言っていたが、キョーコは言いたいことは言ったので、無視して中へと入ったのだった。

 

 

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キョーコ視点。
キョーコならこんな風に騒がれたらキレそうだなぁと思って書きました。
だって、キョーコって基本、芸能人に興味ないし、肩書とかで判断されるの嫌いそうだし。
なにより、信仰している神様だしね!(笑

拍手[35回]



演技を見るのは好きだった。
そして、父が好きな仕事だから自分もやりたいと思った。
それは兄も同じだった。
けれど、偉大すぎる父の影から抜け出すことができず、俺も兄ももがき苦しんだ。
演技力はそこらの子役より絶対にあるのに、クー・ヒズリの息子なら当たり前…それどころか、クーの息子なのにその程度なのかと、父と比べられて、自分の演技を認めてもらえなくて、まだ10歳になったばかりなのに腐っていた。
俺も兄も、同じだった。

だけど、その年の夏の日。
日本から帰ってきた兄の表情が日本に行く前と違っていた。

――俺だけの魔法を手に入れたんだ…

そう言った兄の演技は以前とは全く違っていた。
技術の問題ではなく、どう表現すればわからないけど、明らかに以前とは異なっていた。
それから、俺の比較対象に父だけでなく、兄も加わった。
双子なのに、どうしてこんなに違うんだ?
それは周りの疑問、そして俺の疑問。
今だ影から抜け出せない俺は、ある日その理由を兄に聞いた。

――京都で女の子に会ったんだ…泣き虫だけどしっかりしていて、メルヘン思考な可愛い女の子
その子に魔法を貰ったんだ
色褪せない、最高の魔法を……

魔法使いの名前はキョーコちゃん。
そう言った兄の手には、いつも持っていたアイオライトの石はなかった。



「………兄さんに、何て言えばいいだろう…」

蓮はそう呟いて頭を抱えた。
キョーコと会って、兄の話とは違うなと思いながら接しているうちに惹かれてしまった。
どんなに否定しても、溢れてきてしまう感情…
夏の日…兄が手に入れた最高の魔法の名前を蓮は知ってしまった。
それは、恋。
人を大胆にも臆病にしてしまう、医者にも治せない進行の早い病。

「今でも、好き…だよな?」

兄の名前を『コーン』と聞き間違えて、貰った石にコーンと付けて大切にしているキョーコ。
キョーコを話す時、見たことないような顔で微笑んでいた兄。
どちらも思い出を大切にしていると知っている。
特に兄は、当時キョーコが『ショーちゃん』が好きだと知っているにも関わらず惚れたくらいだ、キョーコのことを忘れているわけがない。
そんなこと、弟の自分がよく知っている。

「兄さんなら最上さんのこと、大事にするよな…妖精のコーンの方が俺なんかより存在大きいだろうし…」

それに、自分には罪がある。
幸せになるには、あまりに人を傷付けすぎた。
だから、大切な人は作らない…幸せになれないと、自分に枷をした、はずだった。

「だけど………」

「敦賀さん、どうしました?」

食器を片付け終わったキョーコがコーヒーの入ったカップを持って近寄ってくる。
どうぞ、と渡されて、蓮は礼を言って受け取った。

「なんでもないよ。それより、何だか嬉しそうだね」

「明日には現場に復帰するんですよね?」

「うん、そうだよ」

「楽しみなんです。"敦賀さんの嘉月"!」

にこにこと笑うキョーコに蓮も笑う。
この様子じゃ演技テストがあること知らないんだろうな…と思ったが、わざわざ言うことでもないため告げることはなかった。

「それは光栄だな。でも、下手な『嘉月』を作ったら般若を見ることになりそうだ」

「ちょっ…それって私のことですか?!」

「あぁ、ごめん。『未緒』は般若より恐ろしい悪鬼だったね。間違えたよ」

「ひっどぉーーいっ!!」

からかうと予想以上の反応を見せてくれるキョーコに、蓮はくすくす笑う。
惚れていると自覚した少女相手にからかうなんて、俺も歪んでるな…なんて思いながら、蓮はこんな時兄だったら…と考えた。
きっと、「キョーコちゃんのおかげだよ。キョーコちゃんだから、俺は『嘉月』の演技ができるようになったんだ」くらいのことは言うだろう。
兄は自分と違って腐っていた期間が短かったから、その分素直だし…

「…敦賀さん?」

「ぁ…ゴメン、ゴメン。冗談だよ」

「……あの、本当にどうしたんですか?先程から何か考え込んでいるようですけど…」

「…俺が『嘉月』できなくなって、現場にはすごく負担をかけてしまったからね。どう謝ろうか悩んでたトコ」

「本当ですか?」

「…本当だよ?」

にっこりと笑うとキョーコは瞬時に青ざめた。
この笑顔が苦手なことは知っていたが、好きな女の子に笑いかけて怯えられると、少し…かなりショックだ。
兄だったら…久遠の笑顔だったら、きっと違う反応を示すだろう。
石のコーンを拾ってあげた時のような、心底嬉しそうな顔で笑うのだろうか?

ズキンッ

胸が、イタイ…
『美月』が他の女性のことを指摘した時より鋭い痛み。
育った芽を簡単に摘み取れると思って頼んだ演技訓練。
大切な人を作る気はなかったし、何より、彼女は兄の大事な"キョーコちゃん"だから、好きになっちゃいけないと自分に言い聞かせてきた。
でも、制御できない感情が俺の中で暴れ回る。

「…ねぇ、最上さん」

「はい?」

「もし、コーンが君の前に再び現れたら、どうする?」

「ふへ?コーン、が…ですか?」

「うん、そう。君に石をくれたっていうコーンが現れたら。ずっと一緒にいたい?」

「それは…できるなら、一緒にいたいですけど…」

ズキンッ

馬鹿か、俺は。
自分で傷口をえぐるような真似をして…
コーンが大好きな彼女なら、一緒にいたいって言うに決まってるのに…。

「あと…とりあえず、まずはありがとうって言いたいです。ずっと、コーンの魔法に助けられてきたから…。あ!それから、敦賀さんを紹介したいです!」

「…俺?」

「はい!私の尊敬する大先輩で、今の私にとって欠かせない人だって!」

「ぇ……?」

予想外な言葉に蓮は固まる。
欠かせない、なんて…まるで、大切な人、みたいな言い方……

「新しい"最上キョーコ"を作るって言った時、馬鹿にしないでくれましたし、演技に興味を持つきっかけになったのも敦賀さんですし、(意地悪だけど)私を導いてくれる人ですから!」

モー子さんも紹介したいけど、妖精って信じる人しか見えないって言うし…あ、それなら敦賀さんにも見えないかも…
なんて呟いているキョーコを呆然と見る。
彼女の中での俺の居場所なんてちっぽけなものだと思っていた。
意地悪な先輩、ドラマの共演者、食事に関しては信用できない男(自覚はある)。
その程度だと思っていたのに…

「違う、のか…?」

親友の琴南さんほど大きくはないけど、紹介したい人で、すぐに俺の名前が出てくるくらい彼女の中の俺の存在は小さくないのか?
彼女の中に俺の居場所が…ある?
そう思った瞬間、胸の痛みが引いた。
『コーン』に勝てるってわけでもないのに、彼女の中に居場所があると知っただけで、視界がひらけた気がした。

「あの、敦賀さん…?今、何か……」

「妖精の存在、信じるよ」

「え?」

「君の大事なコーンが妖精だって言うなら、俺はそれを信じるよ」

『コーン』が妖精じゃないと誰よりも知ってるけど、彼女がそう言うなら『コーン』は妖精だ。
妖精の存在じゃなくて、俺が信じるのは彼女が信じる妖精の存在、だから。
…ってか、今だ兄さんのこと妖精だと思ってたんだ、最上さん…

「本当ですか!?」

「うん、ホント」

「嬉しいです!妖精を信じる人がこんな近くにいたなんて!!」

そう言って、とびっきりの笑顔を見せるキョーコ。
石のコーンを見つけた時の笑顔は安堵の方が強かったけれど、この笑顔は喜びの方が強く、恋を自覚したばかりの恋愛初心者である蓮には刺激が強過ぎた。

――どうしてくれようか、この娘っ

いきなり無表情になる蓮にキョーコは顔を曇らせる。

「あ、あの…?」

「…あぁ、うん。俺も嬉しいよ。でも、妖精が見えたことないんだけど、俺にもコーンを見ることできるかな?」

「それが不安でそんな表情を…?大丈夫ですよ!きっと見えます!だって、コーンは妖精界の王子様だもの。他の妖精さんより魔力が大きいはずだわ!」

だから見えますよ!と主張するキョーコに、理屈はわからなかったが「そうかな」といって蓮はとりあえず頷いた。



「兄さん、ごめん。今も"キョーコちゃん"を想ってるかはわからないけど、俺にとっても彼女は大切な人だから…譲れない。俺に幸せになる権利はないけど、わかっていても彼女だけは手放せないから…だから、ごめん…久遠」

ずっと連絡を絶っていた兄にメールを送る。
これはけじめ。
"敦賀蓮"として成功し、堂々とアメリカに戻れるようになるまでヒズリとは無関係と決めていたけど、兄と同じ人を好きになってしまった申し訳なさともう引き返せないという意味を込めて。

「もう、引き返せない…――」

パタンとケータイを閉じ、そっと目を伏せる。
思い浮かぶのは、"キョーコちゃん"のことを語る兄の柔らかな笑顔、そして、先程見た彼女のとびきりの笑顔。
どちらも掛け替えのない人だけど、どちらが自分にとって欠かせない人なのか知ってしまったから…だから、

「すまない、久遠・ヒズリ。君にも、他の誰であっても、あの子は渡せない」

弟としても、敦賀蓮としても、謝るのはこれで最後だ。
君は琴南さん以上に手強いライバルだから、手加減はしないよ。

「――好きだよ、最上さん」

告白は誰にも聞かれることなく溶けて消えた。





―――――――――――――――――――
誰得かと聞かれたから、俺得だと答えます。
蓮vs久遠
過去の自分じゃなくて、自分の片割れ(双子)という設定にしてみました。
コーンとしての思い出がない分、態度が変わるのは本編より遅いと思いますけど、その分、「過去にほだされてるだけだ」という言い訳が聞かないので、恋心を認めるのは早そうです。

裏設定だと、久遠も蓮が日本に来た頃に活動拠点をヨーロッパに移して父との連絡を殆ど絶っています。
なので、クーが漏らす名前は「クオン」のままです。
蓮、とは流石に言えませんからね(笑

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