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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「――ィル、カィル、カイル!!!」
揺り起こされて反射的に手元にあった剣の柄を握り、上体を起こすとそこには心配そうなルークの姿。
慌てて柄から手を放し、起き上がる。
「ご無事ですか、ルーク様!」
「俺は大丈夫だよ。お前の方こそ大丈夫なのか?」
ルークの答えにホッとしつつもカイルは自分の格好を見る。
着ていたはずの鎧は何故か見当たらないが、剣はあったのでカイルは少し安堵する。
痛みも感じないし、怪我の心配もないようだ。
「大丈夫です。ご心配いただきありがとうございます。…ところでお訊きしてもよろしいですか?」
「あぁ…って言っても聞きたい事ってここがどこか、と状況についてだよな?」
「えぇ、そうです。誠に申し訳ないんですが、お教えいただけますか?」
ルークは頷いて、まず何故自分たちがここにいるのか、その経緯を話し始めた。
ルークによれば、襲撃犯の名前をティアと言い、(分かりきった事だったが)ヴァンを狙っての犯行だったらしい。
ティアは第七譜術士でそれ故にルークと擬似超振動を起こしてしまい、飛ばされてしまったのだとか…
ルークとティアはタタル渓谷に飛ばされ、夜は魔物が多くて危険だからとティアの提案で川沿いに歩いたのだと言う(逆に危険だとカイルは内心激怒した。ルークたちが飛ばされたのはセレニアの花畑だ。一晩、辺りを見渡せるそこで夜を明かし、朝移動すべきだ)
カイルは入り口辺りに倒れていたらしい。
その時には既に鎧は着ておらず、どんなに揺さ振っても起きなかったとか…
ルークとカイルは、超振動を起こした当事者ではなかったから再構成される時に影響(鎧構成失敗と音素の揺れの影響による睡眠)が出たのだろうと結論づけた。
そのまま留まるのは危険だったのでルークはカイルを担ぎ上げ、川を下り続けると、ちょうど水を汲みに来ていた辻馬車の男がおり、首都まで行くと言うから乗せてもらった。
そして今――
「エンゲーブ…?ってマルクトじゃないですか!」
「そうなんだ。俺もティアも土地感なかったからそんなに飛ばされたとは思ってなくて…お前をずっと担いで歩くわけにもいかなかったし…しかも、肝心の橋が『漆黒の翼』に落とされちまって…」
「そんなっ!」
カイルは真っ青になった。
超振動に巻き込まれた影響とは言え、今の今まで眠り、主人の手を煩わせて(だが、鎧がなくて結果的には良かっただろう。アレにはファブレの紋が入っているし、重い)その上辻馬車に乗らなければないないような状況(と言っても夜だったのでカイルの事がなくとも乗っていたかもしれないが、少なくともカイルが起きてれば首都がどっちの首都なのかくらいは確認しただろう)に追い込んでしまうなど騎士の端くれにもおけない。
落ち込んでいるカイルを見て、ルークは心の中で謝った。
何故なら辻馬車の行き先や引き返せなくなる事を"予め"知っていたからだ。
カイルが超振動に巻き込まれたのはかなり予想外だったが、それ以外は"以前"通り。
そうなって一番困るのはカイルだと知っていてもルークにはどうしても変えたい"未来"があったから…
「(本当にごめん、カイル)」
ルークはもう一度心の中で謝った。
「…そう、ですか。それで、そのティアという襲撃犯は今は?」
「ティアなら村を回ってるよ」
苦笑するルークにカイルは絶句する。
ルークの様子からその襲撃犯は一緒に行動してるのだとわかる。
「ありえん…」
どうやったら一緒に行動する(なんせ彼女は王族誘拐という大罪を犯したのだ)という考えが出てくるのか是非とも教えてもらいたいくらいだ。
「それよりカイル、気になってる事があるんだ」
「何がですか?」
「実はエンゲーブで食料を盗まれるという事件が続いてるらしいんだ」
「…まさかこの時期に訪れた私たちが疑われてると?」
ルークは困ったように笑った。
「うん、まぁ…一回濡れ衣を着せかけられたんだけど、誤解は解けたから平気だよ」
「ルーク様に濡れ衣を着せるとは…」
いつも冷静なカイルの怒気に話さなかった方が良かったかも…と後悔しながらもルークは話を続ける。
「で、犯人はチーグルだったんだけどさ…明日一緒にチーグルの森に行ってほしいんだ。エンゲーブは両国の食料倉庫みたいなもんだし、ほっとけないだろ?」
「それはそうですが…チーグル、ですか?彼らは草食だったと記憶してるのですが…」
カイルの尤もな問いにルークは深刻そうに頷いた。
「話によると被害に合う少し前、チーグルの森より北にある森が炎上したそうだ。おそらくそれが関係してるんだと思う」
「成る程…しかし、危険な場所にルーク様をお連れするわけにはいきません」
「わかってる!俺には無事に屋敷に帰る義務がある。だけど…」
俯いたルークにカイルは困惑する。
話を聞く限り確かに解決しなければならない問題だが、それなら調査隊を派遣して危険なら討伐隊を組むべき事であり、他国の王族であるルークのすべき事ではない。
それはルークもわかっているはずだ。
「…何故、そこまで行きたいのですか?」
「俺は…できるなら穏便に解決したいんだ。だが、討伐隊が結成されればそうもいかないだろ?」
「しかし、穏便にとは言っても相手は魔物です。話の通じる相手ではありません」
「…それでも……」
ルークの固い意志を感じ、カイルは説得を諦めた。
甘いのはわかっているが、ルークの願いは何でもできる限り叶えたいのだ…
「わかりました。ルーク様の決意には負けます。その代わり、絶対にお一人で行動なさらないで下さいね」
カイルの言葉にルークの顔がぱーっと明るくなった。
「ありがとう、カイル!!」
「る、ルーク様っ」
がばっと抱き着いてきたルークにカイルは真っ赤になり、しかし抵抗するわけにもいかず抱きしめ返すわけにもいかず…
「ルーク様…」
「あれ?カイル、顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
「いえ!至って健康であります!!」
「そうか?なら良いけど…」
鈍いルークに、そんなとこも可愛いなぁ…と思いながらカイルは天国のような地獄のような(もしこの事がファブレ家に勤めている者に知れれば地獄を味わう事になるだろうとカイルは悟っていた)気分を味わっていた。

ティアが戻ってきて、カイルと一悶着起こすまで後少し…

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