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本能の赴くままに日記や小説を書いています。
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「キョーコ」

嫌な予感がしてキョロキョロと辺りを見回していたキョーコは後ろからかけられた声にびくりと身体を震わせた。

「魔界人!」

振り向いた先には、バレンタインの悪夢を引き起こした元凶。
その時のことを思い出してキョーコの顔は鬼のように険しくなったあと、恋する乙女のように頬を赤らめた。
そんなキョーコの様子に元凶――レイノは怪訝そうに眉を寄せる。

「キョーコ、お前…」

「な、何の用よ!ちゃんとチョコレートはあげたでしょ!!」

「お前、相手は誰だ?」

「は?アンタ、相変わらず人間の言葉がわからないようね。私は何の用だって聞いてるの!」

険しい表情でそう叫ぶキョーコの形から怨キョが顔を覗かせる。
しかし、特攻するような馬鹿なことはしないため、前回の二の舞になることはなさそうだ。

「…邪気が減ってる」

「は?」

「それはお前のプロテクターだろ?お前の精神を保つために必要なもののはずだ。その数が減ってるってことは、そいつらがいなくなっても精神を保てる準備が整ってきているってことだろ?」

「………」

怨キョの役割を把握しているレイノにキョーコは眉を寄せ、相変わらず得体が知れないわね…と呟く。
尚や琴南も怨キョを感じ取ることはできるが、レイノのように存在を認識し、その役割まで気付くことはない。
蓮や社に至っては、全く見えない人たちなので、寒気がする程度だ。

「…また捕まることがないように隠れてるだけで数が減ったなんてことは…」

「オーラでわかる」

ごまかそうとしたものの、あっさり見破られて口をつぐむキョーコ。
何故減ったかなんて…蓮の笑顔で浄化されるかなんて気付きたくないと願うキョーコの気持ちを知ってか知らずか、レイノは追い討ちをかけるように言った。

「そいつらが減った原因は誰だ?不破か?それとも…」

「あのバカなわけないじゃない!」

「…そのようだな。不破の名前を出した途端、邪気が増えた。ということはライオンの方か……」

納得したように呟くレイノの言葉にキョーコは理解できないとばかり顔を歪める。

「はぁ?ライオン?……まさか、敦賀さんのことじゃないでしょうね?」

「あぁ…確かそんな偽名だったな、奴は」

「偽名じゃなくて、芸名!」

「いや?あいつに限っては偽名で合ってるぞ。その証拠にあいつの本名は一度も世間に曝したことはないだろ?」

「別におかしいことじゃないでしょ。本人が隠したいならそれでいいじゃない」

その言葉にレイノはふっと笑う。
思わず零れたといった感じの笑みに、キョーコは不気味なものを感じてレイノを睨み付けた。

「……何よ?」

「『隠したい』ね…『曝したくない』じゃなくて『隠したい』のだと気付いてるあたりは流石だな。あっち方面は壊死してるのに、そういったことには鋭い」

「っ…別に深い意味はないわよ。バカショーみたいにイメージダウンになるから本名を明かしたくないのかもって思っただけで…」

「言葉の綾とでも言いたいのか?だが、お前は本能の部分で察しているはずだ。あの男は本当の名前を『隠したい』のだと」

びくりと肩が揺れる。
そう、本当は気付いてる…蓮は本名ごと過去を捨て去りたいと願っていたことに。
『坊』で接触した時に過去に触れ、心の傷に触れ、『雪花』として接触した時に演技の中に素が混じった『カイン』という名の闇に触れた。
どちらか片方だけだったなら気付かなかったかもしれない…けれど、キョーコは気付いてしまった。

「俺はその理由を知っているぞ?」

「…何でアンタなんかが知ってるのよ?」

「前に触れた時に過去が流れてきた」

「頭でも沸いたの?」

「信じられないか?だが、事実だぞ。キョーコがアレの過去を知りたいっていうなら教えるけど?」

「遠慮するわ。アンタのことだから、ないことでっちあげて敦賀さんのイメージダウンを謀ろうっていうんでしょ」

「いいや。それならお前だけに教えるより世間にばらまく方が効果的だろ?けど、LMEを敵に回すのは面倒だしな。それに、俺はただ、お前に教えるのが1番面白くて、1番あの男にダメージを与えられるから教えるだけだ」

「はぁぁあ?何言ってんの、アンタ!どうして私に教えるのが敦賀さんにダメージを与えることと繋がるのよ!」

そんなわけないのに。
知られたくないというなら、それは以前言っていた年下の女の子でしかないのに。
それとも、彼女には寧ろ知っていてほしいと思うのだろうか…?

キョーコはレイノに背を向け、歩き出す。
律儀に話に付き合う義理はないからだ。

「…………石」

「え?」

「捨てろって言ったあの禍々しい石。どうせまだ持ってんだろ?」

「当たり前でしょ!あれは大切な…」

「あの石、お前にやったの…あのライオンだ」

「なっ…ありえないわよ!だって、コーンは人間じゃ…」

「『コーン』?違うだろ。そう聞き間違えただけだ。よく思い出せ。お前が会ったその妖精とやらはこう言ったはずだ」

――こんにちは、キョーコ。俺の名前は


「『―――クオンだよ』ってな」


ドクンッ ドクンッ
嫌な汗が流れる。
そんなことないと言いたかったが、尊敬するクーが「クオン」と呼んだ時、「コーン」と聞き間違えたことのあるキョーコには違うと否定できるだけの根拠がなかった。
妖精だから違うと言いたいのに、本当に彼は妖精だったのだろうかと弱気になる。
外見上の特徴もクーが言っていた特徴と合致しているし、クーは京都出身だ…いてもおかしくはない。
クーの息子のクオンじゃない可能性だってあるのに、キョーコには何故か確信があった。

「っ…か、仮にコーンがクオンって名前だとして、それがどうしたっていうのよ?コーンはね、敦賀さんとは違って…」

「金髪碧眼の身軽な子供、だった?」

「!?」

「だけど、そんなもんカラコンと髪を染めるだけでどうにでもなるだろ」

「で、でもっ」

「あの男がお前いわく『コーン』なら、つじつまが合う…ということはないのか?」

「そんなものあるわ、け………」

本当に、ない?
だってあの人は石のコーンを拾った時に私の出身地を当てた。
熱に浮かされたあの夜、私を『キョーコちゃん』と呼んだ。
知るはずのない誕生日を知っていて、クイーン・ローザを用意していてくれた。
あの人がコーンなら、つじつまが、合う…
ショータローにあそこまで敵意を持ってるのもそのため?
王子様の『ショーちゃん』の話を私がしたから…だから、私がどれだけ『ショーちゃん』を好きだったか知ってるから…

「心当たりがあったようだな」

「っ………仮に、敦賀さんがコーンだとしても、それがどうしたって言うのよ!」

「別にどうもしないさ。だが、お前にとっては妖精だと思ってた少年が尊敬する先輩だった程度のことかもしれんが、あの男にとっては違う。お前が知ったということをアレが知った時の顔は見物だろうな」

くくっと笑うレイノにキョーコは眉を寄せる。
それほど知られたくないということなのだろうか?
別にコーンだからって先輩後輩の域を超えて馴れ馴れしくしたり、クオンだからって父親のクーを通して演技を評価したりしないのに。

「……そんなに私にコーンだったことを知られなくないってこと?」

「綺麗な思い出であってほしいのさ。コーンが自分だってばれるまではまだ良い…だけど、クオンだとばれたくないんだよ。クオンは綺麗な存在じゃないからな。警察にやっかいになってないだけで、犯罪者と変わらないような人間だから」

「犯罪者?敦賀さんが…?」

「あっちにいた頃は毎日のように暴力沙汰を起こしていたようだぞ。拳が血まみれになるほど殴ったりしていたようだ」

捕まらなかったのが奇跡だな。
レイノはその光景を読み取った時のことを思い出し、眉を寄せて呟く。
年齢に見合わない過去の持ち主だとミクロに言ったように、蓮は漏れ出るほどの闇を抱えていた。
触れたのが一瞬だったから良かったものの、触れた時間がもっと長かったら耐え切れずに失神していたかもしれない。
そう思うほど蓮の闇は深く、狂って壊れていてしまってもおかしくないほどだった。

「そんなの……」

「嘘だと思いたいならそれでもいいさ。だけどな、キョーコ。忠告しておくぞ。――アレはやめた方がいい」

「…別に、そんなんじゃ……」

「忠告はしたぞ?あと、忠告ついでに言っとく」

「…何よ?」

「俺にしとけ」

「はぁぁあ?!何でアンタなんかにしなきゃいけないのよ!」

「不破みたいなガキより俺の方がイイ男だぞ。それに、俺ならお前の全てを受け止めてやれる。恨みや憎しみといった負の感情を含めてな。俺くらいだろ?お前のソレをわかってやれるの」

ソレとキョーコの背後を指す。
確かに怨キョを見て触れる知人は今のところレイノだけだし、好意的に見てるのもレイノだけだ。

「…だから何だって言うのよ。それにアンタ、愛なんて甘くて脆いものなんていらないんでしょ?」

「まぁな。だけど、キョーコは情が深いようだからな。愛でも憎しみでも強烈そうだし、許容範囲外のことが起こって存在をデリートしない限りは愛じゃなくなっても強い感情を抱いていてくれるだろ?」

だってお前は人との繋がりを自分から断ち切れないから。
そう言ってレイノは楽しげに笑った。
無意識な事実を指摘され言葉に詰まるキョーコ。
尚だけが全てだった昔は人との繋がりを諦めていた。
尚と親しかったがために地域中の女子に嫌われ妬まれていたし、世話になっている尚の両親に喜んでもらえるように仲居の仕事をしていたから遊びに行くこともなく、キョーコの世界はずっと狭かった。
だから、世界が広がり、たくさんの人と出会ったキョーコはその縁を大事にせずにはいられなかったのだ…

「あ、アンタとの繋がりなんて断ち切ってやるわよ、出来る事ならね!」

「だろうな。俺は許容範囲ぎりぎりだろうし」

あっさり認めたレイノに思わず脱力する。
事実は事実だと受け止めるのだ、この男は…
そう思うと、確かに尚より大人かもと納得してしまった。

「なぁ、キョーコ。アレはやめておけよ?お前の手に負えるような奴じゃない」

「…知ってるわよ。いつも振り回されてばっかりだもの」

蓮が聞いたら逆だと否定し、社や琴南が聞いたらどっちもどっちだと呆れそうな言葉を発したキョーコに、レイノも後者と同じような意見を抱いたものの、それは口に出さずに「そうか」と呟いた。
勘違いを指摘したところで自分に対する悪意以外の感情に疎いキョーコは気付かないだろう。
それどころか「どうやったらそう見えるわけ?アンタ、頭沸いてるだけじゃなくて目も腐ってるの?」と言われるのがオチだろう。
それがわかってるのに指摘するほどレイノは馬鹿ではない。

「あ」

「…今度は何?」

「お前、時間大丈夫か?」

「え?」

そう言われて慌てて時間を確認するキョーコ。
次の現場に向かおうとしてから裕に30分は経っている。

「いっやぁぁぁああ!あとちょっとしか時間ないじゃない!せっかく余裕を持って出てきたのに!!」

「ドンマイ」

「ドンマイじゃないわよ!アンタのせいなんだからね!」

「そうか、すまない。で、こんなところで話していてもいいのか?」

「アンタに言われなくても行くわよ!」

急げばまだ間に合う。
次の現場はすぐそこだ。
レイノの文句を言ったキョーコはそう判断して走り出した。


「やめておけよ…『敦賀蓮』だけは」


大分距離が離れていたのに聞こえた言葉。
キョーコは立ち止まったりしない。
レイノもキョーコが止まったり振り返ったりするのを期待はしていないだろう。
人気のない局の廊下を走りながら、キョーコは呟いた。

「もう、遅いわよ…」

蓮がかけた悪い魔法はとてつもなく強力なのだから。





―――――――――――――――――――
蓮、いねぇ…
キョーコちゃんに過去バレしてみた。
蓮は知られることを恐れてるだろうけど、キョーコちゃんは知っても受け入れてくれると思う。
当社比で蓮→キョの割合が高いので、今回は珍しく逆ベクトルにしてみました。
実際は蓮→←キョですけどね。
でもって、実は尚よりレイノの方が好きなので、何気に良い扱い(笑

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やっぱりケータイが手元にあると落ち着きますね…。
履歴とかメールを確認してみたら、先生から電話があってびびりました…無視したことになるのかしら、これ?
とにかく、中身が無事でよかったです…心底。

ではでは、お返事です!

5/24
>瑞穂 さま
拍手ありがとうございますwww
>「拍手返信」
やっぱり寝てないんですかね?(笑
まぁ、蓮の性格を考えると確かに寝れなそうですよね…
「最上さんが家の中にいて、寝れるわけないだろ!」って。
蓮って(過去がアレだから)気配に敏感そうだし…
コンタクトはいれっぱなしのかぁ…私は裸眼族(笑)なので詳しくないんですよね、コンタクト…
髪はやっぱり染めてもらってるんですかね。
まぁ、じゃないと色むらとかあるかもしれないし…(髪を染めたことがないので何とも…)
あ、でも、生活は不規則で栄養はサプリメントで取ってるけど食が細い蓮の髪が可愛い感触なのは、専用の方にケアしてもらってるからですよね!
>「彼女だけが知らない」
そうですね!
きめるときはきっとやってくれると…うん(ぇ
きめてもキョーコちゃんに通じるかどうか…
最終的にはくっつくと思いますけどねw
くっついたら、芸能界全体で祭りですよ!!
「敦賀蓮、恋愛成就おめでとう!!」って感じで。
社さんとかは泣いて喜びそう…(笑
本当に早く気付いてくれるといいですね、キョーコちゃん(ぉい


拍手[1回]




私の名前は最上キョーコ。
年齢は20歳で、芸名『京子』、芸歴4年のLME所属タレント。
でも、バラエティーよりドラマ出演の方が多いから、女優と勘違いされることが多い。

そんな私には今悩みがある。
今…っていうのは正確じゃないわね。
それなりに売れ出してから、って言った方が正しいかしら?
とにかく悩みがあるの!
それは……


誰かと会うたび「敦賀さん(くん)のことどう思ってるの?」って聞いてくること!!!


最初はそれほどじゃなかったのよ。
『Dark Moon』で共演した方に「どうなの?」って聞かれるくらいだったもの!
仲良しだって思われてたみたいだから、「敦賀さんですか?よくしてもらってますよ。後輩思いですよねぇ~」って正直に答えたのよ。
そう答えるたび唖然とした顔をされて、何故か涙ぐまれたわ。
緒方監督なんか、「敦賀くん…敵は強敵だよ!」って拳を握って敦賀さんを応援してたわ。
敵っていったい誰のことかしら?
まさか、あのバカショー…なわけないか(ある意味当たり
あの敦賀さんの敵になるような役者なんて心当たりないけどなぁ…。

でも、それは序章に過ぎなかったのよ。
次第に共演者からも聞かれるようになったの。
「敦賀さん(くん)とはどういう関係なの!」って。
それなりに親しくさせていただいているから正直に「それなりに親しい先輩と後輩だと思いますよ」って答えたわ。
聞いてくる人は女性が多かったから、誤解されたら表を歩けないと思って「すっごく崇拝してるんです!」って付け加えておいたわ。
すると、やっぱり何故か唖然とした後、涙ぐむ人と喜ぶ人の2パターンに分かれたわね。
だけど、数日経つをどの人も「敦賀さん(くん)が不憫だから、もっと意識してあげて!!」って言うのよね。
だから、「意識してますよ!演技で負けたくありませんから!」って言ったのに、「そういう意味じゃない!」って皆さん口を合わせて言うのよねぇ…
そういう意味じゃなかったら、他にどんな意味があるっていうのよ。
まさか、異性として意識しろってこと?
……ないない。

その後、「じゃあ、不破さん(くん)とはどんな関係?」って聞かれることも多くなって、不愉快だったから、「抹消したい腐れ縁」って答えたっけ。
この頃、アイツと幼馴染だってばれて、世間を賑わせたのよねぇ…
アイツのファンからのいやがらせがすごかったわ…。
しかも、アイツときたら「京子さんとは本当に幼馴染という関係だけなんですか?」っていう問いに笑顔で「ご想像にお任せします」なんて答えるんだもの!
沈黙は肯定と見做されるのよ!!
『不破尚と京子の熱愛発覚!?』なんて誤認記事出ちゃうし!
思わず、出会い頭に怨キョで総攻撃をしてしまったわ。
ついでに私の方はばっさり「不破尚さんとの関係?幼馴染なんていいものじゃないですよ、ただの腐れ縁です…本当に腐って溶けて消えてしまえばいいのに」って答えて、記者の人を真っ青にさせちゃったのよねぇ。
でも、その記事が出た日は、敦賀さんから神々スマイルを食らったっけ?
敦賀さんもアイツのこと嫌いみたいだし、すっきりしたのかしら?
でもって、何故かその後『不破尚、京子に片思い?!』なんて馬鹿馬鹿しい記事が出たのよねぇ。
ありえないったらありゃしないわ!
そんなにネタがないのかしら?

そのうち、何故か敦賀さんと遭遇する確率が増えたのよね。
カインと雪花を演じた後は、あまり接触する機会がなかったのに…まぁ、時々、社さんの依頼でお食事を作りに行ったりはしてたけど、敦賀さんの家と事務所以外で会う機会なんて殆どなかったのに…。
まぁ、少しは私も売れてきたってことなんでしょうけど、それでも何だか腑に落ちないわ…
それだけなら何で皆して敦賀さんのことを聞いてくるの?
仲違いをしていて、それの仲介を…っていうならわかるわよ?
だけど、別に喧嘩なんてしてないし(っていうか喧嘩なんて恐れ多くてできないわ)、関係はいたって良好で、問題なんて全くないのに。
しかも、敦賀さんのことを聞いてくる人って、何故か私が答えた後、敦賀さんに「頑張って下さい!応援してますから!!」って言うのよね。
もしかして、敦賀さんと話すきっかけを作りたくて後輩である私に話しかけてくるのかしら?
問いかけてくる人の皆が皆、敦賀さんのファンだなんて…流石は敦賀さんだわ!
でも、流石に何度も同じ問いをされる私としては素直に喜べないのよねぇ…


ねぇ、どう思う?
モー子さん、天宮さん!


「どうって、それは…」

「ねぇ…」

琴南と天宮は顔を見合わせ、はぁ…と深々と溜息を吐く。
会う人会う人に同じ問いをさせるくらいわかりやすい蓮の態度に気付いてないのは、この業界ではキョーコただ一人。
最初は蓮狙いの人も、その空回りっぷりに同情して、応援側に回るくらいだ。
尚狙いの人はキョーコの態度にこれ幸いと気付かせない方向に行っているらしいけど。

「え!わかるの!?」

「そりゃ、わかるわよ…ってか、私はずっと言ってるでしょ?あの人、アンタに気があるんだって」

「だから、それはモー子さんの考えすぎよ!確かに、以前みたいに生理的に嫌われてるってことはないみたいだけど、あの敦賀さんが私を好きだなんて、そんなことあるわけないじゃない!」

敦賀さんには4つ下の想い人がいるんだし…と心の中で呟く。
キョーコが『坊』として蓮からいろいろ聞いてるのを本人や社や琴南たちが知っていれば、「それは君(アンタ)のことだよ!」と教えてくれただろうが、生憎とキョーコが『坊』だということは今だ一部の人間しか知らなかった。
なので、最初から可能性を除外しているキョーコには、そういった言葉は馬の耳に念仏なのである。

「琴南さんの勘違いではないと思うけど…」

「え?天宮さんまで!」

「だって、敦賀さんがラブミー部に依頼するのって京子さんにだけだし」

「それは私が一番そういうのを依頼しても心が痛まないからでしょ」

「事務所で自分から話しかけて、そのまま会話をするのも京子さんだけだし」

「それは私が一番何かやらかしそうで怖いからじゃないかしら?この前も『また現場で君のメルヘン癖が出たようだね。もう少し気を付けた方がいいよ』って言われたし」

「車で送る女性も京子さんだけだし」

「私とならゴシップにさえならないと思ってるからじゃない?実際、何度も一緒に帰ってるけど撮られたことないし」

「形に残るプレゼントを渡すのも京子さんだけにだし」

「あれは、私なら勘違いしないって確信があるからじゃないかしら?他の人なら『もしかして、私のこと…』ってなるもの」

「家の中に入れるのもマネージャーの社さんを除けば京子さんだけ」

「それは、一度入れたら後は何度だって同じだと思ってらっしゃるのよ、きっと。ある程度信用して下さっているのは確かだけど、それは社さんに対する信頼に似たものだと思うわ」

ああ言えばこう言う。
キョーコの否定っぷりにある意味感心する二人。
何故ここまで否定できるのか、一度キョーコの脳の中を見てみたいと思ってしまったほどだ。

「……じゃあ、聞いてみなさい」

「え?誰に何を?」

「敦賀さんに『私のことどう思ってますか?』って」

「何でそんな聞かなくてもわかるようなことをわざわざ?」

「(えぇ!聞かなくったってわかるわよ、アンタ以外には!!)…いいから聞いてみなさい。じゃないと親友やめるわよ」

「いぃぃぃやぁぁぁぁああああああ!!!モー子さん、捨てないでぇぇぇぇええええええええ!!!!!」

泣いて縋り付くキョーコを「鬱陶しいわね、も~~~~!!!」と言いながら、引っぺがす琴南。
その頬が赤くなっていることに気付いた天宮は「琴南さん、相変わらず素直じゃないわね…」と思いながら一人暢気にお茶をすすった。

「ちゃんと聞くのよ?いいわね?」

「うん、わかった!!だから、親友やめないでね…?」

潤んだ目で上目遣いで見上げられ、ますます顔を赤くする琴南。
琴南でなくてもこの上目遣いに勝てる人間はいないだろう…
「わかったわよ!」と叫ぶ琴南を見ながら、「京子さんってホント最強よね…」と呟いた。
無自覚の勝利である。

 

数日後。
蓮に聞いてきたというキョーコが琴南と天宮にその時の言葉を告げた。

「えっとね、『私のことどう思ってますか?』って聞いたら、固まって無表情になって『この子のことだから深い意味は…』とかよくわからないことを呟いた後、『とても…大切な子だよ、君は』っておっしゃったの」

「……で?それを聞いたアンタの感想は?」

「やっぱり敦賀さんって後輩を大事にする人なんだなぁって思ったわ!」

「ホント尊敬するわ~」とキラキラとした目でその時のことを思い浮かべているのか天井を見上げるキョーコに琴南と天宮は額を抑えた。
キョーコの曲解ぶりはあれから4年経った今でも健在…どころかますます磨きがかかったようだ。

「…どう思います、琴南さん?」

「……どう聞いても告白よね。曲解しても、『妹のように思ってくれてる』…とかかしら」

「そうですよね。なのに、後輩に当て嵌めちゃう京子さんってある意味凄いですよね」

二人は顔を見合わせると、はぁ~~~~と深い溜息を吐いた。
マリアがこの場にいたのなら「幸せが逃げてしまいますわよ?」と言われたことだろう。

「で、キョーコ。アンタ、思ったことそのまま敦賀さんに伝えたの?」

「うん!ついでに『どこまでもついていきます!』って宣言しておいたわ」

「…その時の敦賀さんの反応は?」

「えっと……確か、何故か遠い目をして『うん…そんなことだろうと思ったよ。なんたって君だしね』とかよくわからないことをおっしゃって、『あぁ、でもついてきてくれるっていうなら、ずっと俺だけを追い続けてね?(キュラリ)』って言ってたわ」

「「………ヘタレ」」

「?」

役者として自分だけを追いかけてくるだけで満足しようとしている蓮に、二人は思わず呟いた。
ヘタレと言わず何と言おう。
ここ数年の付き合いで、キョーコが一筋縄ではいかないことは相手も重々承知しているはずだ。
なのに、いつも同じようなパターンで二の足を踏む蓮には呆れるしかない。

「とっとと、『愛してる』の一言でも言えばいいものを…」

「ですよね。芸能界1イイ男が聞いて呆れます」

「あれは芸能界1ヘタレな男でしょ。業界ではもうそう認識されてると思うわよ」

「確かに…」

二人は再びふっか~い溜息を吐くと、一人話がわかってないキョーコを見た。

「長期戦よね」

「あと何年かかるかしら?」

「モー子さん、天宮さん、何の話?」

「「芸能界1ヘタレでここ数年ずっと片思いしてる子に告白できない情けない男の話」」

 

―――キョーコと蓮が結ばれる日は来るのだろうか…?



 

拍手[52回]



ケータイないとやっぱりつらい…
明日学校で受け取ったら、充電しないとなぁ…

皆さま、拍手ありがとうございます!
どういう話がツボなのか目安にしてるので、助かりますwww(それが反映されてるのかは謎(ぉい
因みに、今日までの順位は1位が「秘密がばれたとき」【10】で、2位は【11】でした。
強いですねぇ、長編物…。
因みに、私が書いてて楽しかったのは「誰にも言えない」ですね!
ギャグちっくな方が楽しいです…変なテンションのときにしか書けませんけどね。

ではでは、拍手返信です。

5/23 12:35
>瑞穂 さま
喜んでいただけたようで幸いです!
このネタが思い浮かんだのは瑞穂さまのおかげですから(笑
でも、ホントに蓮は髪をどうやって染めてるんでしょうね…?
でもって、コンタクトはちゃんと入浴・睡眠中は取ってるのか気になります…。
キョーコちゃんが泊まった日は確実に外せませんよね…目に悪いのに…
ってか、キョーコちゃんが家にいる状態で寝れるんでしょうかね、蓮(笑


 

拍手[1回]



 


――この人は綺麗だ…

キョーコは車を運転している蓮の横顔を見ながらそう思った。
男前と称されている尊敬する先輩を、キョーコはあまりそう思ったことがない。
ついでに、『温厚紳士』と感じたことも、春の日差しと称される微笑みを見てそう思ったこともない。
キョーコにとって蓮は意地悪で、笑顔で嘘や毒を吐く人で、大魔王で、夜の帝王で、怨キョを浄化するほど神々しい笑みを浮かべられるのに、怨キョを喜ばせるダークなオーラも纏える不思議な、すごく大人な人。
男前というより、綺麗で………ずっと見ていたくなる。

「最上さん?」

キョーコが無言でじっと自分を見ていることが気になったのか、赤信号になったと同時に話しかけてくる蓮。
ずっと見られてたら気にならないわけないじゃない!と自分を叱咤しながら、キョーコは「え~っと…」と目を彷徨わせた。
蓮には嘘は通用しない。
嘘をついたら大魔王。
キョーコの脳にはそうインプットされているため、悩むのをやめて素直に答えた。

「綺麗だなぁって…」

「え?何が?」

思わぬ言葉を言われた蓮は反射的に聞き返す。
嘘をついている様子はないよな…とキョーコを観察しながら、信号が変わらないことを祈った。

「何って、敦賀さんがですよ?」

さらりとキョーコは爆弾を落とす。
キョーコからしてみれば、じっと蓮を見ていたのに何故「何が?」を聞かれるのか不思議でならなかった。
しかし、蓮からしてみれば違う。
最近は『色っぽい』なんてことも言われるが、綺麗なんて言われたのは子供の頃…“キョーコちゃん”に会った頃の話で、今はもっぱら『男前』『格好いい』が蓮の外見を指す言葉である。
なのに、キョーコは『綺麗』だと言うのだ…

「……綺麗なんて、男に使う言葉じゃないと思うよ?」

フリーズした蓮だったら、どうにか一般的見解を絞り出す。
だが、キョーコは「そうですか?」と納得いかなそうな顔で首を傾げた。

――その顔反則!!!

不満そうなキョーコの顔は何かをねだっているようにも見え、蓮の心臓は高鳴った。
しかし、忙しなく動く心臓とは逆に、表情は凍りつき、無表情だ。
幸いキョーコは前を見ていたため、気付かず、その間に蓮はどうにか顔を戻した。

「あ!青ですよ」

「ホントだ」

信号が青に変わり、蓮はアクセルを踏み込んだ。

「でも…やっぱり、綺麗ですよ」

「ん?…さっきの話?」

「はい。ってか、綺麗な男性って結構いるじゃないですか。緒方監督とか、社さんもどっちかというと綺麗系だし、悔しいけどビーグルや……とかも」

伏せた名前を察した蓮は一瞬不機嫌になるが、自分の感情に敏感で、簡単に怒りを察知して怯える存在が隣にいるため、どうにか怒りを抑えた。
一瞬の怒気に敏感に反応したキョーコだったが、すぐに消えたため、「勘違いかしら…?」と首を傾げながらも、キョーコは話を続けた。

「だから、男性に使ってもおかしくないと思うんですけど」

「う~ん…そうだねぇ…。確かに緒方監督は儚げな外見としてるし、社さんも整ってるけど、やっぱり男としては綺麗って言われても素直に喜べないと思うな」

「でも、綺麗なモノは綺麗なんです!!」

除外した二人のことには触れず、そう訴えるキョーコ。
蓮は苦笑して、「わかったよ」と呟いた。

「熱弁するってことは最上さんは綺麗なモノが好きなの?」

「はい!大好きです!!」

キューティーハニースマイルが発動されたのを察して、蓮は賢明にもそちらを向かなかった。
本当はその可愛らしい笑みを存分に見たいのだが、キョーコの笑顔は理性を揺るがす。
それに、思考停止する可能性を考えると、車を運転しながら見るのは危険すぎた。

「…へぇ。じゃあ、最上さんは俺のことが好きなんだね。さっき見惚れてたみたいだし」

「そうですね」

「も~!そんなことないですよ!」という返事を予想していた蓮は想定外の返事に思考は停止する。
かろうじて残っていた理性でブレーキを踏んだ蓮は、キキーーーーッと甲高い音を立てて止まった車に驚くキョーコの方を見た。

「もう!びっくりしたじゃないですか、敦賀さん!!いったいどうしたんですか?」

「も、がみさん…今、きみ…」

「何ですか?」

「俺のこと好きって、肯定した?」

「え?疑問に思うことですか、それ?嫌いな人と一緒にいたりしませんよ」

「………」

――何だ、人間として…という意味か

思わず期待してしまった蓮は自分の学習能力のなさを嘆く。
わかっているはずなのに、何度だって期待してしまう…それが恋という厄介な病。
つくづく面倒な病だ、と思いながら蓮はキョーコを見つめた。

「…そっか。嫌われていないようで嬉しいよ」

「嫌うはずなんてないじゃないですか!敦賀さんのことを知らない頃ならいざ知らず…あ!別に外見が綺麗だから好きってわけじゃないですからね?」

「……わかってるよ」

――期待したくなるから、好きって連呼しないでほしい

切実にそう思った。
たださえ理性が切れそうなのに、初めて言ってくれた「好き」という言葉。
女友達ならともかく、男に言って勘違いされないと思うのは甘いと思うのは蓮だけではないだろう。
そんなことを考えながらぼーっとキョーコを見ていると、キョーコもこちらを見つめてきた。
心なしかうっとりしている。

「…最上さん?」

「綺麗…ですよね、本当に…。私、敦賀さん以上に綺麗なヒト、コーンしか見た事ありません。あ、コーンは妖精なので、人間の中だと敦賀さん以上に綺麗な人を見たことがない、が正解ですね」

――コーンも俺です…

そう言えたらどんなに気持ち的に楽になれるか。
けれど言えない理由がある。
だから言わずに、蓮は「どっちにしろこの子にとって俺が一番綺麗なのか…」と心の中で苦笑した。

「そんなに?」

「…はい。緒方監督とかもプリンセスかと思うほど綺麗な方ですけど、でも、敦賀さんの方が綺麗…存在自体が光り輝いてるみたい…」

「……俺は君が思うほど綺麗な存在じゃないよ?」

内包した闇はレイノに二度と関わりたくないと思わせるほどのものだ。
それを知るよしはないが、自分が闇に堕ち、狂気に満ちた人間だったことを自覚している蓮にとってキョーコの賛辞は耳に痛いだけ。
綺麗だと信じていてくれるのは嬉しいが、自分はそう言ってもらえるような人間じゃないと一番知っているのは蓮自身なのだから。

「綺麗ですよ…例え、汚れたことがあったとしても、それを含めて敦賀さんは綺麗です…」

そう呟いてキョーコはそっと蓮の頬に手を伸ばした。
滅多にないキョーコからの接触に蓮は固まる。
伸ばした手は蓮の頬をまるでガラス細工を触れるかのように優しく撫でた。

「綺麗」

顔を綻ばせ、優しく笑った。
慈愛に満ちたその笑みは、まるで母のようで………

ぽろり

目から零れ落ちる。
零れ落ちたそれは頬を伝い、頬に触れているキョーコの手を濡らした。
それをきっかけに、キョーコははっと我に返る。

「わ、わたし…っ、す、すみません!!あの、なんで泣いて…何か気に触ったことでも…」

「違う、よ。何でだろうね…思わず溢れてきたんだ」

「あ、の…大丈夫、ですか?」

微笑んだ蓮を心配げに見つめながら、涙を拭う。

――涙を流す姿さえ綺麗な人…

男が泣いたらみっともないとか思うものなのかもしれないが、キョーコはそう思った。
蓮の場合はキョーコじゃなくてもみっともないとは思わないだろうが、ここまで純粋に綺麗だと思う人間はいないだろう。

「大丈夫だよ。ありがとう」

蓮は笑った。
汚れても綺麗だと言われて全てが許された気がした自分の単純さを。
キョーコの言葉だけで救われる自分を。
けれど、そんな自分が嫌に思えず…笑ったのだ。


「ありがとう、最上さん…」


――君はいつでも俺を救ってくれるんだね

流れる涙をそのままに、蓮はそんなことを思いながら子供のように笑った。

 

 

 

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
キョーコに「綺麗」と言わせたかっただけ。

 

 

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『コーン』がアイオライト(ブルー・サファイア)だったのはいろんな意味をかけて、ですよね。
アイオライトの石言葉は「はじめての愛」
蓮がキョーコちゃんに「はじめての愛」を渡して、キョーコちゃんはずっと蓮の「はじめての愛」を大切にしてるのだと思うとにやけます(ぉい
でもって、他にも「感性を研ぎ澄まし、心の安定を与えてくれる」とか 「何かと迷いがちな人に愛と結婚の守護石」「精神力を強めてくれる」 「傷ついた心を癒してくれる」っていう意味があったりして、しみじみキョーコちゃんが持っているべき石だったんだなぁ…と思います。

それから、キョーコちゃんの誕生石を調べてみたらキャストライト(十字石・空晶石)で、石言葉は「聖なる契約」
誕生石は関係ないのかなぁ…と思ってたら、この石の効果は「新しいことにチャレンジする時に効果を発揮する」「創造力、実行力を強化する働きがある」
…新しいこと=自分を作る、でOK?
想像力=メルヘン思考
実行力=復讐…?(ぉい

あと、蓮の誕生石はタイガーアイクォーツ【赤】で、石言葉は「運命の破壊と創造」
これを見た瞬間吹き出しましたね。
これってわざとなのでしょうか…?
単行本の作者のコメントとかあまり見ない人間なのでわからない…orz

ついでに花言葉も探したのですが、たくさんありすぎる…
その中でも好きだなぁって思ったのは、
キョーコちゃんは、ローズの「熱烈な恋」
蓮は、エンドウの「必ず来る幸福」とヒースの「幸福な愛」
ですね。
キョーコちゃんが蓮に「熱烈な恋」をして、蓮がキョーコちゃんに「幸福な愛」を与えればいいと思うノ

更についでに、プリンセスローザ様を推測。
ピンクの宝石をちょっくら調べてみました!
候補はロースクロサイト・タンザナイト・パパラチアサファイアあたりかなぁ…
パパラチアサファイア(宝石言葉:慈愛・誠実・徳望)は「蓮の花」って意味だし、特に…とも思いましたけど、私のひと押しはタンザナイト!
タンザナイトの宝石言葉「誇り高き人(高貴)・冷静・空想」であまり関係なさそうなんですけど、12月の誕生石(あと12月の誕生石はトルコ石・ラピスラズリがある)ですし、タンザナイトにはアイオライトの様な多色性という性質があって、見る角度によって結晶の色が、青色、紫色、灰色などに変化するみたいなんです。
つまり『コーン』とおそろい!!
因みに、ロードクロサイトの宝石言葉は「情熱・優しさ・繊細・愛情・美・調和・豊かな感受性」
これを候補に入れたのは『バランス&ラブの石』と呼ばれてるから(笑

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「もう遅いから泊まっていくといいよ」

社さんに要請されて、敦賀さんの食事を作りに来た私はそう言われて素直に頷いた。
これまでも、同じようなことがたびたびあり、その度に「まだ、終電に間に合いますから」と帰ろうとした私だったが、敦賀さんの口車に乗せられていつも泊まるはめになってしまう。
それなら、最初から無駄な抵抗をしない方が利口だ。

「あれ?今日は素直だね」

「私にだって学習能力くらいあるんです!結果がわかってるのに抵抗したって意味ないじゃないですか!」

敦賀さんにやりこめられて、何度ここに泊まったことか…
私と社さん以外は滅多に訪れない敦賀さんの家。
しかも社さんはここに泊まることはないから、ゲストルームは殆ど私専用になってしまっている。
泊まる回数が2桁に上った時、「服とか化粧品とか置いておいたらどうかな?」と敦賀さんに勧められてクローゼットをお借りしてから、更に泊まる回数が増えた。
恋人でもないのに……
でも、敦賀さんは「大切な人は作れない」っておっしゃっていたし、彼女を作るつもりがないから、私を泊めるのだろう。
そうでなければ好きな人に申し訳ないと思って、何があっても他の女性を泊めたりしないと思うもの!

「うん、利口だね。けど、その結論に至るのが遅いんじゃないかな?もう、20回は超えてると思うけど…」

「うっ…」

普通は抵抗するでしょ!
敦賀さんは男性で、私はこんなんだけど一応女なんだから!
そりゃ、敦賀さんが私に興味を持つことがないことは代マネをした時からわかってることだけど、それでも羞恥心は消えないのよ。
それに、すっごくたまに私が粘り勝ちして車で送ってもらう時、降りる際に捨てられた子犬のような目で見つめられるのが苦手なのよ!
思わずもう1回車に乗り込んで、「一人にしませんからね」って甘やかしたくなってしまうから…
あんな目で見つめられるくらいなら泊まり込んだ方がマシ。
そんな結論に至った私はおかしくないと思う。

「そうだね、普通は抵抗あるよね」

「…私はまだ何も言っておりませんが」

「顔に出てるよ。だけどね、最上さん……今更じゃない?」

「……そうですね」

今更ですよね。
もうこれで通算24回。
ただの事務所の先輩後輩の関係を思うと、この回数は異常だと思う。
敦賀さん家に行く→強制宿泊、の流れになるからラブミー部に要請されても断っていた時期もあったけど、これ幸いと敦賀さんが食事を取らなかったせいで体調を崩してしまったので、社さんからではなく俳優部門主任の松島さんから正式に要請されてしまった。
『蓮の食事の世話をすること!(要請された時のみでよし)』
そのせいで喜々として社さんが毎日のように私に要請してきて、私も流石に心配になったので、時間を作って敦賀さんの食事を作るようになった。
その際、「君なら悪用しないだろう」と主任からスペアキーまで渡されてしまったので、敦賀さんの了承を得て、先に敦賀さんの家に行って料理を作るのが大半だ。
因みに今日もそのパターンである。

「じゃあ、お風呂に入っておいで。俺は仕事場でシャワー浴びてきたから」

「あ、はい。では、お借りします」

にっこりと笑って私に拒否させない敦賀さんにぺこりと頭を下げて、ゲストルームに服を取りに行く。
下着とパジャマ、洗顔用石鹸と化粧水などを持つと、再びリビングに戻って、そこを通ってバスルームに向かった。
敦賀さんは見たいドラマでもあったのか、ソファーに座ってテレビを見ている。

「じゃあ、入ってきますね」

「うん」

もう一度断りを入れて、脱衣所に入ると扉を閉めた。
絶対覗かないだろうけど、念のため鍵もかける。
これは3回目か4回目に泊まった時に敦賀さんに言われたからだ。

「『男の家で風呂を入る時に鍵を閉めないなんて、襲ってくださいと言ってるようなものだぞ』…って敦賀さんしかいないんだから問題ないと思うんだけどなぁ…。流石に私だって敦賀さん以外の男性の家に泊まるようなことがあれば、鍵くらい閉めますって」

そんな独り言を言いながら服を脱いでいく。
最初は持って帰って洗っていたけど、慣れた私は洗濯機に洗い物を放り込んだ。
そして、バスルームに入ると、何度見ても大きいという感想しか出てこない風呂を見つめた。

「…ホント、敦賀さんの家にあるものって何でも大きいわよねぇ…。まぁ、敦賀さん自身も規格外サイズだし、仕方ないんだろうけど」

そう呟くながら、中に入るより先に身体を洗う。
そして、髪も洗おうとしたところでシャンプーが切れていることに気付いた。

「……替え、あるかしら?」

トリートメントの方も切れていることを確認して、一端、脱衣所に戻ると、洗面台の下の扉を開ける。
ボディソープ、ハンドソープ、ワックス、洗濯機があるのに洗濯物はほぼ全てクリーニングに出す敦賀さんの家にはなかったから私が買ってきた洗濯用洗剤、漂白剤……

「あ。あった」

奥の方に仕舞ってあったシャンプーとトリートメントの詰め替え用を取り出す。
すると、その後ろに見慣れない箱があることに気がついた。

「…何かしら、これ?」

洗面台の下にあるということは間違っても食べ物とか服ではないだろうし、見られて困るものでもないだろう。
あのきめ細かい肌を保つためのものとか?
見ても平気だろうと判断して、少しドキドキしながらその箱を引き出すと、その正体に気付いた。

「…………………毛染め剤?」

色はダークブラウン。
敦賀さんの髪の色だ。
あのバカみたいにわざわざ髪を染めるタイプには見えないし、このくらいの色ならそんなに黒と変わらないし、別に染める必要もないと思う。
白髪を隠すためっていうならまだわかるけど、敦賀さんはまだ若いし必要ないはず…
ま、まさか………―――


「敦賀さんって…………若白髪だったの?!」


苦労性には見えないけど、あれほど忙しい人だもの、苦労してるのはわかりきってること。
若白髪でも不思議はないわ。
大丈夫です、敦賀さん!
不肖、最上キョーコ、敦賀さんの秘密は誰にも話しません!!


蓮が聞いたら顔を引き攣らせ、社だったら爆笑するようなことを決意したキョーコはいそいそと毛染め剤を元あったところに戻した。
蓮にとって幸いだったのは、その奥にあったカラーコンタクトの存在を知られなかったことだろう。
英語のパッケージであるそれは、相手がキョーコでないのなら普通のコンタクトだとごまかせるだろうが、生憎とキョーコは英語ができる。
よって、キョーコがそれを見つけていれば、目の色が黒でないことがばれ、髪の色も若白髪なんて結論ではなく金髪だの茶髪だのと地毛の色を疑われることになっていただろう。
どういうことなんですか?と詰め寄られれば、キョーコに弱い蓮は久遠であることもコーンであることも話していたに違いない。

しかし、蓮にとって幸か不幸かそのような事態にはならず、キョーコは勘違いするだけで終わった。
シャンプーとトリートメントを詰め替え、髪を洗って風呂に入り、疲れを癒したキョーコは「私が若白髪だって気付いたことを知ったらショックを受けるかもしれないし、言わない方がいいわよね」と判断して、毛染め剤を発見したことを隠すことに決めた。
嘘はつけないが、演技は可能という不思議ちゃんであるキョーコは持ち前の演技力を駆使して、まだリビングのソファーに座っている蓮にいつものように「お風呂、ありがとうございました」と礼を言い、お互いに「おやすみなさい」と挨拶して、寝室に向かったのだった。

蓮がキョーコの勘違いに気付けるのは、まだまだ先の話……

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギャグです。
蓮って髪の毛どうしてるのか不思議に思って書きました。
自分で染めてるに1票で!
他人に染めてもらってるなら、ジェリーだと思うけど、生え際が地毛になった瞬間アウトだから、すっごく頻繁に染めてると思うんですよね。
それを考えると、やっぱり自分で染めてるのかなぁって…

この話を書くきっかけになった瑞穂さまにこっそりひっそり捧げます


 

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「ケータイを拾いました」と連絡が入りましたwwww
連絡をくれた子は学際を運営する委員会に入ってる子で、今学校に泊まり込んでるそうなんですけど、
その子の後輩が拾ったらしいです…
オーナー情報で私のだとわかったので連絡くれました!
はぁ、よかった…
ケータイ見つからなかったら止めてもらわないとなぁ…と思っていたので、そう決断する前に見つかってよかったです!!

関係ないですが、拍手の順位見てみたら「秘密がばれたとき」【10】が1位になってました。
「別れは新たな始まり」の前後編が2位。
意外と人気があるんですよね、「別れ~」
しょっぱなから蓮キョ破局してるのが、新鮮だからですかね??

面白い話書けるようになりたいなぁ……

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ケータイを失くしました…死活問題です!!!
学校でなくしたってのはわかってるんですよ…ただ、場所がわからないんです。
今日、9時くらいまで部活があったんですけど、恐らく練習場所から部室に移動するときに落したんだと思うんですよね…。
それか、部室だと思うんですけど、友達にケータイ鳴らしてもらって、鳴らなかったので、多分ないかと…
練習場所はもう鍵がかかってて入れないし…泣きたい、死にたいorz

ってか、ホントやばいんですよ、中身が!
私、ケータイで小説書く人間なので、書き途中の話がいくつか入ってるんですよね、あの中。
もし、このまま見つからなかったら、それらの小説はお蔵入りですね。
もう一度書く気力ないですもん。
蓮キョとかフリルクとか√菊とかいろいろと書き途中だったのになぁ……

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「―――最上さん」

その声にキョーコはびくっと身体を揺らした。
恐る恐る振り返ると、昨日の今日で出てこれるはずがないと思っていた人物――敦賀蓮の姿。
キョーコは目を見開いた後、サーッと顔を青くした。

「(どうしよう!私、まだ全然心の準備がぁぁぁあああっっ)」

そう心の中で泣き喚く。
まだ、死刑宣告まで猶予があると思っていたキョーコにとって、蓮との邂逅は不幸そのものだった。

「あ、あの…っ」

「昨日はいろいろとありがとう」

「(これは怒ってる~~~~…の?似非紳士スマイルじゃないし、怒りの波動も感じないんだけど…)」

あんなことやこんなことを全国放送で暴露したから、次あった時は絶対大魔王だと思ってたのに…
キョーコは怒っていない蓮を不思議そうに見る。
すると、蓮はそんなキョーコの心境に気付いたのか、くすりと苦笑した。

「怒ってないよ。軽蔑もしてない」

「…え?」

「君があの鶏だったのは驚いたし、あんなことをテレビの前で暴露されて恥ずかしかったけど、俺のためだってわかってるからね」

「で、でも、私、すっごく失礼な態度を……」

おずおずとそう言うと、蓮は困ったように微笑む。

「一回目は偶然だろうけど、二回目以降は俺のためなんだろう?俺がスランプに陥ったのを知ってたから、俺の恥を知っている鶏の前なら隠さず理由を話すんじゃないかって…そう思ったんだろ?」

「……はい。そ、そのっ!好奇心とかじゃなくてですね…っ!!」

「わかってるよ。心配してくれたんだって…ラブミー部の君に恋の指導をされていたなんて、って自分の恋愛レベルの低さに少しショックだったけど」

「う……」

「ふふっ、冗談だよ」

蓮はくすくすと笑う。
その姿はキョーコが想像していたものと全く違っていた。
次会った時はきっと「君があの鶏だったんだ…俺を騙していたんでね?最低だよ」とか、「随分勝手なことを言ってくれたじゃないか。君はいつからそんなに偉くなったんだい?」とか、「人のプライベートなことを暴露するなんて…軽蔑するよ、二度と俺の前に現れないでくれ」とか言われると思っていたからだ。
蓮がそんなキョーコの想像を知ったら、落ち込むこと間違いなしだろうが、キョーコはもちろん知らない。
しかし、想像と違って、蓮は怒りを見せることもなく、冷たい目でキョーコを見ることもなく、普段通り…否、普段以上に柔らかい雰囲気を纏ってキョーコを見ていた。

「え、えっと…あ!敦賀さん、大丈夫だったんですか?!」

「ん?何が?」

「だって、マスコミがまだ家に張り付いてますよね?なのに、どうやってここに…」

「堂々と、だよ」

「は?」

「マスコミからずっと隠れてるなんて不可能だし、俺が悪いわけじゃないのに隠れなきゃいけないなんて理不尽だろ?だから、普通に出てきたよ」

にこにこと当たり前のことのように言う蓮にキョーコは絶句する。
普通に、と蓮は言うが、蓮のマンションの前に詰め掛けていた報道陣の数は半端ではない。
芸能人の秘密を追うよりも、政治や事件の方に目を向けろと言いたいほどTV欄は「敦賀蓮」の文字で埋め尽くされているのだ、それは当たり前だろう。
そんな報道陣からどうやって逃れてここにいるのか…キョーコはそれがとても気になった。

「本当に普通に出てきたんだよ?だから、マスコミの方々はすごく驚いて固まってたなぁ…」

「そりゃそうですよ…昨日の今日で出てくるなんて誰も思いませんって!」

「うん、そうだね。少なくとも、ばれたと知った時は1ヶ月くらい出れないんじゃないかって思ってたよ。それと、俺の芸能生活は終わりかな、って」

「っ……」

諦めてた、という蓮にキョーコは泣きそうになる。
キョーコは知っている…不破尚への復讐のために芸能界に入ろうとしたキョーコに本気で怒るほど、俳優であることにプライドを持っていることを。
熱を出して倒れたのに、再び現場に戻って誰にも悟らせることなく演技しきった蓮を。
恋がわからなくて挫折した時、気になる相手はいるのに「大切な人は作れない」と悲しい顔をしていたこと…けれど、それを乗り切って“嘉月”の演技をしたこと。
知っているから、諦めるなんて哀しいことを選択させようとした世界が許せない。
涙目になったキョーコの頭に、蓮は優しく手を乗せた。

「敦賀、さん…?」

「諦めてた…けど、諦めきれなくなった。いや、違うな…諦める必要なんてないんだと知ったんだ」

「へ?」

「君が教えてくれたんだよ。クー・ヒズリの…父親の存在に押し潰されそうになっていた俺を君が救ってくれたんだ。俺が作り上げてきた“敦賀蓮”を肯定してくれた」

「それはっ…」

「他の誰でもない君に肯定されたから俺は浮上できたんだ。誰になんて言われても俺の演技を見てくれる人がいるって、君が見ていてくれるって知って、それでいいって思えたんだ。それにね、演技を続けていれば、きっと“俺”を見てくれる人が出てくる。そして、いつかは“クー・ヒズリの息子”じゃなくて“敦賀蓮の父親”って言わせてみせると、そう決めたんだ」

優しく笑う蓮にキョーコは固まった。

「(こ、ここで神々スマイルぅぅぅぅううう??!!)」

キョーコのプロテクターである怨キョが浄化され、次々に消滅してゆく。
それを感じながらもキョーコは動くことはもちろん、顔を背けることすらできなかった。

「最上さん?」

「は、はぃぃぃぃぃいいいいいい!!」

「どうしたの?」

「い、いえ、何でもありません~~~!敦賀様がお気になさることは何一つございません!!」

「……そう」

怪訝そうにキョーコを見る蓮。
しかし、キョーコは説明なんてできなかった――見惚れた、なんて言えるわけなかった。
“きまぐれロック”の生番で、キョーコは蓮を神(と勝手に定めた位置)から同じヒトへと引きずり落とした。
自分の中で何かが変わってしまうとわかっていても、そうすることでしか蓮を“クー・ヒズリの息子”ではない一個人として見せる方法を思いつかなかったからだ。
そして、予想通り、蓮の笑顔を見た時、自分の中で何かが動いたことをキョーコは気付いていた。
“神々スマイル”を見て、今までなら眩しいと目を眩ませていたのに、その笑顔を見て嬉しいと…嫌われてないとわかって、とかではなく純粋に、その笑顔を自分に見せてくれることを喜んだのだ。

「……それでね、最上さん」

「はい?」

「今日、ここに来たのはね、君に会うためなんだ」

「………………はい?」

きょとん、と首を傾げるキョーコ。
そんなキョーコの前に蓮は片膝をついて、まるで姫に忠誠を誓う騎士のようにキョーコを見上げた。

「つ、敦賀さぁん?!ちょ、やめてください、そんな格好っっ」

「君のお願いなら何でも聞いてあげたいけど、今回は聞けないな。今から俺は、君に許しを請うんだから」

「許し…?」

「君が勇気を出してあの鶏だって教えてくれたから、俺も君に秘密にしていたことを明かすよ」

怒っていいから、泣かないでね…?
そう言う蓮にキョーコは「泣くような秘密って…?」と眉を寄せた。


「――妖精じゃなくてごめんね、“キョーコちゃん”」


ずっと黙っていて、ごめん。
蓮はそう言って、右目のコンタクトを外す…そして現れた、碧。

「……………こー、ん…?」

「うん。会ったのは、君が6歳の時だったね…京都にある森で、君は泣く場所を求めて、そして俺と出会った」

一緒に“ハンバーグ王国”を作ったりしたね。
俺が熱射病で倒れた時は、君がハンカチを濡らしてきて俺の額に乗せてくれた。
母親のことで泣いて、“王子様のショーちゃん”のことで笑顔になっていたね。

そう優しく語る蓮を呆然と見るキョーコ。

「コーン、なの?」

「そうだよ、キョーコちゃん」

「だって、髪…」

「染めてるんだ。日本人の“敦賀蓮”になるために」

そう言われて、考えてみれば簡単なことじゃない!とキョーコは思う。
父親であるクーはハーフで金茶、母親であるジュリエナはアメリカ人で金の髪だ。
その二人の息子である蓮の髪色だって、二人の色を継いでるに決まっている。

「騙そうと思って黙っていたんじゃないんだ。俺は過去を捨てて“敦賀蓮”になったから、“クオン”の思い出である“キョーコちゃん”との記憶に絆されちゃいけないって、話すわけにはいかないって…」

「…わかってます。意地悪で教えてくれなかったんじゃないって……」

「うん……でもね、“キョーコちゃん”との思い出は俺にとって宝物だったから、捨てることなんてできなかった。そして、“最上さん”も俺にとって大事で、今の“俺”を見てほしかったから、重ねられたくなくて尚更言えなかったんだ」

それが黙っていた免罪符になるとは思っていないけど…
蓮はそう言ってキョーコがぽろりと零した涙を指で拭う。

「泣かないで、キョーコちゃん。君に泣かれると弱いんだ」

「ごめ、なさ……止まら、ない……」

「…そんなに俺が“コーン”だったのがショックだった?それとも、信じられない?」

「ちが…そうじゃ、ないんです…。敦賀さんが、私の出身地を知ってたことに、疑問に思ったり…軽井沢で朝日の悪戯で、敦賀さんがコーンに見えたり…先生が『クオン』って呼んだのを、コーンって聞き間違えたり…した、から…敦賀さんが、コーンでも、不思議じゃなくて……ただ、」

「ただ?」

「ただ、コーンが…コーンが生きててよかったよぉ…。コーンが、コーンが貴方でよかった…っ」

「っ……」

――どうしてくれようか、この娘は――
蓮は思わず無表情になり、キョーコを抱きしめたい衝動を堪える。
…が、ボロボロと自分のために涙を零すキョーコに耐えきれず、蓮は立ち上がると、腕の中にキョーコを閉じ込めた。

「つ、つるが、さん……?」

「――ねぇ、キョーコちゃん」

「?」

「もう一つ、俺の秘密を聞いてくれる?」

「は、はい…」

抱きしめたまま蓮はそう言うと、キョーコは戸惑いながらも頷いた。
そのことに安心して蓮は話し出す。

「実はね。俺ってまぬけなんだ」

「はぁ?」

「好きな子のことを、本人に相談してたんだよ。すっごいまぬけだと思わない?」

「ふへ?」

「だから、君が好きだってこと!君に相談した、4つ年下の高校生は君のことなんだよ」

「………」

はぁぁぁぁぁああああああああああああ??!!

キョーコの絶叫が建物中に響き渡る。
予想していた蓮はしっかり耳を塞いでいた手をのけると、再びキョーコを抱きしめた。

「最上キョーコさん。俺の羽は、また父親の手に引っ掛かってボロボロになってしまったけど、今度はもっとしっかりした大きい羽を作ってみせるから、俺の隣でその手伝いをしてくれませんか?」

「…」

「君が傍にいてくれるだけで、俺は幸せになれるんだ。ずっと、俺には幸せになる資格なんてない…大事な人は作れないって思っていた。でも、そんな誓いなんて破って幸せになりたいって、君に俺を好きになってほしいって、思ってしまうんだ。そして、俺はもう君がいなければ生きていけないってわかってしまったから」


――だから、俺の傍にいて?俺を好きになって?


「俺の、恋人になって下さい」

蓮はそう言うと、腕の力を緩めてキョーコの顔を覗き込んだ。
真っ赤になり、瞳を潤ませて、力なく蓮を見上げるキョーコ。
意図せず上目づかいになるキョーコに蓮は「うっ…」と胸を抑えた。
破壊力抜群である。

「あ、あの…えっと…そのぅ……」

「Yesって言ってくれれば、絶対に幸せにしてみせるよ。正直に言うと、その返事しか欲しくない」

「あああああああのっっ」

「愛してる。お願いだから、俺の…俺だけのお姫様になって?」

あわあわと慌てるキョーコの前に再び膝をついた蓮は、その細い手を取り、口付ける。
その途端、ボッと赤かった顔が更に赤くなり、一気に体温が上昇した。

「つつつつ、敦賀さん!待って下さい!!」

「嫌?俺とはそういう関係になるの、考えられない?」

「そ、そういう問題ではなく、混乱してるので返事は待ってもらえませんか?」

「…それって考えてくれるってこと?」

恋愛を拒否していたキョーコが見せた譲歩に蓮の瞳が輝く。
多少罪悪感を見せながらもばっさりこの場で断られるのを想定していた蓮にとって、その譲歩はかなり嬉しいものだった。
こくりと頷いたキョーコに蓮は破顔した。

「待つよ。可能性がゼロじゃないってわかったから、待てるよ。だから、ゆっくり考えて?答えが出たら、君の気持ちを教えて?」

「…すっごく時間がかかるかもしれませんよ?」

「それでも、君が俺を愛してくれる可能性があるなら俺は待つよ。それに…ただ待つなんてしないからね」

「は?」

「君がその気になってくれるように精一杯口説かせてもらうよ。大丈夫。TPOはわきまえるから」

にこにこと笑う蓮を前に、キョーコはたらりと冷や汗を流した。

「(…もしかして、選択肢を間違った……?)」

「あ、今更『さっきのなし!』なんて受け付けないから。そんなこと言ったら俺……どうなっちゃうかわからないよ?」

ぬか喜び、なんてことになったら理性がプッツンって切れちゃうかも。
と、笑顔(しかし目は笑っていない)でのたまう蓮にキョーコは思わず下がろうとしたが、しっかり手を握られているため逃げられない。
それどころか、その体勢のままキョーコを引き寄せた蓮は、キョーコの腰に腕を回し、顔を胸に埋めた。

「つつつつ敦賀さぁぁぁあああんっ!セクハラっ、それセクハラですから!!ってか、ない胸に顔を埋めても楽しくもなんともないですよね?!」

「そんなことないよ。とても幸せな気分になれる」

「そ、そんなこと言ったって…そ、その、恋人でもないのにこの体勢は…」

「なら、今すぐ恋人になろ?」

「ちょっ、さっき待つって…」

「待つつもりもあるけど、やっぱり早く恋人になりたいしね。全力でアプローチしようと思って…。これくらいしないと、君は俺を意識してくれないだろう?」

「そ、そんなこと…」

「ん?」

「そんなことありません!敦賀さんの笑顔を見るだけで心臓がばくばくいいますもん!!」

「え…それって…?」

都合の良い言葉が聞こえてきて、蓮は目を見開く。
てっきり「そんなこと………あります、ごめんなさぁぁぁああいいいいい!!!」と泣かれると思っていたのに、これではまるで、告白する前からキョーコが既に蓮を意識していたみたいな言い方だ。

「最上さん…」

「?」

「やっぱり今すぐ恋人になろう?ってか、結婚しよう?」

「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ???!!!」

話がいきなり飛躍し、混乱するキョーコ。
そんなキョーコを抱きしめながら、「日本だと指輪は給料3ヶ月分だったよな、確か…」とか「式は白無垢よりドレスがいいなぁ…いや、白無垢も捨てがたいかも」とか「子供はまだいらないけど、作るなら最上さん似の女の子がいいなぁ」とか、勝手に未来設計をする蓮。

そんな二人を遠くからLMEの社員たちは見ていた。
そう、ここはLME事務所のロビー。
この事務所で一番人が集まる場所…つまり、全くといって蓮はTPOをわきまえていないのである。
そんなところで始められたやり取りを見守っていた野次馬…もとい社員たちは、蓮のプロポーズももちろん見ていた。
蓮のセクハラ的行動も見ていた。
が、美形は得である。
「どんな行動でも様になるなぁ」の一言で済んでしまうのだから。

無論、その野次馬の中には蓮のマネージャーである社もいた。
昨日から蓮と共に行動しているのだから当たり前である。

「(るぇぇぇぇええええんん!!!お前、暴走しすぎ!!!!!ってか、コーンって何?!二人は知り合いだったわけ??)」

そして、昨日の行動について直接注意しておこうとキョーコに会うために訪れていた琴南の姿もその野次馬の中にあった。

「(ちょっとぉぉぉおおお!!!何、公開プロポーズやってんのよ、あの男っ!!キョーコも流されちゃダメーーーーーーっっ!!!!)」

拳を握りしめ、女優として以前に女性としてあるまじき顔で歯ぎしりする琴南。
同じく、昨日の騒動の後始末に追われた椹も、「昨日は大変だったなぁ」と(比喩ではなく)走りまわったキョーコを労わるためにその場にいた。

「(ななななっ…ちょっと待ってくれ!蓮は最上くんのこと嫌ってなかったか?あ、それは最初だけだったか…?いや、しかしな……)」

思わず悩みこんでしまう。
椹にとって印象が強いのはキョーコに対して冷たく当たる蓮の姿だ。
“Dark Moon”で共演していたし、キョーコが出演している不破尚のCDを頼まれたこともあったため、仲が改善しているのは想像できたが、蓮がキョーコに恋心を抱いてるなど全く考えたことがなかったのである。

「(っれれれれれ蓮さまぁぁぁぁああああ??!!お、お姉さまのこと……でも、お姉さまが相手なら許せるわ…他の人なら許せないけど!蓮さま、お姉さまのことを大事になさってくださいねっ!!!)」

蓮が事務所に来ていると聞いて訪れたマリアもその光景をもちろん目撃しており、何故かマリアの中では既に二人の仲が成立しているようである。
二人の邪魔をしたら…と呪いの人形片手に二人を祝福している。

「(きょ、キョーコちゃん……)」

項垂れて泣いているのは“きまぐれロック”でおなじみブリッジロックのリーダー、石橋光。
キョーコに片思い中だった光は蓮の告白を見て、その口説くさまとキョーコの反応に「勝ち目なんて微塵もない…」と悟ったのである。
そんな光の方をぽんっと慰めるように叩く二人。
「今日は奢るよ、リーダー」とやけ酒に付き合うことを告げる。
そんな二人に光は力なくコクンと頷いた。
蓮は告白と同時に馬の骨の排除もおこなったのであった。

「(蓮の奴、やるな…しかも、過去に会ったことがあるなんて運命的じゃないか!素晴らしいぞ!!これは今すぐクーに連絡しなくてはっ)」

…この人が居合わせないわけがない。
ローリィもまた公開プロポーズに立ち会った一人である。
蓮の告白に感動したローリィはルンルンと上機嫌にその場を後にする。
その後の展開を見逃すつもりはもちろんなく、カメラを持たせた執事をスタンバイさせてある。
ぬかりはないローリィであった。


「ね、夫婦になろ?」

「しっ、知りませんっ!!!」


後日、烈火のごとくキレている琴南を必死に社が宥めたとか…

 

 

fin
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…微妙な出来、ってかくどくて少し不満(ぉい
ぶっちゃけ、最初の1、2話だけでも十分だと思ったんですけど、
「俺の羽は、また父親の手に引っ掛かってボロボロになってしまったけど、今度はもっとしっかりした大きい羽を作ってみせるから、俺の隣でその手伝いをしてくれませんか?」が言わせたくて長々と無駄に書きました。
なので、終わり方を決めてなくて、綺麗に終わらなかった…(泣

これで完結です。
お付き合い下さりありがとうございました。

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